シャルヴィン「お城探検隊パート1」
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今回はちょっと長いですよ~
今日は一日社会科見学だ。将来魔王城に勤めることを視野に入れている学院生が、本日魔王城を訪れる。
学院の校舎よりも歴史のある城の廊下を、ケセルエーレンとヤルムと並んで歩く。といっても、大広間までは他の子とも並んでるわけなんだけど。
「な、シャルヴィンもやっぱり公務員志望か?」
「まーね。母上も父上も若いし、領政の方は人が足りているから」
一番の理由はリリーがいるからだけど。
「ヤルムは国に戻るんだろ?今回はなんで参加したの?」
僕は好奇心に目を輝かせて、きょろきょろと周りを見るヤルムに問いかけた。
「こんなに古いお城、人間の国にはほぼないし、あっても滅多に入れないんだよ!それに、お仕事もちょっと興味あるし。お師匠様にくっついてても、魔術塔くらいしか入ったことなかったから……」
ヤルムは話していてさっきの自分を自覚したのか、ちょっと頬を赤くした。
「へえ~。オレたちにとってはそんなに珍しいほど古くはないよな~。公爵家の城は魔王城より古いし」
「そうなの!?」
「うん。北の玻璃城、東の珠樹城、南の天龍城、西の夜見城と言って、観光名所だね。事前に申請が必要だけど」
「珠樹城は、ホントにすごいんだぜ!植物に飲み込まれた、魔法の城!俺はそっちに勤めたい……!」
エルフの故郷自慢は、始まると長い。でもヤルムはニコニコ聞いている。
ま、僕は天龍城が一番好きかなあ。大きな湖に半分沈んで、離発着に便利な城なんだよなあ。
「すごいんだねえ。長期休暇に一回行ってみようかな」
「三人で行こうよ!僕も全部は行ったことないから、楽しみ!」
冬の休暇が楽しみだ!
そうこう話しているうちに大広間に着いた。正面の玉座の上にはアヴィルデラータの国章がかかっている。四つの太陽と、その中心に三日月がかたどられている。
玉座前の段状の部分に、最近ちょっとご機嫌なトートホテプ副学長が立っている。
「えー、皆さん、これから魔王城の職員の方に案内して頂きます。それに当たって四人組を作ってください。四人組になり次第、くじを引いて、担当の職員さんを決め、順次見学をしてください」
四人かー、一人足りない。きょろきょろとゴブリンよろしく周りを見る。
「どうしよっか~、一人余るね~」
高い声が耳に入ってきた。左斜め後ろ一・二メートルと見た!
すかさずぐるんと後ろを向き、声を掛ける。
「僕たち三人なんだ。一人こっちに来ない?」
必殺っ、天使っぽい微笑み!!コツは魔力波動をぶわっと広げることです。
「きゃ~!喜んで!じゃ、私が抜けるわ」
「ちょっと、あたしが行ってあげるわ!」
あちゃー、喧嘩になっちゃった。女の子ばかりのグループだった時点で諦めればよかった?
あ、でも一人だけぽつねーんとしている子がいる。クリーム色の毛の、妖狐族、かな?
「ね、君。一緒に行こうよ」
「えっ、でも……」
僕たちをそっちのけで言い争う――魔法が飛び出しているので、もはや決闘といえるかもしれない――を困ったように見た。
しかし、ケセルとヤルムも説得に乗り出す。
「放置しようぜ。オレは早く見学に行きたい」
「あの子たちじゃ、シャルヴィンを怒らせるだろうし」
まあね。僕って母上が一目惚れした父上に似て美形だし?頭の出来だって神童って言われるくらいだし?何より魔力が侯爵級だ。もう、僕ってば将来性抜群!モテるのも致し方ないよね!
「あてっ!」
何故かケセルに叩かれた。
「まっ、行こうぜ」
ケセルが歩き出すと、彼女は諦めたように僕らの後についてきた。
魔族だもん、やりたいようにやるのが一番。なのに、女の子はなんでそんなに他人を気にするのかな?僕の脳ミソをもってしても分からないね。
「皆さんを案内させて頂く、メリエーヌと申します。本日はよろしくお願いしますね」
にこやかに自己紹介したのは水妖族のキレイなお姉さんだ。
ちぇっ、リリーかもって期待していたのに……!
内心でケチをつけているとニッコリと微笑まれた。
「何か?」
「いえ」
なぜバレた!?冷汗が背中を伝う。
案内役に不満を覚えたのは僕だけみたいだ。ケセルは耳をピクつかせているし、ヤルムも若干頬を上気させているし、女の子――ミルちゃんも尻尾がゆらゆらしている。
「皆さんは、見学を希望する場所はありますか?」
メリエーヌさんはおっとりと尋ねた。
「僕は全体を見たいかも。あ、リリーには絶対会いたいな」
「オレは演習場と薬草園が見たいです!」
「僕は研究棟を見てみたいです」
「わ、私はウェストリア様――警備部隊を見学したいです」
全員が欲望を隠すことなく希望した。
メリエーヌさんは苦笑している。
「わかりました。では、城を万遍なく見学しつつ、希望に挙がった場所は長めに見学の時間をとりましょう」
デキる女の人って感じだな~。
母上もデキる女の人に違いはないんだけど、二次災害が悲惨だからねっ!被害は一点に集中するけどねっ!
魔王城を甘く見ていた。
今はメリエーヌさんも所属している事務棟を訪れているんだけど、書類がひとりでに担当者のところに飛んでいくのだ。頭上を紙が飛び交っている。
「うわー、魔力が潤沢にないと出来ません。故郷ではありえないです」
「学院でも見ないですよね?というか、皆さん陰魔法使いなんですか?」
ヤルムとミルちゃんが驚きの声を上げていた。
「この部屋自体が魔道具になっているんですよ。紙に触れて魔力を乗せれば、思い描いた人に届くのです」
他の部屋には書類が多ければ転送陣を使うんですよ、とメリエーヌさんが少し自慢げに胸を反らした。たゆん。
ケセルとヤルムが思わず目で追う。あ、ミルちゃんもだ。
次は研究棟だ。薬草園も付随しているらしい。
「わ~、懐かしい!精霊草が植わってる!千年樹も!」
ケセルがはしゃいでる。僕にはただの雑草と木にしか見えないんだけど。
そこに楽器を携えたつなぎ姿の妖精族が現れた。
「ケセルエーレンやか。元気だっけが?ままさでっちりけとるか?おがったにゃー。ヒューゼラキアは達者もんにしてるかの?おんしさんも植物の声さ聞こえたなろ?城さ来ないが?」
何語?え?魔大陸で意思疎通不可能なんてあり得な――
「ウェーアヌヌエラ、久しぶりです。元気だし、飯も食ってるし、身長は……十五年経ったし、伸びてなきゃオレも困ります。父さんは死んでないですよ~。魔王城には今のところ勤める気はないです」
ケセル!?わかるの!?というか、敬語使えたんだ!?
「そいづぁぶじょーほう。ま、勉強さきばるだーにゃ」
「はい」
僕たち四人(ケセル除く)は高度な鼻唄と伴奏とともに去る妖精族の青年を見送った。
「今のが妖精語……?」
いや、違うから!どう考えても違うから!ミルちゃんしっかり!
あまりの衝撃に呆然としていると、後ろから声が掛けられた。
「お~い、そっちに実験体が逃げたよ~」
振り返ると褐色の美女恋茄子(泣き黒子あり)が物凄い色気を振りまきながら走ってきた。
腕(根……?)を内側から外側に振って内股に爆走中だ。揺れる。何が、とは言わないが。
「ふっ……勝った」
何が!?
ザンッ!
あは~ん
「ふぅ、またつまらないものを切ってしまった……」
ホントにな。
目の前にあるのは体液(?)をまき散らしピクピク痙攣している恋茄子と、ククリ刀の血糊(?)を掃うメリエーヌさんだ。
何が起こったのか(ry
「皆さん、丸腰では魔王城に勤めることは出来ませんよ」
「「「サー!イエスマム!!」」」
僕を含めた男三人は声を揃えた。
はっ!僕は何を……。
さっきのククリ刀はどこからどこへ?
「女には秘密がいっぱいあります。訊くなんて男性として最低ですよ?」
「「「「……」」」」
絶句していると、今度は正統派の妖精族と小太りの亡霊族の男性がのんびりやってきた。
「いやあ、失敗作ですねえ」
「まったく、僕が協力したにも関わらず。情けないよね」
来るの遅くない!?
「ああ、メリエーヌさん。お手数おかけしました」
「いえいえ。被害もありませんでしたから、お気になさらず」
「おや、その子たちは……ああ、そういえば社会科見学でしたか」
「ちょっとスグニル、もうボケたの?朝の城内放送で言っていたよ」
人を小馬鹿にしたような話し方をする妖精族の青年とスグニルという亡霊族は仲がいいみたい。
「まあ、人間ならボケても不思議ではない年ではありますねえ。ごほん。医療棟と研究棟の見学をするのでしたら案内しますよ」
「では、お言葉に甘えて」
「えっ、サリステルさんって、あのサリステル様ですかっ!?」
消毒薬の匂い漂う医療棟の廊下で、ケセルが素っ頓狂な声を上げた。
「ケセルさん、どうしたんですか?」
ミルちゃんが首を傾げている。たぶん僕も傾げている。
「二人とも、これが興奮せずにはいられないよ!サリステル様はグリニースト家の傍系で、東では知らない人などいないってくらい有名な楽師なんだ!ここ五十年、全くコンサートを開いてなくて、ファンは今か今かと次の上演を期待しているんだ!」
褒められた当の本人は気障ったらしくその長い髪をかき上げている。ドヤ顔だ。むかっ。
「気分がいいから一曲披露しよう!最近開発した情緒不安定促進効果のある新曲、『とっておきのタルトが冷蔵庫から消えたとき』」
稀代の楽師と言うのは伊達ではないようで、彼の指が竪琴の絃を弾いた瞬間、映像が脳に強制的に流れ込む。
軽快に弾む高音。
有名な洋菓子店で、いつもよりちょっと高価なタルトを買い、るんるん気分で家に帰り冷蔵庫にしまう。
一瞬、音が消え、重低音が不規則に交差する。
夜に、さあ食べようと思って冷蔵庫の戸を開け、包装を解くと――そこには何もなかった。
僕たちは、みんな涙せずにはいられなかった。
研究棟と医療棟の見学は、特筆するようなことはなかった。残念なことに。
僕たちはその医療棟を通り抜けて訓練場にやってきていた。訓練場の端には見知った妖精族の女性がいた。
「あら、メリエーヌさんにシャルヴィン様?それとミル様とケセルエーレンくんとヤルム君ですよね?社会科見学ですか?」
「その通りです、リリーさん。お知り合いでしたの」
「ええ。生徒です」
ニコニコと微笑むリリーに僕らは絶句した。普段なら僕はリリーに飛びついたところなんだけど、驚きのあまり動けない。
ミルちゃんはまあ貴族だし、夜会で仲良しなのかもしれないけど。(ちなみに僕はまだ成人していないので夜会には行ったことがない。)ケセルやヤルムを認識して覚えていたなんて!
「皆さん運がいいですね。今日は警備部隊と近衛部隊の一部の訓練に主様がストレス発さ……参加なさるのですよ」
危険なのでリリーの後ろで見学するように指示される。
「リリーお義姉さま、なんで危険なんですか?」
ミルちゃんは無邪気に尋ねた。って『リリーお義姉さま』!?
リリーはちょっと雰囲気を引きつらせて、見ていればわかりますよと告げた。
ややあって僕と張るような美貌の宰相が現れた。
宰相対その他という乱戦形式を行うようだ。
僕は眉を顰めずにはいられなかった。この兵力差は僕では厳しい。
両者の陣が整ったところで、リリーがその鈴のような声で、開始の合図を出した。
「すごい……!」
「カッケー!」
とりどりの光が宙を飛び交い、卓越した剣技が振るわれる。
口惜しいけど、カーネトリアスは警備部隊と近衛部隊の連携の隙――普段一緒に活動しないし、元々個人主義の魔族は集団戦が苦手――を巧みについて翻弄している。
「まあ!主様楽しそう!よかった、今日も定時にあがれそう」
リリーはやっぱりあいつが好きなのかな……?ちょっと悶々としていた時。
「きゃっ!!」
ミルちゃんの目の前で雷が弾けた。優しいリリーは彼女におっとりと声を掛ける。
「ミル様、大丈夫ですか?結界を張っているので平気だと思うのですが」
「あ、はいっ。ちょっと驚いただけです」
「申し訳ありません。主様、戦闘中は見境がなくなってしまうのです」
リリーは申し訳なさそうに謝るが、僕はすごく吃驚した。魔法の気配が全然しなかったから。
よくよく神経を尖らせてみると、なんとリリーの魔力が、城の側面まで覆っていた。
「!?」
「シャルヴィン、どうかしたのか?」
「何でもない」
そうこうしているうちに、兵士たちはドンドン倒れていく。ドミノのようだ。虚しい。
四半刻も経たずに、カーネトリアスは勝ってしまった。
「お疲れ様です、主様」
「うむ。む?」
「社会科見学ですよ」
「ああ、あれか……。懐かしいな」
なんだか、目の前の主従の阿吽の呼吸に傷つく……。
打ちのめされた気分で二人にお礼を言い、僕らは食堂へと案内された。お昼ご飯は虚しさを感じる美味しさだった。まる。
実は少し前にコッソリ短編を二本投下していまして。そちらもよろしければご覧ください。
厨二っぽい魔王様の優雅な一日 http://ncode.syosetu.com/n6539dm/
『美食家のためのモンスター図鑑』 http://ncode.syosetu.com/n6544dm/
そして!完結済の長編も一本今日から今月末まで連投します!ものすごくシリアスですけど、こちらもよろしければ是非。
白い密葬 http://ncode.syosetu.com/n9928dm/




