入学式
光陰矢の如し、私は15歳になった。
あれから背が伸び凹凸もできた。心身ともに鍛錬も欠かしていない。珍妙な髪はどうにもならなんだが仕方ない。
そして今日は王立学院高等部の入学式だ。どんな人間がおるやもわからぬ。クロード様をしっかりと御守りせねば。
「キリー、君の入学式でもあるからね?影に潜まないでね?」
更に察しが良くなってしまったクロード様に先手をうたれる。さすがの風格だ。
成長につれ背も伸び筋肉もつき、さらにその御人柄の素晴らしさからか女子から当然人気を誇っている。とはいえ誰でもというわけにはいかず、精査が必要なためそろそろ側室選びを本格化したいと密かに思っている。
「また長い話とかあるんだろ?ほとんど中等部からの持ち上がりだからいちいちしなくていいのになぁ」
ガルシアはやたらと背が伸び同年代の男よりも頭一つ分程大きくなった。我が弟子ではあるがこやつは潜むのには向いていない。
「いや、今年は一人だけいるらしいよ。スノウ国からの留学生が」
「へー、どんなやつなんだろ?」
そうだ、入学者一覧に載っていたな。確か…
「きゃー!転んじゃったー!」
どさっ!と飛び込んできた女子をすかさず抱き止める。私の胸で。
「えっ…なんか柔らかい…」
「貴様、気をつけよ!危うく殿下にぶつかるところぞ!」
私の厳しい口調に謎の女子は顔をあげ、がばっと離れる
「え、あれ?悪役令嬢?王太子様は?」
「何を訳のわからぬことを。さては王太子様狙いの女子か?」
この手の女子は絶えぬからな。きちんと精査せねば。
「えっ…そんな、ひどい!私そんなつもりじゃ…」
といいながらクロード様の方を見ている。これはまさにだな。
「まぁまぁキリー、悪気はないんだし、相手は女子なんだから…」
やんわりとクロード様がお止めに入る。さすが御心が広いお方だ。
「悪気があってキリーの胸に飛び込んだのが男子だったら八つ裂きにしていたけど…」
「え」
ぽつりと呟かれたクロード様のお言葉に、謎の女子が固まる。しかしこやつ、桃色の髪とはまた珍妙よの。
「え、えーっと、私、高等部からの編入で、留学生なんです。だからよくわからなくって、その…」
「あぁ、君がスノウ国からの留学生だね?バーレリア国にようこそ。私は王太子のクロード=フォン=バーレリアだ」
うむ、どんな者にも気さくに接する。素晴らしきお方ぞ。
「王太子様…なんですか?ごめんなさい!私ったらとんでもない方にぶつかってしまって!」
いや、クロード様はしかとお護りしたため、ぶつかったのは間に入った私だ。
「スノウ国からきました、マーガレットと申します」
「マーガレット?王太子様がフルネームを名乗っていらっしゃるのだ。貴様も家名を名乗れ。無礼であろう!」
礼儀知らずな小娘が。
「あ…いえ、実は私平民なので家名はないんです…」
「平民?なぜ平民がここに?ここは貴族の子女が通う学園ぞ」
当然の疑問を口にする。なにゆえ平民の娘が留学を?
「そう、ですよね…。平民の私なんて、学園にふさわしくないですよね…」
なぜと理由を聞いているのだが。会話のできぬ女子だのう。
「ようわからんがやる気がないなら帰ればよかろう」
身分云々もだが、相応しくないと思うならば努力するか諦めるかの二択だ。
「やる気はあります!私、やらなきゃいけないんです!」
急に顔を上げて声も張り上げる桃色髪の娘。なんだ、情緒不安定か?
「そうか。ならば励めばよかろう」
「え、あ、はい…」
なぜかクロード様の方をチラチラと見やる小娘。ふむ、やはり目当てはこのお方か?
「クロード様、貴方様に憧れる女子のようです。一言お声がけしてはいかがでしょうか?」
ひそっ…と耳打ちする。
「え…。はぁ、またキリーは…」
はぁ…とため息をつかれながらも桃色娘に向き合う。
「誰にも事情は色々あるだろうから無理には聞かないよ。それに学園の中では身分関係なく友人を作るものだから、あまり気負わずに楽しく過ごしてね」
「は、はい!私、がんばっちゃいます!」
クロード様の優しきお言葉にポッとなる娘御。
「素晴らしきお言葉!さすがは王太子様ぞ!」
「キリー、恥ずかしいからやめて…」
ふふふ、ご謙遜めされるな。
「おーい、よくわかんねぇけど話は終わったかー?今案内貰ってきたけど後5分で受付時間終わるぞー」
ガルシアめ、いつの間にかいなくなったと思ったら、案内を貰ってきていたのか。意外にも側近らしくなってきたのう。
と、いかん。クロード様を遅れさせるなど言語道断じゃ。
「クロード様、失礼」
「へっ」
がばっ!とそのお身体を横抱きに持ち上げる。
「式場まで急ぎますゆえ」
「いや、ちょ、お姫様抱っこは…!」
「よーし、ハンデ貰ったぜ!師匠、競争な!」
馬鹿で無礼なやつめ。負けるわけなかろう。
「キリー、ちょっと…!」
「硝子細工より大事に扱いますゆえ、お任せを」
何やらまだ慌てていたクロード様を抱え、私たちはすぐさま走り去った。
砂煙と目を点にした少女をその場に残して…。
「え、えぇ?えええ??」
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