黒髪
「ところで、王太子様は黒髪黒目なんですね」
庭園で蝶と戯れながらロティが唐突に言った。
「これロティ、不躾なるぞ」
「いや…いいよ。この国では珍しいからね。みんな直接聞かないだけで気にしているのはわかっている」
ふむ、この国では私にとって落ち着かぬ色合いの者ばかりだからな。
「両陛下も金髪だしね。この色は先祖返り…って言われていてね。曽祖母が黒髪黒目だったらしい」
「ではその方は異国の方だったのですか?」
「そうみたいだね。神殿に現れた聖なる神子だった、という記録が残っている」
神子…?呪い師か何かだろうか?
「でも、初めてキリーに会った時に驚かなかったし、てっきり公爵に言い含められているのかと思ったけれど…ロティアーグの反応を見るに違うようだね?」
そうか、失礼な態度を取らないようにお父上様から厳命されたと思っていたのか。
私にとっては慣れた色合いなので特段気にしていなかっただけなのだが…。
「その…私は自身の髪や目の色が珍妙な物だと思うておりまして」
「珍…?」
言葉選びを間違えたか?まぁとりあえずこのまま続けよう。
「家の者もそうなのですが、陽に反射する色が落ち着かないのです。本当は一日中黒い布を被って行動したいのですがそれは父に止められてしまい…」
「うん、だろうね?僕でもとめるかな?」
そう。手製の頭巾はもっと幼い頃にお父上様に禁じられた。
「次に3つ4つくらいの頃にこの髪をばっさり切り落とした事もあるのですが、その時は母に号泣され…」
「だろうね?お母上様の心痛考えるに耐えないね?」
あの時はお母上様にものすごく怒られた。
「そのほかにも色々試してはみたのですがことごとく両親に禁じられ、今はこの珍妙な毛に我慢して生きておりまする」
「そのほかの手段は怖くてちょっと今は聞けないかな?」
万策尽きて今に至るのである。
「ですので、珍妙ではないクロード様のお髪や瞳を見ているととても落ち着くのです」
「…んんん、嬉しいはずなんだけど、色々気になることが多くて素直に言葉が染み渡らない」
なぜだか複雑そうなお顔をされるクロード様。やはりお考えがよくわからない。
「…まぁ、とにかくキリーといると自分の悩みなんて馬鹿らしくなって吹っ飛んでいってしまうな」
「恐縮にございます」
笑っているから、良いのかな?
「王太子様の髪や瞳、カッコいいとおもいます!姉上様に以前話してもらったブシ…?みたいで!」
そうか、ロティには以前ちらりと日の本の話をしたが、覚えていたのだな。
「ブシの他にも…にんにん…にんにく?とか色々、その物語はみんな黒髪黒目でカッコいいのですよ!」
うろ覚えのようだが。
「ふっ…ははっ!格好いいにんにくって…!はははっ…!」
クロード様は堪えきれずに吹き出したが、笑いが止まらないという様子。この方結構笑い上戸よな。
「…ふふっ、キリーも、僕のこと、格好いいニンニクと思ってくれる?」
「はい。とても格好良いと思います。にんにくとは思うておりませぬが」
見目の良し悪しはよくわからんが、クロード様は以前の茶会でも令嬢方から眉目秀麗と言われていたしな。
だがにんにくではないだろう。
「ふっは!そうか、ふふ、ニンニクでは、ないか!あはははは!」
笑い転げる王太子に慣れぬ公爵家の侍女たちはオロオロしているが、クロード様の護衛たちは慣れた様子で落ち着いている。やはりよく笑うお方だ。
「あはははは!」
よくわからぬのに釣られてロティも笑いだす。なんとも微笑ましい光景だな。
ふむ、しかしそうか。クロード様はにんにくがお好きなのか?
「あの、クロード様がにんにく王子になりたいのでしたら、私めはにんにく姫と呼ばれるようにした方がよろしいのでしょうか?」
「うぶっふ!」
さらに笑い転げるクロード様。とうとううずくまって笑い出した。
「いや、なりたくないよ?ふ、ふふふ…!ニンニク王子って!あはは!…く、臭そうで、嫌かな!ははは!」
「あはははははは!王太子様は!あははは!いい匂いですよ!はははははは!」
王太子と時期公爵の止まらず笑い転げる様子に更にオロオロする侍女たち。
平和よのう。だが、平和すぎてなぜだか落ち着かぬ。
これがまるで嵐の前の静けさのように感じたのだった。
王太子のコンプレックスはこの日どこかに吹っ飛んだもよう




