スグニル「クックック……フフフ……アーハッハッハ」(笑いがとまらないようだ)
地味に初期から登場していたのですが、覚えておりますかね?
……正直作者、キャラを無作為に作りすぎてて書き分けが辛いです
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陽光に照らされた、研究棟の一角、医務課の中庭。そこで私は草むしりをしていた。生前であったら、でっぷりとした腹がつかえて作業は捗らなかったに違いない。
何の因果か魔族として新しい霊生を歩み始めた。死んでまだ数年だが、限られてはいるものの魔法が使えるようになったばかりか、魔王に仕えている。
しかし、人間だった時は禁じられていた研究ができるのが素晴らしい。魔族は探究に関して、かなり理解がある。
生国の喧しさったらない。罪人など、解剖しても良いだろうに。
「ふん」
思い出したらイラっときた。魔法――といっても種族特性の念力――でぶちぶちと雑草を抜いていく。魔法が使えたら、灰にしてこの庭の肥やしにするのだが、生憎使えない。亡霊族は元々剣も魔法も使えない人間で、使えるのは種族特性の念力だけだ。実体はないが物語のようにすり抜けたりもしない。
庭に植えてある幾つかの薬草――一般には毒草とされているものもある――を毟る。あとは温室を回って実験用の薬を作るとしよう。
「やあ、スグニル。精が出るね」
「おお、サリステルさん。調子はどうです?」
「まあまあだね。晴れているから音の乗りはいいよ。よく響く」
温室に生えている大きな樫の樹に腰掛けて小型の竪琴をポロン、ポロロンと爪弾いている妖精族に声を掛けられた。実に絵になる……実際国宝には妖精が琴を弾く絵があったりしたが、これを見てしまうと安っぽく感じてしまう。
「それはいい。貴方の機嫌がいいと、植物も機嫌がいいですから」
「まあね。そうそう、精神を不安定にしそうな曲ができたんだ。聞いてく?」
「是非に」
精神分析。心理学。
死んで初めて知った学問だ。四百年ほどを生きたサリステルさんでも知らなかった用語を、まだ二百年ほどしか生きてない(人間からすれば長老を通り越しているが)リリフィアーネさんがなぜ知っているのか。それは定かではないが、大いなる未知の前には些細なことだ。
感情の源泉たる精神は、恐らく魔法能力に深く影響しているはず。私を含めた亡霊族は精神体に魔力が溜まったものとされているし、古い魔法は祈りという形式で、遠い昔は魔法に陰陽の区別などなかったはずだ。
今も魔族は、言語理解という魔法は常時使っているが、誰も疑問に思っていない。些細で当然の魔法だからだ。外国語で苦労した私には、信じられないことだが。
サリステルさんが奏で始めた音楽は、気持ち悪かった。小刻みに変わるリズム。体に響く低音。時折悲鳴のように混ざる一瞬の高音。しかし不思議ときいているのが苦痛ではなく……怖いもの見たさ、だろうか。
いくら不気味でも、音楽家の奏でる旋律は素晴らしく、気づけば手を打っていた。凄まじい。
しかし、サリステルさんはどこか困惑気味だ。
「しまったなあ……」
「どうしたんです?」
「見てよ、植物が元気をなくしちゃった」
しょぼーんととがった耳を心持ち下げる様子はとても和む。
「では、元気の出る陽気な曲を弾いては?サリステルさんが一番植物を喜ばせられると思うものを」
「それもそうだね。スグニル、薬草の採取なら曲の後の方がいいよ。僕の演奏を聴き逃すなんて、人生の損失だからね」
「そうですね」
妖精種に口ごたえはしてはいけない。
これは私の亡霊人生で学んだ最も大切なことの一つだ。
勿論、演奏が素晴らしいのは本当だし、演奏後の方が質のいい薬草が取れるから、提案を受けるのは吝かではないのだが。
止まったはずの心臓が動き出すような英雄譚が幕を下ろし、思わず拍手する。そしてしばし余韻につかって薬草を採取した。
騎士や文官の治療によく使う補充分の薬草を手際よく採取し、日陰に干す。
温室の植物が季節に関係なく育ち、人間の大陸産のものはおろか、野生のものとも比べ物にならない効果をもたらすのは、ひとえにサリステルさんたちのような、植物をある程度操れる緑の声、植物の声が聞こえる緑の耳と言う妖精種の珍固有特性持ちの薬師や庭師のお陰だ。彼らによって品種改良や土壌改善が行われ、常に質の高い薬草が育てられている。因みにサリステルさんは楽師兼薬師だ。
「それではサリステルさん、私はこれで失礼しますよ」
「うん、またね。……あ、スグニル、チョット待ってよ」
いつものようにあっさり見送るかと思われたサリステルさんは、何やらゴソゴソと鞄を漁った。取り出したのは、よく使う薬瓶だ。
「忘れるところだった。これ、恋茄子の突然変異を処理したものなんだけど、研究に使うかい?」
「是非に!」
中にはぎっちりと恍惚の表情を浮かべるショッキングピンクの干からびた恋茄子が詰まっていた。
「ふんふふ〜ん」
年甲斐もなく鼻歌が漏れる。何を作るかを考えるだけでも心が躍る。変異種を混ぜると、普通より効果が高かったり、考えられないような反応を引き出したりするからだ。
せっかくだから、もう用済みの八咫烏のホルマリン漬けも使えるだろうか。
「アッ、ラメェ、ヒィ」
「イヤァ、アンッ」
恋茄子を適当に手で割り、薬研を上下に動かし、ごりごりと粉末にする。やはり恋茄子の変異種なだけあって、普通の恋茄子とは違う破砕音をあげている。実に興味深い。
「し、師匠……?」
声のした方を見れば、鳴き声が漏れていたのか、恐る恐る私の研究室の扉を開けた小人族の弟子が不思議そうに扉の隙間からこちらを見ていた。
「おお、アッジ。どうかしましたか?」
「いえ、その、誰かの喘ぎ声が聞こえた気がして……」
言葉尻はもにょもにょと聞こえなくなっていった。まあ変わった鳴き声だし、女性を実験台にしていると勘違いしたのであろう。まったく失礼な弟子だ。女性を使うときは防音の魔道具くらい使う。
アッジは勘違いしたのが恥ずかしいのか顔を赤くしている。
「それだけですか?」
「はっ、あの、ニグニス先生が戻りました。これからこちらに来るそうです」
「そうか、ありがとう。アッジ、悪いけど実験用の公鼠を五匹くらい持ってきてください。あと万能薬も」
「わかりました!」
小柄な彼は扉の陰でビシッと敬礼して素直に繁殖室に向かった。
「なにしてるの、兄さん」
機嫌よく乳鉢で刻んだ美男葛の実や鹿子草の根などをすり混ぜていると、後ろから音もなく忍び寄った弟に声を掛けられた。私たちは兄弟と言っても驚くほど似ていない。私はたぷたぷ、弟はひょろひょろ。幼い頃は一卵性の双子というだけあって鏡に映したように酷似していたし、双子が忌み嫌われる聖王国生まれの私たちは交互に家の外に出された。成長してからはニグニスが引きこもって研究し、私は宮廷医師として表で活躍していた。まさか亡霊になることまで同じとは思わなかったが。
「変異種の恋茄子が手に入ってさ。今はよく使う鎮痛剤入りの傷薬用の軟膏を作っているよ」
乳鉢の中身を小さな鍋に移し、八咫烏の爪、砕いた双頭蛇の鱗と肝――デューク・イルルサウザン産の最高級品――と夕陽豆からとった油をいれ、火にかける。……普通の軟膏なら、ここで暗いオレンジになるのだが、恋茄子が変異種だからか、何とも言えない灰色がかった肌色になった。
成分が飛ばないが油に溶けだす温度を保ち、十分煮たところで油だけを取り出して大鷹蜂の蜜蝋を溶かす。後は容器に入れて固まるのを待つだけだ。色は桃色に変化していた。
「にしても、ここはいいね。研究のために規制品も結構使えるし、薬草の質も良い。死んで良かったと思うよ。引きこもりはなかば趣味だったけど、やっぱり窮屈だしね」
「やっぱりそう思うよな」
私とニグニスは顔を見合わせてよく似た笑みを浮かべるのだった。
「思ったよりまともな色に落ち着いたけど、効果はどうかな?」
わくわくするのはニグニスも同じようで、アッジの運んできた公鼠を早速切りつけた。手早く傷口に塗り込む。すると、普通よりも早く効果が表れ、みるみるうちに傷がふさがっていった。アッジもびっくりしている。
「素晴らしい!後は臨床だけだね、兄さん」
薬の効果にニグニスもご機嫌だ。
その時扉が壊れそうな勢いで開け放たれた。
「先生!急患だ!早く騎士の鍛錬場に来てくれ!」
「おやおや、丁度いい。哀れな子羊がやって来たようだ」
はてさて、患者(尊い犠牲)はいったい誰でしょうね?




