ご招待
「本日はわが公爵家までお越し頂き、誠に光栄にございます」
王室の馬車からクロード様が降りると、お父上様を始めとした一家全員がお辞儀をした。
「そんなにかしこまらないでくれ。顔もあげて。公爵もせっかくの休日にすまないね」
「とんでもございません」
「それに…」
クロード様はちらりと此方を垣間見ると、私の目の前まで歩みを進めてきた。
ざっ…!と足元に跪き、さらっと私の手をとった。
「婚約の件、いきなりで本当にすまない。でも…受け入れてくれてありがとう」
「恐縮です…?」
何かばつの悪そうな顔をしているが、なぜだろうか。家同士の結婚などそんなものだろうに。
は!そういえばこの国は一夫一妻制と聞いた。1人しか選べぬのならもっと好みの女子を選びたかったのか!それに、クロード様は以前妾も囲わぬと宣言していた。今更ながら後悔して気まずいのかもしれぬ。
「キリー…?」
叱られることを怯えた童のようにこちらを見やるクロード様。間違いない。やはり1人では足りなかろう。
「問題ありませぬ。クロード様の御心、しかとわかっておりまする」
そのままそっ…と握られた手の上にもう片方の手を添え告げた。
「それでも仲の良い夫婦となりましょうぞ」
「キリー…!」
天下人に沢山の女性はつきものなのだから。
安心したのか立ち上がって私の手をさらに握りしめるクロード様。うむ、男たるもの元気が1番だ。お母上様には止められたがやはり女性の10や20人を揃えての宴を今度取り計らおう。
「あれで本当に会話通じているのかしら…?」
お母上が我らの様子を見て不安そうな顔をしているが、大丈夫です。いざとなればの任務もきちんと果たしてみせまする。
と、そこへとことことわが弟ロティが歩いてきた。
「王太子様、今日は姉上様だけでなく僕も一緒に屋敷をご案内いたします」
「これ、ロティ!」
そんな話は聞いていなかったお母上様は慌ててロティを引き戻そうとするが、
「やあ、君がキリーの弟だね」
「ロティアーグ=エイルと申します。姉上様がいつもお世話になっております」
辿々しくもきちんと挨拶をしだしたロティ。
「君ともぜひ仲良くなりたいな。将来の義弟、になるのだものね?」
「!あにうえ様になるのですか⁉︎」
「あぁ。君の姉君と結婚したら僕たちは家族だよ」
「あに…んんん、でも今はまだ結婚していません。」
一瞬落ちそうになっていたな弟よ。まだまだ甘えたがりな童よな。
しかしクロード様の手腕も中々よ。地位を盤石にするために我が公爵家の長女である私と縁を結び、時期当主である弟をも幼い内に手懐けようとは。
「ふふ…ではキリーとロティアーグの2人に案内をお願いしようかな」
「承知いたしました」
「お任せください!」
まずは無難に庭園をご案内しよう。
「庭園をご案内いたします。どうぞこちらへ」
すっ…と手のひらで道を示し、歩きだす。
「あれ?裏山には行かないのですか?ガルシアとはよく行くのに」
ぴしっ…!とクロード様が笑顔のまま固まる
「今日は鍛錬ではありませぬ。それに相手は王太子様ですよ」
まったく。王太子様にお怪我でもさせたらどうする。
「ガルシアと仲が良いのかい?」
張り付いたような笑顔でロティに尋ねる。
「はい!ガルシアは力持ちで、よくおんぶとかして走ってくれるんですよ!」
うむ。鍛錬時には良き重しとして重宝している。
「ガルシアはよくこの屋敷にくるの?」
「いいえ、屋敷ではなくて山で遊んでます。ペットとじゃれたり水遊びしたり」
鍛錬していりだけなのだがロティの口から聞くと妙に微笑ましく聞こえるな。
「やはり先に婚約しておいて正解か…」
「え?何か言いましたか?」
ぶつぶつと呟くクロード様にロティが小首を傾げた。
「いや。では案内を頼むよ」
よくわからないがクロード様は気を取り直したらしく、にこやかに庭園に向かうことになった。
「不安だわ…」
公爵夫人の不安の呟きを残して。
不安は的中します。




