その存在を主張したい
入学式は無事間に合い、クロード様は見事新入生代表を務め上げられた。ほんにご立派になられたものだ。
先程の桃色娘は遅刻したようで、教師に怒られていた。
「キリー」
「は。お側に」
式が終わり影に潜もうとしたところを止められる。
「だから、ちゃんと見えるように側にいてくれ」
「はぁ…」
堂々と歩くのは落ち着かないのだが仕方ない。
「キリーの気配がわかるようにはなってきたけど、見えないと独り言言ってる危ないやつに見えるだろう?」
「たしかに…中等部の頃一時期噂になっておりましたな」
あの時は遠巻きにされていたから、それはそれで御身が安全だったのだが。
「今でもたまに君のことを私のイマジナリーフィアンセだと思っている者もいるのだからね??」
「影としては本望にございます」
護衛がいないと油断していてくれた方がよいこともある。
「そ、それに…。見えないと、その…寂…」
「きゃー!」
クロード様のお言葉は、わざとらしい悲鳴で掻き消えた。
「なんだ…?」
「行ってみよう」
あまりクロード様を騒動に巻き込ませたくはないが致し方ない。それに皆に王者の器を見せる良い機会になるかもしれぬ。
「御意」
声のする方に近づいていくと、そこでは長い髪を三つ編みに結った女生徒がオロオロしていた。
まだこちらには気付かれぬ程度のところで歩みをとめ、様子を見る。
「え、あの…?」
あれは確か伯爵の娘、ターナ嬢か。
「どうしたんだ?」
偶然近くにいたらしいガルシアと、その友人らしき令息たちがわらわらと寄っていく。中等部の頃から思っていたが、こいつは男の友人が多いな。
「えっと、その、いきなりこの方が飛び上がられていって…」
ターナ嬢が示す先には、先程の桃色娘がいた。地べたに座って片膝をさすっている。
「いたたたた…。誰かにぶつかっちゃったみたいなんですー」
膝を軽く擦りむいているようだ。
「いえ、ひとりでにジャンプしていったような…」
「そうよねぇ…?」
ターナ嬢とその友人たちが首をかしげている。
ひとりでに?こんなところで鍛錬でもしていたのか?
「あーん、足が痛〜い〜」
間延びした声を上げながらガルシアの方をチラチラ見る桃色娘。
何かを求めているようだが…。なんだ?ガルシアに小間使いの才でも見出したか?
「保健室すぐそこにあるぞ。行ってくれば良いんじゃないか?」
さらっと言い放つガルシア。まぁ血も出てないしな。
「おいおい冷たいなー」
「だから上級貴族だってのに婚約者の1人もいないんだぞー」
周りの友人たちがやんややんやと揶揄う。楽しそうな少年たちだのう。
「俺は卒業後は武者修行に出るから結婚とかいいんだよ!」
まるで強がりのようになっておるぞガルシアよ。
「武者修行??お家は継がないんですか?」
急に立ち上がって詰め寄る桃色娘。怪我はどうした。
「はぁ?俺次男だし。家は兄上が継ぐんだから好きにさせてもらうんだよ、…って足は?」
「お兄さん??怪我で亡くなったはずじゃないの?」
目玉をかっぴらいて驚く桃色娘。失礼な娘だのう。
「いや生きてるよ⁉︎人ん家の兄に失礼だなお前⁉︎」
ざわざわと騒ぎが大きくなってきた。仕方ない、そろそろか。クロード様の方を見やると、こくりと頷かれる。よし。
「えぇーい!皆の者!静まれいい!」
私の大声に周りはぴたりと静まる。
「キ、キリー、ちょ待っ…」
「控えいい控えいい!控えおろーう!こちらにおわすお方をどなたと心得る!」
「まぁ!王太子様だわ!」
「おぉぉ!」
「恐れ多くも我が国の王太子殿下、クロード=フォン=バーレリア様にございますぞ!みなの者!控えおろーう!」
よし、初めが肝心だからな。さ、クロード様。場を温めましたぞ!
…と思い振り向くと、
「あぁぁぁぁ…」
なぜか我が主様は頭を抱えていらっしゃる。はて?
「キリー、お前ハードル上げ過ぎ」
「ぬ?」
なぜかガルシアから呆れた声が上がる。
「あのな、昔っからクロードは友達が欲しい子なんだぞ?こんなことしたらみんな遠巻きになるだろ?」
「しかしもうよいお年ぞ?そろそろ下のものには威厳を見せて行かねばならぬのではないか?」
ひそひそとガルシアと2人で相談をする。
「でもここで学友と過ごして将来の側近を増やすって話だろ?意外と根が暗いんだから、いきなりつまづかせちゃダメだろ」
「ではお主が紹介すればよかろう」
「ばっか、友達ってそういうもんじゃ…」
「全部聞こえてるよ…?」
背後からクロード様にお声がけされる。さすがよいお耳をされていらっしゃる。
「あー、まぁ気にすんなよ。俺たちは友達だからな?な?」
「私は違いまするが」
「え!!」
なぜか打撃を受けたようなお顔をされた。
「いや、そうだよね。そうなんだけど…。え、じゃあ僕の友達って…」
「クロード様、一人称が『僕』に戻っておりまする。もう一人前なので『私』にすると仰っていたではありませんかお気をつけ下さいませ」
私はどちらでも良いのだが、クロード様本人のお考えだからな。
しかし更に呆れたような可哀想なものを見るような目でガルシアが止めに入る。
「いや、お前もうやめてやれ…。オカンじゃないんだからな。こいつにも格好つけさせてやれよ」
「何を言う。クロード様は常に格好良いではないか」
「え!」
頭を抱えておられたクロード様が急にぐいんっと顔をこちらに向けられた。
「キリー、ぼ、僕のこと格好いいと思ってるの??」
「はい。もちろんにございまする」
あの日の御恩は決して忘れておりませぬ。
「そ、そっかぁ〜…。へへっ…」
なぜか嬉しそうなクロード様。
「しかし今のお顔は少し締まりがありませぬな」
「ひでぇ!」
「なんか…王太子様って結構可愛らしい方ね」
「というかちょっと…不憫…」
先程から一部始終を見ていた周りの令嬢令息たちが、なぜかこちらを生暖かい目で見ている。
そして気づくといつの間にやら桃色娘は消えていた。




