毒にもなる
お父上様と共に走ってきてみると、そこには困った顔のクロード様と、その護衛に取り押さえられたロティがいた。
ちなみに私1人ならもっと早く走れたが、怪しい動きをするとこの状況は更に悪くなる予感がしたのでやめた。
「ぜえっ…ぜぇっ…!殿下…!いったい…なにが…」
お父上様は滅多に走らぬため、もはや息も絶え絶えだ。大丈夫だろうか。
クロード様はお元気そうではないか。
「ロティお主、恐れ多くも王太子様の毒殺を図ったのか?」
取り押さえられ涙ぐんでいる弟に問う。
「ちがいます!そんなことするわけありません!」
泣きながら叫んでいる。まぁお父上様の命でもなさそうだし、そんな大それたことを一人でしでかす奴ではなかろうな。
「ロティに薬草園まで案内してもらったんだが、丁度管理人がいなかったみたいなんだ。それでロティがせっかく来たのだからと、キリーが普段飲んでいるというハーブティーを出してくれたんだが…」
クロード様が困った顔で説明を始めた。
管理人がいない時に入るなと言っておいたのだが、ロティめ。鍵の場所を覚えていたのだな。しかも勝手に中の植物をとったらしい。
「それが、このハーブ?らしいんだ」
すっ…と差し出してきたのはシキミだ。なるほど、これの花はよい香りがするからこれを渡された侍女は気づかずにハーブとして紅茶に入れてしまったのだろう。
お父上様に内緒にはしているが、私も毒の耐性をつけるため普段から飲用している。
「知らなかったんです…!姉上様はいつも美味しそうに飲んでいるから良いものだと思って…!」
美味しくて飲んでいるわけではないのだが、誤解を招いたか。
「毒見役が匂いで気づいて、すぐに止めてくれたから飲んではいないんだ。ロティも自分で飲んでいたから悪気はないと思う」
ロティにも密かに毒の耐性をつけさせているから大丈夫だったのだろう。
「しかし殿下、それは毒草です!故意であろうとなかろうと、王族に毒を盛るなど一大事です!」
「公爵家といえど見過ごせません!」
クロード様の護衛たちが騒ぎ出す。全く持って正論である。
これはお家存続の危機か。
「息子はまだ幼く何もわかっていなかったのです!どうか、罰するのは親である私を…!」
ようやく息が整ったらしいお父上様がクロード様の眼前に跪く。命と引き換えに嫡男とお家を守るお覚悟か…。
ならば私こそがと思い、素早くお父上様の隣に派手に土下座する。
「き、キリー?」
「王太子様におかれましては!お怒りごもっともにございまする!」
「いや別に怒ってないんだけど…。というかキリー、君そんな大声出せたの??」
常には淡々と喋っていたせいか、妙なところに驚かれるなと思いつつも続ける。
「此度の一件!私めのずさんな管理のために起きたこと!我が父も預かり知らぬことにございまする!ひいてはこの一命をもってお詫びいたしまする故、どうかお許しくださいませ!平に!平にー!」
地面に額を擦り付けると、ざりざりと音が鳴った。
「ひいいい!キリー⁉︎」
「キリー!顔!顔をあげてー⁉︎」
お父上様とクロード様が悲鳴をあげる。
「この場で腹を切りまする!介錯は不要!とるに足らぬこの命ですが!どうかお家だけはお助けくださいませ!」
「キリー!血!おでこから血がー⁉︎」
顔をあげて叫ぶと、額から血が垂れ流れたがもはや些細なことだ。
「これより切腹をいたします故、どなたかナイフをお貸しくださいませ!」
「貸さないよ!貸すなよ!?」
なぜか必死で周りに牽制し始めるクロード様。私のそばにきて懐から出した布を当ててくださる。
「クロード様!せっかくの布が汚れまする!」
「ハンカチなんていいよ!もう…本当に、本当にもう…キリーは!」
はて。どうしてこのお方はこんなに泣きそうなお顔になっているのか。は!もしや
「あの…ではクロード様自らの手で切り捨ててくださると?」
「しないよ⁉︎君の発想どうなってるの⁉︎」
違うのか。ではどうすればよいのか…と考えあぐねていると、クロード様から信じがたいお言葉が。
「今回の件は不問にする。キリーに断りなく薬草園を見に行った僕も悪かったし、ロティも幼く悪気がないのは明らかだ」
「しかしそれでは…!」
護衛が口を挟もうとしたが手で制される。
「これは命令だ。此度の件、全員忘れよ。陛下への報告も無用だ。なかったことなのだから」
なんと…!なんと懐の広きことよ…!!
「ロティを解放しろ。何の罪もない子供だ」
「はっ…」
クロード様の命令により、渋々だがロティを離す護衛たち。
「誠に…!寛大な御心、ありがとうございます!」
「う、うぅっ…!ごめんなさぁぁい!」
お父上様が再び頭を下げ、更に泣きながら謝るロティ。
「このくらいのこと、大したことではない。エイル公爵も忘れてくれ」
そう言い放つ姿はまさに王者の器!
あぁ…!この方こそまさに今生における私の…!
「それよりキリー、早くおでこを手当てしてもらって!」
手を取り立ち上がらされたが、再び土下座する。
「王太子様!その海より広く寛大な御心に感服いたしました!我が公爵家の恩人にございまする!貴方様に助けられたこの命!存分にお使いくださいませ!」
「え、えぇぇぇ⁉︎」
しまった、もう動揺させるつもりはないのだ。きちんとお伝えせねば。
「今よりエイル公爵家が長女キリルシュカ=エイル、貴方様の僕となりまする!」
「いや、君は婚約者でしょう⁉︎」
慌てて私をまた立ち上がらせると、今度は離さないとばかりに強めに手を握られた。
「とにかくおでこの手当て!いいね?」
「はい!」
有無を言わせぬこの圧力。やはりこの方こそ今生の主とすべきお方…!お父上様には悪いが、これより全力でクロード様にお仕えしよう…!
そう胸に熱く固く誓った。
ちなみにそのまま屋敷内に入り手当てを受けている間も、なぜか手を離されることはなかった。
お母上様はこの騒ぎを後から聞いて卒倒しました。
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