女友達
寮の門を潜ると、玄関前にちょうど同部屋のターナ嬢がいた。
何やら大量の荷物を前に困っているようだ。
「どうされた?」
「あ、キリルシュカさん!あの…ちょっと手違いで今身の回りの荷物が届いたのだけど、今日から侍従は寮内には入れないらしいの。それで自分で運ばないといけないのだけど…」
ふむ、必要な荷物は入学までに搬送しておく決まりだ。とはいえ馬車の遅れなどもあるし手違いは誰にでもあろう。
「私たちも手伝おうとしているのですが、これが3人がかりでも持ち上がらなくて…」
ターナ嬢の友人たちも揃って箪笥の前でおろおろとしている。
まぁその細腕と細腰では持ち上がらぬであろうな。
「どれ、私が運びましょう。ターナ嬢は私と相部屋ですし」
ひょいっと持ち上げると、歓声があがる。
「それ、一人で持てるの⁉︎」
「私たち3人でびくともしなかったのに⁉︎」
「さすがキリー様だわ!」
ターナ嬢の友人の1人が妙に熱い視線を送ってくるが、気にしないで部屋まで運んだ。
ちなみに往復して残りの荷物も全て運んだ。ご令嬢方には階段の往復は酷だろう。
「本当に本当にありがとう!キリルシュカさんがいてくれて助かったわ!」
「なに、これから3年間同じ窯の飯を食らう仲間ぞ。これしきのこと気になされるな」
本当に困り果てていたのだろう。ターナ嬢から興奮気味に感謝の意を述べられだが荷運び程度、大したことではない。
「ふふふ…キリルシュカさんって本当に面白い方よね。同じ部屋になれてよかった!わたしのことはぜひターナって呼んでね」
ふわりと柔らかい笑顔を浮かべるターナ嬢。いや、ターナ、だな。
「承知した、ターナ。では私のことはキリーと呼んでほしい。これからよろしく頼む」
「えぇ、キリー!あの…良かったらお茶でもどうかしら?お礼にご馳走させて?」
にこやかに礼を言う姿に、なるほど友達が多いわけだなと納得する。密かに作成しているクロード様のご側室候補帳にこっそりいれておくか。
せっかくなのでと、ターナの友人も交えて寮内にあるカフェテラスにて茶を飲むことにした。
そういえば中等部ではクロード様の護衛ばかりしていてあまりこういった時間はとっていなかったな。
女子の噂話というものも中々馬鹿にはできないものなので、情報収集のためにも今後少しは時間をとるか。
「あの、ところでキリー様はクロード王子の婚約者でいらっしゃいますよね?」
猫舌なのか茶をふぅふぅと冷ましながら聞いてきたのは、子爵令嬢でミニスと言う名だ。茶髪の小柄な少女。なぜか先程熱い視線を送ってきた令嬢だ。
「中等部の頃から気になってたんです!いるはずなのに姿が見えないことが多かったり、でも王太子様は普通に会話されているご様子だったりで…。その、王太子様の幻想上の存在なんじゃないかって噂まであったりして…」
なるほど。クロード様の仰っていた、いまじなりーふれんど、とやらのことだな。
「でも時々お見かけする姿は凄く凛としていてお綺麗で…。こんなに素敵な方が見れるなら、王太子様によって集団幻覚にかけられていたとしてもいいかなぁって思っていて…」
おっと、いつの間にかクロード様が学園全体に幻術をかけていると思われていたらしい。己には婚約者がいるのだという幻術を。
…仮にそんな王太子だとして、自国が心配にならないのだろうか?うーむ、ここはクロード様の名誉のためにも否定しておくべきか。
と、悩んでいるうちに横から救いの声が入る。
「ミニスったら失礼よー。キリーはちゃんと実在する生身の女の子なんだから」
「そうよ。公爵家のご令嬢にとんでもないこと言わないで!」
やんわりと嗜めるターナと、それに追随したのはユミナ令嬢。ミニスと同じく子爵家の令嬢だ。薄い茶髪に眼鏡をかけていてやや真面目そうな印象だ。
「クロード様はこの学園では身分を気にしないとのお考えだ。私も主の意思に従いたい。ぜひ学友の一人として接してくれ」
私にはどんな扱いをしても構わない。クロード様への無礼は度合いによっては許さぬが。
「主って…」
「王太子様は意外と亭主関白?」
「んー?でもさっきは結構ヘタレに見えたような…」
3人ともきゃっきゃと騒ぎだす。花が咲いたようで可愛いものだ。
「そういえば、先程のご令嬢は何だったのかしら?」
ユミナがふと思い出したように呟いた。それにうーん、と首を捻りながらターナがこたえる。
「先程のって…ピンクゴールドの髪の方?…確かに何がしたかったのかしらねぇ」
確かに謎である。ガルシアの兄がどうとか言っていたが、他国の間者だろうか?それにしては手口がお粗末だが。
ふむ、一応だが少し調べてみた方が良さそうかのう。
この後は鍛錬でもしようと思っていたが、彼奴めの様子を探ってみるか。




