今日から始まる寮生活
「男子寮に入ってきてはいけないからね?」
入学式が終わり、今日から始まる寮生活のための移動中。私は早々にクロード様に釘を刺されてしまった。
一応寮自体に少数の護衛はつくらしいが、ある程度自立するための寮生活という目的があるらしく、侍従もつれてはいけないらしい。御身に危険やご不自由がなければよいのだが…。
「学園内は安全だし、そもそも王国は平和だ。心配はいらないよ」
そうは仰るがやはり心配だ…。いつ寝首をかかれるかわからない状況にあるだなんて。
一応前もって密かにお部屋を確認し、いくつか仕掛けを施しておいたのだが、まだ心配だ。
「掛け軸の裏に秘密の脱出路を作っております。こちらがその鍵ですのでどうぞご利用ください。あとお寝床上に紐をつけております。そちらを引いて頂くと天井から檻が落ちてくる仕掛けとなっていますので、就寝時に刺客が現れた際にはぜひ。あと各種仕掛け等の位置をこちらにしたためておきましたのでご活用ください」
仕掛け詳細を記した巻物を制服の胸元から出して、クロード様へと差し出す。
「待て待て待て!なんか今一息で言ったが、とんでもないこと言ってないか!?というかいつそんな罠を張ったんだよ!?おい、クロード!お前からちゃんと言ってやれ!」
ガルシアがまたわあわあ喚きながらクロード様を見やる。全く、図体ばかりでかくなっても中身は成長せぬな。
「き、キリー、今これ胸元から出したよね…?ということはこの温もりは…」
「だぁー!もうこのむっつり思春期め!」
なぜだか頬を赤らめながら巻物を震える手で受け取るクロード様に怒鳴るガルシア。ご本人が許しているとはいえ、相も変わらず不敬なる男ぞ。
「まぁとにかく、だ。部屋は俺と相部屋だし、それに中等部までは王城からわざわざ馬車で通ってたんだろ?その行き帰りを短縮できるんだし、むしろ安全だと思うぜ」
ふむ、まあガルシアの言うことも一理あるな。こやつもいざとなれば肉の壁くらいにはなろう。
「あ、中等部といえば…ロティは元気かい?最近会っていないけど…」
「あ〜、ロティ、あいつな〜…」
ふと我が弟の名を出され、頬をかきながら微妙な笑い顔をするガルシア。なんだその顔は。
「おかげ様で元気にございます。ただ最近闇の血の力…?とか、漆黒の堕天使?とやらに目覚めたらしいのですが」
「は?」
クロード様が私の言葉に目を丸くして聞き返されるが、私自身いまいち弟の言うことが理解できていないため上手に説明できない。ロティの言う闇の血とは一体なんなのだろう。我が公爵家に何か秘密があるのだろうか?あぁ、あとはそうだ…
「怪我をしているわけではないのですが、ずっと左腕に包帯を巻いていて…。魔剣なんとかばばあ?と言って剣を振り回しております。もっともその魔剣とやらはただの祖父の温泉土産なのですが…」
「あぁ…うん。何となく理解した」
なんと!さすがは聡明なクロード様。私の拙い情報でもうご理解いただけるとは!
若干お目が死んでいるというか、生暖かいと言うか微妙な感じではあるが、現在のロティを前にした公爵家の侍従たちもこんな様子になるのできっと的確に察されたのだろう。
「まぁ、そういう年頃だから仕方ないよね…」
「父や母もそう申しておりまする」
第十三人格まであるとかないとか騒ぎ出した辺りで頭の病気かとも思ったが、この年頃にはよくある成長過程らしく、案ずることはないとのこと。
よくわからぬが、お父上様が仰るのならばそうなのだろう。
「ところで、ちゃんと部屋割は確認したか?」
「あぁ。先程の騒ぎの中にもいた伯爵令嬢、ターナ嬢と相部屋らしい。ガルシアもクロード様と相部屋なのだろう?しかと御身をお守りするのだぞ」
「だから危険はないってば…」
私が男だったらよかったのだが、無念である。
と、話しているうちに女子寮の前に着いてしまった。
「じゃあまたな!女子に迷惑かけるなよー」
「キリー、本当に心配せずにね?男子寮になんてこられたら君こそが心配だからね」
せめてこっそり男子寮の前まで護衛しようと思っていた心の中を読まれたのか、クロード様にぐいぐいと女子寮の門へと促される。
仕方あるまい。主の命とあらばおとなしく寮に入らざるを得ない。
「それでは、お気をつけて…」




