トートホテプ?「くわばらくわばら」
遅くなって申し訳ないです……
ネタが……からっけつでして……更新間隔これから開きそうですorz
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白髪の混じりはじめた灰色の髪の初老の男性は三つの目を細め、執務室の大きな窓から外を眺めていた。口元は微かに弧を描き、口角に薄い皺ができる。
「ふふっ、相変わらずですねぇ……」
彼の目の前には色とりどりの閃光が走り、ぶつかり合う甲高い金属音が響く光景があった。一般的な感性の持ち主ならば、恐らく口をあんぐりと開け、目は零れ落ちそうなほど見開かれるだろう。
人間に比べれば圧倒的に魔法に優れた魔族といえども、魔法と剣術をここまで巧みに使いこなす者は多くない。
もっとも、カーネトリアスの場合、その巧みさ、器用さは戦闘に限られる。……魔道具は碌に扱えず、彼が学生のときの魔道具実習ではE評価であったが。
「懐かしいですねぇ……そう思いませんか?」
「なんだ、気づいてたのか?」
紫檀の扉の前には、不敵な笑みを浮かべた朱金の髪の美女が佇んでいた。形はいいが、些かつり目がちの金の瞳が、悪戯っ子のように煌めいている。
先ほどまで、その部屋に存在しなかったはずの――部屋はおろか、王都にすらいなかったはずの人物だ。
「学長、いらしていたんですね」
「まあな」
「やはり息子さんが心配ですか?」
「ば、バカを言うな!わたしは兄弟たちの様子を見に来ただけさ!」
まったく、素直じゃない。こういう所はまだ子供ですねぇ。兄弟――現魔王陛下及び幼馴染の宰相たちを心配しているというのも、嘘ではないでしょうけど。
あの子たちは、皆強烈でしたねえ。慣習に則って末の候補が成人するとまとめて学院に入学するわけですが……よくもまあ、国が今滅亡していないと思いますよ。それにしても、座学が全くと言っていいほどできなかった末っ子のカイゼルストが王位に着くとはおもいませんでしたが。いやはや、くじ引きは恐ろしい。
「父君の心配は良いので?」
「わたしに文句をつけるような奴のことなんて知らないね」
吐き捨てるように言う。まったく、先代魔王親子の不仲も相変わらずですね。まあ、先代魔王陛下も、娘には非情になれなかったのでしょうけど。娘を渡したくなくてソヨレーユ現男爵――セレナイトを殺しにかかったのだから。その結果娘に完全に敵視されたのはもはや――喜劇でしかない。
「論理的に考えられない奴は嫌いだよ。畜生、嫌なことを思い出してしまった。聖王国連合は、行かなければよかったよ!」
そうだろうなあ、と思い相槌を打つ。聖王国連合は聖人信仰が強い。構成国はそれぞれ伝説の勇者一行のメンバーの名を国名に採用し、魔族を目の敵にしている。
それは遠い昔、私たちからもそれなりに昔だと感じられる五千年ほど前に遡る。
今の魔大陸の四隅で四つの氏族はじわじわと勢力を拡大し、ついに当時未知の領域――大陸中央、現在の王領にほぼ同時期に進出した。そこでそれぞれの氏族――妖精種、獣人種、魔人種、不死種――の長が正面衝突したのだ。その戦闘の余波が世界を震わせた。嵐、地震、津波、噴火、あらゆる天災が一瞬の内に起きた。
人間たちはその対応に追われた。
ただでさえ数が少なかった人間の魔術師たちは激減した。そして追い打ちをかけたのが飢饉だ。貴族でさえまともな食料が手に入らず、若い体力のあった見習いばかりが生き残り、難解な魔法の知識はきれいさっぱり失われた。
ここまではまあ、魔族のせいにされても仕方のないところ。さらに悲惨なのは約千年前、東の大陸のある当時東の大陸で最も魔術の発展していた国が、世界旅行中の竜族を怒らせ、そのあたりを焼き尽くした。どうも、その竜が気に入っていた少女を殺したらしい。それだけにとどまらず、疫病が猛威を振るう。そして四千年の間にどうにかそれなりに発展していた魔術が、また水の泡になったのだ。もはや呪いである。疫病に関しては、魔族は何も関わっていないにも関わらず、当時の東の大陸の有力者たちは疫病を魔族がもたらしたと吹聴し、人工的に勇者を作り出して殺し、疫病が終息する兆しが見えたところでと魔王が討伐されたと言い、民衆を完全に支配下に治めた。以来、東の大陸の者は総じて魔族蔑視がひどい。
ちなみに、南の大陸も千年前に東の大陸の難民を受け入れたせいで疫病が運ばれ、やはり魔術の知識は散逸した。
学長は、先日の南領拉致騒動の大本である聖フランシス王国に、外務担当の宰相――彼の国の失態を素知らぬ顔でのらくらとかわすのにいい加減切れた――に請われて仕方なく威圧外交を行ったのだ。いくら彼らが竜族に過剰に怯えても、変身してしまえばただの美女に見える。魔族蔑視も女性蔑視もまかり通る東の大陸で、さぞかし不快な思いをしたのは目に見える。おそらく、妾にしてやる、くらいは言われたに違いない。羨望や嫉妬、畏怖などを、彼女は気にも掛けないが、バカにされるのだけは大嫌いだ。魔族は大抵そうであるけど。彼の国で彼女を抑え込んだキルヘイヴは流石当代きっての女誑しと言えるだろう。
「あいつら、わたしには旦那がいるのに気色悪いくせにぶよぶよのくせにだるだるのくせにつるつるのくせにわたしが屈するとでも思っているのか、あのうんこガマガエル!キルヘイヴもなぜわたしを止める!自分は人間の女を好き放題食っていたくせにあの下半身ゆるゆる野郎!」
まあ、我慢しなければいけないと理解していても愚痴が止まらないのはわかるが、流石にこの言葉遣いはない。……キルヘイヴには後で注意せねば。
「仮にも令嬢なのですから……」
「ああん?」
「男爵夫人なのですから、お淑やかにしませんと。セレナイトに嫌われますよ」
「それは困る!」
顔を髪と同じくらい赤くし照れつつも、わたわたと慌てて窓から飛び出し、バロン・ソヨレーユへ飛ぼうとする学長を捕まえる。この空気を操る魔法は実に便利だ。リリフィアーネには感謝しなければ。
それにしても、結婚してからの学長は、本当に扱いやすくなったなあ。学生の時分には、その圧倒的な魔力と知略によって教員も含めて誰も逆らえなかったが、やはり恋というのは素晴らしい。まあ、本人のやりたくないことをして溜まったストレスは全て人身御供にぶつけられるのだが。いやあ、実に素晴らしい。
ちなみに。
ミネルヴァは面食いである。
さらにどうでもよいことではあるが、ミネルヴァがセレナイトの美貌にくらくらになったのは、冬支度を済ませたあとの収穫祭における竜族の神事の時である。
純白の鱗に覆われ、光を弾き、知性溢れる蒼い瞳を煌めかせ、まばゆいばかりの光を操った姿は美しすぎて目が潰れるかと思ったとのこと。最初は先代魔王陛下――父親に連れられ渋々参加したそうだが、そんなことは自分や母より美しい同族を見てどうでも良くなったらしい。ちなみに先代陛下は同族から見るとがっしりとした厳つい竜らしい。
そして彼が同じ学院に通っていると知り猛アタック。襲ったともいう。男爵家として平均的な魔力量のセレナイトでは、拒絶しようにも公爵級の魔力量のミネルヴァに到底敵うはずもなく……。そして今に至る。
「学長、学院の仕事をしないで、セレナイトに報告しても良いのですよ?」
「い、やだ!」
「では仕事をしましょう。なに、あなたなら一瞬で終わりますよ。そうですね、もしここ三年で溜まった仕事を一日で終わらせていただけたら、セレナイトを呼んで差し上げましょう」
「……二言はないな?」
キランと獰猛に輝く金色の瞳に、自分でも会心の笑顔を浮かべていると思う。私は尊い犠牲に、心中で手を合わせた。本気を出した学院史上最恐の才女の前には、数年分の仕事など赤子の首をひねるよりも容易いのだから。
学長は、もっとこう、姐さん風にしたかったんだけどなあ……
今回は説明会な感じです




