メリエーヌ「お城案内です。パート2ではないのであしからず」
大変お待たせしました。
今日は見学会です。とは言いましても、学生には明かされない裏の事情というものがあるのです。
どれくらい人の命令が聞けるか。
どれくらい秘密を守れるか。
どれくらい協力できるか。
突発的な出来事への対応能力があるのか。
などなど。この職場体験は、言わば面接のようなもの。最後の条件以外、魔族にとってはかなり珍しい資質ですが。
学院から送られてくる成績と本人の志望を考慮した上で更に篩に掛けられるのです。
これらが満たされないからと言って受からないということも無いのですが。
……まあ私が学生のときも全く気にしていませんでしたし、私が案内している学生も気づいた様子はないですね。
「あっ、ルビィ兄様!」
食事中、弾む彼らの会話を笑顔で聞いていると、ミルちゃんがいきなり立ち上がり叫びました。反応したのは最近よく噂に上るルベンス様です。
ルベンス様に妹がいるという情報はなかったと思うのですが……?
「ああ、従兄弟だっけね」
丁度良いタイミングでシャルヴィン様が補足してくれました。
やはり『乙女の裏側』を通じ集めた殿方の情報は間違っていませんでした。追加する必要はありますが。
「兄様、どうしたんでしょう?」
ルベンス様は力なくこちらに手を振って去っていきました。きっとまだ心の傷が癒えないのでしょう。
私が癒してあげたい……!とは思いませんけど。やっぱり変態は遠慮したいですね。強い方は素敵なのですが。
「メリエーヌさん、何かご存知ですか?」
ヤルム君は鋭いですね。やはり人間の国出身なだけあります。それにこの子は要監視対象です。南諸国のとはいえ、密偵ですからね。
この子は露見していないと思っているでしょうけど、アヴィルデラータの密偵も捨てたものじゃないのです。
たとえ報告書に、「銀麦屋の鳥の丸焼きが美味しかった。金貨一枚。経費で落とす」だなんて書いてあっても、です。
「そうですね〜」
私が悩む振りをすると、ヤルム君が本日のデザートをくれました。わかってますね〜。
「ルベンス様はこの前意中の方に振られてしまいましたの」
特に重要でもないので、素直に本当のことを教えます。
理性あるものは、代償を払って得たものは本物だと思いこみます。そしてそれを助長することで、いざという時に情報をすり替える。
面倒ですけど、これもお仕事ですから。
「誰に振られたの?」
興味津々のシャルヴィン君。ミルちゃんの方が食いつくと思ったのですけど、彼女は混乱してますね。
「リリーさんですよ」
シュークリームが美味しいです。パイシューもいいですけど、クッキーシューも捨てがたいです。
「そんな馬鹿な!」
「あー、身の程知らずでは?」
二人の目線が交差して雷を生じてます。やめてくれないかしらー。二人とも陽魔法適性なのだからすぐに魔法になっちゃうじゃないですか。
とりあえず放置します。面白そうですし。
「ルビィ兄様は素敵なのよ!リリーお姉さまが気付かれてないはずないわ!」
「リリフィアーネさんは東領でも、庶民にすら知られてるそこそこの有名人なんだぞ!俺は最近知ったけど!他領になんて行くものか!」
あら、リリーさん東領でも有名人なのですか?そこそこってなんですか、と思わなくもありませんが、初めて知りました。
「リリー、押しの強い男苦手だよ」
「ルビィ兄様は紳士的ですっ!」
シャルヴィン様がにやにやと情報を投下。確かにリリーさんは奥手そうです。
「ええー?魔族の男は基本的に押しが強いよ?妖精種と鬼人族はそうでもないけどさあ」
確かに。シャルヴィン様の仰る通り、その二種族は性欲が特に薄く、情熱が別方向に流れてますからね。
面白いのですけど、流石に見学の時間が押していますし、そろそろ行きましょう。えーと、希望は警備部隊部署だったかしら。
廊下や階段をいくつか経由して、三階の街が一望できる部屋を目指す。すると、前方から聞き覚えのある声がします。
「珍しいね。レヴィが頼みごとなんて」
「君ほど珍しくはないよ。今夜みんなで飲むだろう?そのときに詳しく話すよ」
さっき別れたばかりのリリーさんです。それとミルちゃんのお目当のレヴニル様ですね。
ミルちゃんも気づいたようで、耳をピンと伸ばし、尻尾を揺らめかせています。
「お二人とも、今大丈夫ですか?」
キリが良かった、というより、二人が此方に気づいて話を切ってくれたので話しかけます。学生たちは先輩が自分たちに気づいていたと気づいているのでしょうか?
……気づいてなさそうです。
「ええ、平気ですよ」
「ちょうど話もひと段落しましたから」
にっこりと微笑む二人。お似合いですねえ、本人たちに全くその気がないのが残念です。気安い雰囲気は消えて、二人とも仕事モードですけど、それがまた妄想を煽るというか、なんというか。リリーさんとブラディーネル宰相の絵も良いですが、此方は癒されますわ〜。
もちろん私も仕事を忘れませんよ?
「これから警備部隊にお邪魔したいのですけど」
「ああ、では僕も案内しますよ」
「では私はここで失礼しますね」
リリーさんは書類を運んできたのでしょう、それをレヴニル様に押しつけて去って行きました。シャルヴィン様とミルちゃんは引き留めたのですけど、お茶の支度をすると言って颯爽と給湯室に向かいました。
「ここが警備部隊の執務室ですよ。……散らかっていますが」
レヴニル様は一応私の後輩なので、私に対しては敬語を使ってくださいます。こういうところもモテる理由でしょう。自分より弱い者を敬うなんて基本ありえませんから。
「うわぁ!ホントに散らかってる!」
「わっ、ケセル、言っちゃダメだよ!」
ケセル君とヤルム君、バッチリ聞こえてますよ?レヴニル様の目の温度下がりましたよ?魔力波動が渦巻き始めました。
「あんのバカ犬……!お前たちもだ!」
「ええー、副隊長っっ!とばっちりっす」
「ごほん」
棒読みの咳を一つ披露。ハッとしたようにレヴニル様は我に返り、ヒラ隊員の方々は私たちを見て片付け始めました。こういう時、自分の美貌に感謝しますね。
「えー、ここでは事件や取調の結果を纏めたり、治安に関する陳情を扱ったりします。あとは僕たち有翼人族などの飛べる隊員の待機室ですね」
誰かが陰魔法の使い手なのでしょう、書類が棚に収まっていきます。ヤルム君とミルちゃんは物珍しげに見ていますね。
「なんでこんなに机が少ないの?十もないよね」
シャルヴィン様が尋ねます。確かに、魔王城にて警備部隊に配属される者は多いですからね。毎年二十は採用されます。
「デスクワークできる物の数しか机は入れません。報告書は一階の出動待機室でも書けますから」
ああ、脳筋多いですものね……。隊長のロドリゴ様がサイドチェストしているのが頭に浮かびます。歯も光る。
「隣は作戦会議用の会議室です。あとは任務を言い渡す時と応接用にも使いますね」
此方は物が無いです。たぶん散らかされないようにでしょう。棚が一つだけあって、厳重そうな鍵がついています。
「その棚はなんですか?」
ケセル君が聞きました。たぶん聞いちゃダメじゃないですか?
「隊長の秘蔵ワインとベーコンです」
「あら、エールではないのですか?」
ロドリゴ様がワイングラスを傾ける図が思い浮かばなくて、つい口から疑問が。
「エールは自宅に倉がありますよ。随分前に行って驚きました」
遠い目をしていますね。説明はひと段落でしょうか。
「質問はありますか?」
「はいっ」
レヴニル様の言葉に、ミルちゃんが勢いよく手を挙げます。
「恋人はいますかっ?」
ミルちゃーん、レヴニル様ちょっとお怒りですよ!?気づいて!
さっきより魔力波動が暴れてます!
『乙女の裏側』会長としては気になりますけど、勘弁してください!怖い!力量差があるから特に!
「いませんよ」
「思い人は?」
「いませんね」
私だけでなく、ヤルム君とケセル君も怯え始めました。脱出しないと!
「れ、レヴニル様、今日はありがとうございました。さ、みんな行きますよ、時間です」
「えっ、でもまだ……」
「行きますよ」
言い募ろうとするミルちゃんに意識してニッコリ笑いかけます。やはり身分差があると効きづらいですね、基本的に獣人系は鈍いですし余計に。
この色ボケ、絶対に不採用です。例え希望したとしても!
備考
獣人、幻獣系は身体的危機には聡いのですが、人の機微や精神系の魔法は効きづらいのですよ
身分差は強さにほぼ直結します。
魔力量自体はメリエーヌとミルで大して違わないのですが、魔法や魔力波動による自身への干渉への防御力は一応子爵家出のミルの方が高いのです。こっちは劣化しなかったっぽい。
あと、これぐらいじゃ即不採用にはならない。
次話は一週間後です。
たぶん。




