リリフィアーネ「うう……もう二度と酒は飲まない……」
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題名を変えたい今日この頃。
フワフワの羊に囲まれていた。円らな瞳が魅力的だ。
暫くすると彼らは動き出して、私はいつの間にかゴワゴワした羊に埋まり、揺られていた。まあ、これはこれで味のある触り心地だ。
真っ直ぐに進む羊さんたち。目の前には固そうな壁が……――!!
ヤバイよ、止まれ、ぶつかる!あれ!?羊の毛まで固いっ!!?
「うわああ!……?」
ガツンときた重い頭を手で支えて起き上がる。体もぐらぐらする。ああ、なるほど、檻の中なのね……中っ!??
ま、まさかっ、フィベルテ侯爵家の監禁用の檻?やっぱり束縛系なのね!しかも周りを見れば美女だらけ……。
ヤバくないか?でも、アヴィルデラータは法制が緩いしな。
檻は一人用なのだけど、目の前にもズラッと並んでいて、会場で見たような美人さんや可愛い獣人達が入っている。ご丁寧に魔力封じの魔術紋が刻まれている。
これ、高いんだよね……。総額いくらかしらん。
「貴女、やっと起きたの?こんな所でスヤスヤ眠れるなんて、育ちが知れるわよね」
ふんっ、と高い鼻で笑う目の前の檻の中の人。
げっ、ラルファローゼだ。なんでこいつも居るの?侯爵様、いやルベンスさんかな、見る目なさ過ぎじゃない?
ラルファローゼ・フォン・トゥーメナルガは、有体に言えば学院の同級生である。
人型だと茶の瞳に鋼色の髪の持ち主で、腕に羽が少し生えている鶏頭蛇族の美女だ。美女なんだけど、高飛車で、しつこくって、有体に言えばウザイ。ウザイ。大切だから二回言っておくべきだろう。
学院時代からなんか私に突っかかってきて、大嫌いなんだよね。遭遇を避けるために全力で珍固有特性の忍び寄る影に磨きをかけたものだ。悪戯の時しか使えなかった特性だけど、工夫の末何時でも使えるようにした。頑張ったなあ、私。
「なんで貴女がいるのよ?」
「私が聞きたいわ!気付いたらここに居たのよ。出しなさいよ」
「ラルファローゼは五月蝿いからそのままずっといれば良いよ。私は二日酔いなの、黙っててほしいな」
キィー!と金切声をあげるラルファローゼは見苦しい。頭に響くし。
癇癪持ちは大変だよねえ。すぐに皺を作るんじゃないかな。人が来たらどうしてくれるの?
さてと、兎に角出ようかな。手枷が付いてないのは幸運だ。まあ、体の一部が外に出れば感覚的にやり易いというだけで、出来ないというわけではないけど。
檻の隙間から手を出して、針のような形状の高圧の魔力の塊を作り、露出した魔力封じの魔法陣を魔法的に傷つける。
魔力封じの魔法陣の欠点として、刻まれた物の内部にしかその効果が発現しないというものが挙げられる。外側はかなり魔力を使いづらいというだけで、普段より大量の魔力をつぎ込めば魔法を使えるのだ。
普通なら魔力封じの魔法陣を部屋に掛けて、その中で拘束するのだけど。警備部隊の牢獄はそのような仕組みで、檻の中に檻があるんだよね。
魔法陣は一部でも欠損すれば使い物にならない。物理的に傷つけるか、私のしたように魔力の流れを歪ませる――許容量を超えた魔力を一点に吸わせるか。
そのことを侯爵家が知らないはずはないから、不可解といえば不可解である。
ぱりん、という硝子が砕けるような幻の音が聞こえた。
よし、壊れたな。
あとは檻の素材の鉄の分子運動を活性化させ、柔らかくなった所でぐにっと曲げる。
脱出成功!
「貴女だけズルいわ!私も出しなさい!」
「五月蝿いなあ……」
こっちは頭痛と吐き気でイライラしているの。黙っててよ。ラルファローゼの檻の周りを真空にして、音が此方に聞こえないようにする。魔力が勿体無いけど仕方ない。私の心の安寧には犠牲が必要なの。
これをはたから見ると、真っ赤な顔で目を吊り上げて口をパクパクしている腹ペコの雛鳥みたいだ。ざまぁ。あ、更に赤くなった。どこまで赤くなるのかな?
まあ、どうでもいいや。
私は同じ手順でサクサクと他の囚われたモフモフ達を開放していく。
KA・WA・I・I!!
子供の獣人も中にはいて……いや、大人の獣人も可愛いんだけどね!
猫とか、猫とか、猫とか!ネコ科は素晴らしいよ。
いけない、これでは只の変態だ。……酒のせいだと信じている。
にしても、ルベンスさん、守備範囲マジで広いな。だって、猫でしょ、豹でしょ、狸でしょ、人魚もいるなあ。
憔悴している人には亜空間に仕舞っておいた水や乾燥果物、菓子を身を切るような思いであげた。くっ、こんなことならフレィズとかナパラプラハとか(二つとも色はちょっと違うけど、味はそんなん)食べちゃえば良かった。バロン・フェアルアとヴァイカウント・コマリィヌの限定生産品……。また売られないかな。
干し肉を欲しがる人には何もあげなかった。人があげるものに文句を言うなんて!つか常備しないよ、アレ固いもん。
貴族っぽい人達は五月蝿いから檻の中に放置……したいんだけどねぇ。後で人質にされても面倒だし、連れて行くか。はあ……。
取り敢えずキィキィ五月蝿い誰かさんは最後で。
こいつらの意見は聞きたくないなあ。伊達に売れ残ってないよね、性格が酷いのしかいないや。見た目は良いのにね……。
まあ、ミル嬢は普通かな。ルベンスさんは従姉妹にも手を出すんだなあ。
切なげに潤んだ瞳で此方を見つめてくるのが超可愛い白い九尾の幻獣種だ。
「あの、リリフィアーネ様ですよね!私、ミルと言います。『幻の妖精』に会えるなんて、とっても嬉しいです!」
!?
何それ、初めて聞いた。尻尾がブンブンと振られて――三本もあるから、手狭そうだ――違いますと言えない。
これが年をとって九本もあったらと思うと、勢いに押されてありがとうとしか言えなかったはずだ。
「み、ミル様、人違いではありませんか?」
爵位はミル嬢の方が上なので、一応様を付ける。するとミル嬢は興奮したように顔を紅潮させてまくし立てる。
「まあ、私のことはミルで構いません!だってリリフィアーネ様は将来私のお姉様ですもの!」
「はい?」
「ルビィ兄さまと結婚なさるのでしょう?ルビィ兄さまは一途でとっても貴女のことが好きですの!お姉様が羨ましいです」
夢見る乙女のように――実際そうなのだろうけど――ウットリと手を頬に当てて目を閉じるミル嬢に眩暈がした。
「み、ミル様、私にルベンス卿との結婚の予定はありません」
「そ、そうなんですか?ルビィ兄さまの何が悪いんですか?完璧じゃないですか!」
そして滔々とルベンスさんの良いところを語り出した。ブラコンなんだな……。
「ルビィ兄さまは一途で、好きな人をずっと見つめてるんです。その人についてなんでも調べるんですよ」
侯爵家の力使ったら、個人情報なんて保護されなさそうだよね。
「匂いで千里の果てまで追っていけるのです」
鼻良すぎだろ!
「肌身離さず思い出の品を持ち続けたり……」
それ、盗品じゃないでしょうね?
「情熱的にダンスにお誘いしたり……」
しつこいだけだったよ?
「コッソリついていって暴漢がでないか影ながら護衛したり……」
完全にストーカーじゃない?
一途なら許されるというものでもないし、長期間慕っていても必ず報われるものではない。
ていうか、文脈上私がルベンスさんの被害者ってこと?全然気づかなかった。
ケモミミ高潔騎士っていうイメージがガラガラと崩れ去っていく。
「こんなに大勢の美人を誘拐して監禁だなんて、ハーレム願望でもあるのではありませんか?」
「お姉様、誤解ですわ!ルビィ兄さまはお姉様にぞっこんですのよ。ここはフィベルテ所有屋敷ではないです。兄さま達の匂いがしませんもの!」
「……なるほど」
一理あるな。鎌を掛けたわけだけど、いい方に外れたと言うべきか、それとも……。
誤解が解けたと嬉しげなミル嬢を横目に考える。私が見ただけでも、侯爵家の設備にしては不自然な点が確かにある。
可能性が濃厚なのは、人間による誘拐という線。まあ、どうでもいいか。やることは変わらないのだし。
「さて、皆さん、私についてきてください。これから脱出します。声は出さないように」
唇に指を当てて宣言する。どうせ令嬢達は文句をブツブツ言うに違いないので、音を減衰する魔法を全体に掛けるけどね。
検索魔法を掛けて人のいる位置を把握する。……なんか魔力量の少ない人ばっかりだな。これなら鍛冶精霊やここにいる平民の獣人達の方が多いくらいだ。
わらわらと私の後ろにモフモフさん達が続く様はハーメルンの笛吹き状態。夢みたいだ。
おや?道理でぐらぐらすると思ったら、私達は海の上、つまるところ船の中にいるようだ。原因は酒だけじゃなかったらしい。人の分布を見ても間違いないと思う。
上に行く?
いや、ぶっ壊そう!木材だし、イケる!
そうと決まれば見張りが立ってなさそうな船の側面となっている壁に出向き、気合いを入れる。自分一人なら気配消してさっさと逃げられるんだけど、今回はそうもいかない。
まず、船体に沿うように薄く固く空気の層を作り、壁を無くしても水が入ってこないようにする。そこで壁をある程度バラバラにし、水の中に通り道を作っていく。
「私について走って下さい。怖がらずとも、絶対に水のトンネルは崩れません」
バレないように水面下で岸まで水を除ける。きっと昼間だったら魚とか見られて絶景だろうな〜。
体中を襲う倦怠感。纏わりつく、運動した時とは違う汗。
ヤバイ。地味に魔力残量が厳しい。パーティーの時からほとんど使いっぱなしだったし。
何とか船からは見えない砂浜――浅瀬?に繋がった。足もとが黒い海水に濡れる。
「急いで!早く!私の魔力が持つうちに!」
貴族令嬢達は他の人を押し退けて出てくる。うぜぇ。さっきまで、疲れた、乾燥果物以外はないの、この役立たず、馬車はないの、とか散々に言っていたクセに。
早く……早く、早く!
腹痛でトイレに行きたくても行けない状況と似た状況が続いてる。……本格的に頭が働いてない。もっとましな例えはないのか、私!
やっと最後の人が海の上に出た。私の魔法効域下にもう魔族はいない。
これで、倒れられる……!
じわり、とドレスが濡れるのも構わず意識を手放す。
このドレス、もう着られないだろうな……。




