レヴニル「聖女の国、ねえ……」
お久しぶりです、フラグ回収しにきました。
セレナイト殿が運ぶ籠の中。外に目を向ければ白い雲が一面を覆い、現実逃避を許さない。
「ひゅーっ、やるな、お前!カーネスのお気に入りに手を出すなんて!名前なんだっけ?」
キルヘイヴ・フォン・ディメイトス宰相が新しい玩具を見つけたように声をかけて来た。視界の隅では暗雲を背負ったルベンス殿が膝を抱えている。彼、今回結構重要な役どころなんだけど、大丈夫かな?まあ今は放置一択だけどね。
「宰相……。レヴニルです、レヴニル・フォン・ウェストリア。あとリリーは友人です」
「またまた〜」
「アルフ」
まだキャスケットを死守している猫の獣人が茶化してくる。今回の一緒に任務にあたる部下だが、にぎゃっとか聞こえない。僕の靴底に柔らかいものがあるなんて気づかない。ニヤニヤしている宰相への八つ当たりも含んでなんかない。
「ほおー?」
「だから違いますって!」
最近、というよりも定期的にリリーとは関係を疑われているけど、やはり彼女は同性の友人のような気がする。
この外務宰相は、暑苦しくても淫魔であるせいか、なんでも恋愛に絡めようとする。端的に言おう、ウザい。
もう僕疲れたよ。
「にゃにゃ、この極悪ヤロウ!んで、結局箱の中身は何だってんだ?」
這々の体で僕の足裏から尻尾を引き抜いて僕の手の中の箱を指す。白くて飾り気のない、完全に業務用の箱だ。
せっつかれるままに開ける。心なしか全員が見ているような……?
そこには何枚もの魔法陣、それと魔石が沢山。魔法陣は頼んでいたものかな。
おや、手紙が一枚混じっている。
「……色気ないな」
横から手紙を覗き込んでいた宰相が、ガッカリしたように大袈裟に肩を落とした。完全に取り扱い説明書だしね。
えっ、なんか他の魔法陣も混じってるんだけど!?これ、インクからして大分高級だよね!?転移のじゃん!?うわっ、他にも?市販のも混ざってるけど、大盤振る舞いだよ、リリー!!てか使うの?
「そろそろ人間の大陸に着きます。基本的に雲の下は魔素が薄いので、魔力消費は最小限に願います」
耳に心地よい、透き通るような声が響く。セレナイト殿だ。さすが、竜族一の美人と言われるだけある。
「さあアルフ、お前は只の猫だよ」
「ヤダヤダヤダヤダ!返せ!」
アルフの青いキャスケットを毟る。取り返そうとはねるアルフの目の前をゆらゆらさせ、アルフは思ったとおり目先の帽子を追いかける。楽しい、ふふふ。
「ウェストリアさん、ストレス溜まってるんですね」
セレナイト殿、聞こえていたのか、言わないでくれ。
増改築を繰り返したのだろう、聖女の国の、無秩序に広がった大理石の城を見下ろす。比べるのは酷だろうが、魔大陸の城の方がスッキリしていて美しい。
「うげー、相変わらず魔素が薄い!あー、お前ら、人前で使う時は、魔法に適当に呪文だっけ?ソレっぽいのつけとけよー」
宰相がボヤく。まあ僕も同感だけどね。今回爵位持ちなのは宰相と僕とセレナイト殿だけ、しかも竜族は元々魔素の塊のようなもの、人の姿を取れば燃費が跳ね上がる。
後半の指示は、人間は呪文や陣無しに魔法を発動できないことへの配慮だ。面倒だけどね、仕方ない。
「にゃはは、高魔力のヤツは大変だな!……ぎゃっ」
僕が魔素供給用の魔道具を腕につけていると、アルフがさもしてやったりという顔でムカついたので鼻を潰してやった。骨折はさせてない。
「ただのペットが喋るわけないよね?」
「にゃー、にゃー、離せ!に゛ゃん」
「ね?」
「にゃ……」
「二足歩行もしないよね?ん?」
「レヴィ、覚えてろよ……!……にゃん」
ものすごく悔しそうに三下のようなセリフを吐きながら渋々ただの猫のフリをする。ザマァ。
「本日はよくぞお越しくださいました」
聖フランシス王国の、スグニル医師並みに体の弛んだハゲが出迎えた。
表面上はにこやかな雰囲気を崩さないのは、人間とは言えども流石高官、といったところだ。目つきがこちらを値踏みしているのも隠せていればなかなかと言えるが、正直不快だ。
「出迎え感謝する。早速で悪いが、客室に案内してもらっても?」
「ええ、ええ。長旅でお疲れでしょうから。今案内させます」
宰相がいつもの暑苦しさを引っ込めて、慇懃に願った。そんな態度もできたんですね、いつもそうなら尊敬できるのに!
ハゲがベルを一つ鳴らすと、近くからメイドがやってきた。人形のように表情というものがない。怖っ!
普通の人間――僕が知っているのは魔大陸在住の子達だけど、彼女たちくらいの年の子って僕や宰相、ルベンス殿を見たら「キャー!!!」って叫ぶよね?
変だなー?
グネグネと無意味に曲がったり上下する通路を抜けて、豪華な客室に案内される。
うわあ、めっちゃ見張られているじゃん、天井裏、床下、隣室との不自然な隙間。もうちょい工夫しなよ……。
「風精よ」
長い銀髪の青年姿になったセレナイト殿が呪文っぽく唱える。人間のお伽話風に振る舞うとは、芸が細かい。
彼の魔力波動に合わせて、風が巡る。
ピクリと眉間に谷が出来た。演技だろうなあ、竜は人型でも基本能力高いから、潜む人間に気づかないなんてありえない。
「雷精」
近くから轟音と人の悲鳴が聞こえた。盗聴、覗き見用の穴という穴から雷が出ればね、そりゃあ驚くよねー。
「どういうことでしょうか、覗かれてはゆっくり出来ません。他の部屋も全て調べますね」
「はっ、いえ、その……」
あくまでも柔かな声音と表情のセレナイト殿。うーん、普段のミネルヴァ様の尻に敷かれているという噂の信憑性が揺らぐね。
確かに魔力は多くないけど、学長を手のひらでコロコロしてそうだけど。あ、天然なのか?
納得。
「責任者を呼べ」
もだもだと意味のない返事のメイドに宰相が痺れを切らして命じた。
慌てて呼び出したのはさっきのハゲだ。偉いのか、下っ端なのかわかりづらいな。
「申し訳ない。新しく部屋を用意したのでそちらに」
「新しい部屋も穴だらけでしたら、城はいらぬでしょうな。こんな隙間だらけでは、聖女の国の王も安心して住めますまい」
キルヘイヴ宰相は口を開けて笑う。目がね、ちょっと紅くなってるけど。
嫌味に汗を拭うハゲ。
「も、もちろんですとも。早急に修理しなければなりませんな、ハハハ」
幾分落ち着いた装飾の部屋にそれぞれ落ち着く。僕はアルフとルベンス殿と同じ部屋だ。
「まあまあだな」
早速日当たりのいいベッドに陣取って喉を鳴らすアルフ。喋らなきゃね、完全に大きめの猫なんだけど。
「ルベンス殿、どっちのベッドを使いますか?」
「俺は出入り口に近い方がいいな」
出入り口とはいえ、出たところでリビングなんだけど。ま、いいか。簡易キッチンも付いているけど、このメンバーじゃ使わないかな。
リリーやナタリエがいれば美味しい夜食も期待できるのに。
予めすることは決めてある。真夜中に作戦開始だ。つまり、現在暇なので三人でカードゲームをしている。完全に学生旅行気分だ。
「よし、ストレートフラッシュ!」
「に゛ゃーーー!!!」
「クソっ」
ははは、高笑いが止まらない。二人とも顔に出すぎだよっ!
「やってられっか!レヴィ、その帽子返せや!」
「はあ?賭けたのアルフじゃないか、ゲームで僕に勝つんだね」
何ゲームかやったところ、僕が大抵のものを巻き上げてしまった。飽きたのか、ルベンス殿がカードを投げて後ろに倒れる。
「ところでレヴニル殿、その、リリフィアーネさんとはどんな関係なんだ?」
「えっ、親友ですけど」
枕を抱え込んで言いづらそうに問いかけてきた。恥ずかしいのか、耳を倒している。
期待されても答えは変わんないよ。
「そ、そうか。ではブラディーネル宰相とリリフィアーネさんはどうなのだ?」
「上司と部下、主人と侍女ですねー」
ほっ、と息を吐いているけど、見れば分かるだろう?何を今更。
「ルベンス殿、リリーのこと好きなんですか?」
わかりきったことを聞く。普段、冷徹で通っている人が狼狽えるのを見るの、楽しいよね。
ふふ、風の噂で既にフラれたのも知ってるけど。諦めてなかったのか。
「ば、バカを言うなっ!」
「レヴィ、聞くまでもねーだろ、に゛ゃ、やめろ、シャーッッ!」
アルフがルベンス殿に尻尾を引っ張られた。馬鹿だね。え、助けないよ僕は。自業自得じゃないか。
ごろごろからかって遊んでいるとメイドが呼びに来た。
「夕食のお時間です」
僕はさ、どっちかっていうとおまけに近いんだ。強いて言えば警護と諜報なんだよ。
だから近くでこの国の執政官とキルヘイヴ宰相の舌戦には混じれない。いや、頑張れば出来るよ。一応貴族だもん。
でもさー、上辺だけ綺麗な言葉でもさ、中身がスカスカの嫌味と情報の引き出しで殺伐とした会話は疲れる。正直女の子たちの装飾品とか化粧の話の方が中身がある気がしちゃう。冷静に考えるとそれはありえないけどね。
なんでこんなことを考えているかというと、ご飯が不味い。
まず最初に、冷めてる。
その二、なんか新鮮じゃない気がする。
一番大事なのは、魔素が殆どない。
事前情報を思えば、毒見済み、輸入に頼ってるからなんだけど。魔素が足りないだけなんだけど。これは無いわー。
もそっとした見た目だけは綺麗なものを詰め込む。ナタリエとリリーが残すなんて!って言わなきゃみんなみたいに残すんだけどね。
前途多難だよ、まったく。
来週の今日に次話更新します。




