ナハツェル「見送ろうかね」
短いですが。
今夜もまた同期五人で飲み会だ。前回からあまり間は空いていないが。
いつもの予約した小さな談話室に、全員が何かしら食べ物か飲み物を用意して集まる。
「おー、この酒美味いな。このツマミも久々だ」
この間も出たぞ、揚げた大海月。あとリリーが持ってきた清酒。今回のは比較的安くてよく流通しているヤツらしいが、どちらにせよ聞いたことのない酒だ。美味い。
「ネイヴ、また出張なの?」
ナタリエ、私に話しかけてどうする?
「だから俺は母ちゃんに言ったさ、古い友人と飲むって!次は西だぜぇ!」
「それでね、レーベルがねっ、可愛いの!冬至祭でジンジャーマンを焼くの!きゃーっ」
能天気な二人が酔っ払って盛り上がっている。時々物凄く噛み合ってない会話が私の耳に入ってくる。
その一方で、リリーはジャーキーを咥えながら魔法陣を描いている。ハンカチのようなサイズの紙に、スラスラとペンを滑らせている。
「何をしてるんだ?」
リリーは集中しているらしく、全く見向きもしない。が、側で葡萄酒を飲んでいるレヴィが代わりに答えてくれた。
「ああ、今度僕出張でさ。翼を白くできたら良いなあって思って」
「兄君のようにか?」
「そうそう。人間って天使に弱いらしいから」
レヴィが黒さを感じさせる笑みを浮かべる。まあ、事情はわかった。つまり翼を白くする魔道具を求めたのだろう。
リリーの描いている陣を見る。……相変わらずサラサラと描いているが、凄まじいな。魔力を一定に流しながら陣を描いていくのは、妖精種は物凄く苦手なはずなんだが、吸血鬼族の私より上手い。
長い付き合いだが、実際に陣を描いているのを見るのは初めてだ。記述内容をじっくり見るのも。
魔法の効果対象、効果時間、発動条件、終了条件、魔力供給元、次々と条件を書き足していく。
理路整然と事細かく記される魔法陣は、世界が彼女に論理的に解釈されていることをよくよく示している。彼女にとってこんなに世界は複雑なのだろうか?なんだかんだ言って結構適当な彼女には不釣り合いなほどだ。
続いて魔法の内容を記しているのだろうが、しかし意味がわからん、なんでここで光を操作するんだ?
学院では同じ魔法理論を受講していたが、さっぱりわからん。頭を捻りながら考えるが全く理解できん。レヴィも同じらしい、不思議そうに魔法の内容を見ている。
「出来た!」
満面の笑みを浮かべ、レヴィに着けるように言う。
「えっ、僕が検証するの?」
「当たり前じゃない、私に翼は無いし」
それも道理だ。
魔法の終了条件を確認すると、レヴィは大人しく紙を持ち、魔石を魔法陣に当てる。それが今回の発動条件だからだ。するとレヴィの翼は真っ白になる。が、
「髪の毛まで白くなったぞ」
「おー、白髪って珍しいよね。あ、眉毛も白いや」
私はレヴィに鏡を渡した。レヴィはコレでも良いようだが、リリーは猛然と陣を書き直している。
……器用だな、インクに魔力を流しながら液体を球状にして口に運ぶなど。私には絶対できん。
「レヴィ、テイクツーね」
「はいはい」
今度は見事に翼だけが白くなる。
「リリー、ありがとう」
「どういたしまして。まあ、魔道具作りは得意だし」
得意どころではないのだが、そういうことにする。それが一番心の平和に繋がるからだ。
「今回は時間がないから刺繍やアクセサリー化は無理ね、濡れたり破れたりしたら終わり。予備にいくつか描くよ」
「ほんと助かる」
「どうせ天使なら頭の上に光の輪があると良いよね」
なんだか不穏な言葉が聞こえたけど、気にしてはいけない。リリーはいくつか注意点をレヴィに教える。
彼女の細やかさはこういうところでも発揮される。『万能』は伊達ではない。
「出発はいつ?」
「明後日」
「随分ギリギリだな」
レヴィはもう耐えられないとばかりに膝をついた。なんだかんだ酔ってるらしい。
「リリーとナハツェルも来る?二人の見た目なら向こうの人も怯えないし」
「いや無理だろ」
私は直ちに断った。というか、誰がその事務処理をするんだ。私だとか言うなよ?
「主様行かないから」
リリーも一刀両断だ。相変わらず侍女像がおかしい気がする。いや、今回は間違っていないのだが。
「ええー、リリーがいると便利なのに」
レヴィは不満そうに口を尖らせた。良家の子息らしくはないが、彼にはよく似合う。
はてさて、リリーを誘う真意は何処にあるのか。何もないんだろうな、これで。
しかし、誘ったという事実はノインティカが喜ぶだろう……。
そして迎えた出発の日。実に秋らしい空が広がっていた。
セレナイト殿がその美しい白銀の身体を晒している。流石、ミネルヴァ様が一目惚れするほどの神々しさだ。
前回ミネルヴァ様が行って機嫌を損ねたので、今度は夫の方にお鉢が回ったらしい。若い竜族とは思えないほど穏やかな方だしな、問題に発展しづらそうだからだろう。
彼を除いて、キルヘイヴ様を筆頭に外交官三人、護衛兼諜報員六人の編成だ。私は事務官なのだが、急な変更があったのか呼び出された。
横暴だ、私は今日非番で寝坊する予定だったのに。
さあ出発、というところでリリーが現れ、レヴィに箱を投げつけた。
ヒューヒュー、と口笛が鳴り響くが、多分全く色気のない実用的な物だろう。
以前、里帰りしたとかいうときの土産が星屑草の乾燥させたものだった。確かに貴重なんだが、何とつっこめばいいのかわからず礼しか言えなかった。
「ナハツェルも見送り?」
「ああ。いや、追加の書類処理のようなものか」
「大変ねー」
本人たちの間に全く甘さなどないので、何処吹く風である。レヴィも箱の中身は向こうで確認するのだろう、そそくさと仕舞ったようだ。
「いってらっしゃーい」
手を振る。多分、はたから見ると、レヴィに振っているようだろう。リリーのことだから、実際には外交団皆に振っているのだ。
親友たちの為に……なるかどうかはわからないが、とりあえず私も手を振っておいた。
備考
ノインティカはナハツェルの婚約者です。そしてナハツェルさんは目がいい。
ごめんなさい、またしばらく更新開くと思います。




