ジョン「たたた、大変だ!」
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「これより緊急会議を始める」
華やかな夜会の裏側で、お館様や若様を筆頭に錚々たる顔ぶれが重苦しい雰囲気でこの一室に集まっている。命令に従い集めたのは自分ではあるが、何故自分めもここにいるのだろうか?
使用人はキッツェさんと自分しかいない。忠誠心には自信があるが、頭の出来は心許ないのだ。
でも、不謹慎にも少し浮かれている。頼りにされているということに加えて、キッツェさんは赤毛の美しい使用人のマドンナなのだ。
「状況を整理したい。ジョン、キッツェ、ミルが居なくなったと気づいたのはいつだ?」
会議を取り仕切りつつも殺気立つ若様に内心恐れつつ、自分たちは答えた。寡黙なお館様はいつもより威圧感が出ていると思う。ニンゲンも真っ青になるだろう。
フィベルテ家は人一倍誇り高い一族だから仕方ないのかもしれない。
「はい!自分はミル様が倒れて運ばれていくのを見たのが最後です」
「なんで妹は倒れたんだい?」
リカン様の問いにはキッツェさんがハスキーな声で答えた。
「それは私めが説明いたします。ミル様はブラディーネル様と目が合った時にお倒れになりました」
どういう事だと皆の視線が魔人族の者に刺さる。本人はいたって落ち着いていた。
「集団で貧血ではないのか?我が目を遣ると倒れる女性は偶にいるが、今夜はとみに多かったぞ」
貧血をもたらす魔眼の持ち主なのか?聞いたことはないけど……。気になったとしても使用人たる者、問われてないことに答えるわけにはいかない。
他の方々は呆れたように視線を外した。
「ミル以外で他に見当たらない令嬢は誰だ?」
「今確認できているのは、トゥーメナルガ伯爵家のラルファローゼ嬢、コマリィヌ子爵家のリィン嬢、ギルヴェス子爵家のロゼリエッタ嬢、ユーホルム男爵家のエルネイア嬢、ヴィヘルデ男爵家のナルシア嬢の五人です」
よくもまあこんなに覚えられるものだと感心せずにはいられない。キッツェさんステキだ。
「なんと言うか、偏ってますね……幻獣
族がミル嬢を入れて三人、魔人族が二人、そして有翼人族が一人か……。ブラディーネル宰相、面倒なことに僕たちも無関係という訳にはいきませんよ」
「であるな……」
「妖精種や不死種が含まれてないのは何故でしょう?」
有翼人族の若者が首を捻ったが、宰相と呼ばれた魔人族に速攻で答えられた。
「妖精種はリリーしか来ておらぬ。彼奴らは堅苦しいのは嫌悪するゆえ。リリーも本当は来たくなかったというのは、お主も知っておろう」
それを聞いた若様は若干塩をかけられた青菜のような様子で付け加える。
「不死種には子を残す必要はないから、今回の夜会には来ないだろう。そもそもなんでいないんだ。全員実は帰ったとか、どこかで寝てるとかないのか?」
苛立つ若様には申し訳ないけど、それなら自分たちの鼻で既に見つけていると思う。香水に紛れて大分難しいとは思うけど。
「うーん、ここ最近この領で変わったことはありませんか?」
「……そういえば」
バッとみんなの目がお館様に集まる。
「行方不明者が最近多いらしい。多くの捜索願が出されている」
「それはいつからですか?」
「確か、一週間前くらいから急増したような……」
お館様は顎をさすりつつ言う。そこに嫌味が入った。
「何故そのように重要なことがすぐに頭に浮かばぬ。侯爵よ、とうに痴呆か?」
「元々儂の領はふらふらする者が多いのだ。多少多くても今年だけだろうと考えるぞ。貴様、宰相であるからといって年輩者への敬意を払わぬ理由にはならん」
「必要な敬意は払っているが?」
お館様はムッとしたように顔を顰める。当然の反応だろう。そしてバチバチと音が聞こえそうなほど睨み合う両名。胃が痛い気がする。
お館様は神獣族の男の盛りで、たしか六百歳ほど。自分が仕え始めてから姿はあまり変わっていないが、ギトギトに脂がのっているのだ。とっても火がつきやすい。
「制限時間は夜会が終わる夜明けまで。しかし中間報告として三時間後に再びここで集まろう」
若干険悪な雰囲気に頓着せず、若様が軽く解散を告げた。
さて、自分は城内の者にそれとなく聞いてみようとドアに向かった時だった。有翼人族の若者に声をかけられた。
「ねえ、君。リリーを呼んでくれないかな?」
「リリー様ですか?」
誰だろう、知らないな。それが顔に出ていたのだろうか――他領の人は獣人の表情を読むのは苦手なはずだが――補足が加えられた。
「銀髪の妖精族の女性なんだけど。紫のドレスを着ているんだ」
あ、若様と話してたかもしれない。その彼女で合ってるなら連れてこられる、そう答えようと思ったら、若様ご本人に遮られた。
「彼女なら酒に酔って休んでいる。今は夢の中だと思うが」
それを聞いた若者は、あちゃーと言いながら手を目に当てた。そして諦めたように溜息を吐いて自分に言った。
「はあ……リリーは呼ばなくていいや。そのかわりと言っては悪いけど、城内の者に誰か外に出てないか、或いは出入りしたか聞いてくれるかな?口の固い他の使用人にも協力を頼んでね」
「わかりました」
「それと、令嬢たちを運んだ人を呼んできてくれるかな。こっちが先ね」
「はい」
若者はテキパキと私に指示を出した。一人でやるには量が多いのでキッツェさんに前半の頼み事をこなしてもらおう。
「了解しました。私はメイド達に声をかけて情報収集に当たります。そちらも頑張ってくださいね」
「はい!」
頑張ってくださいねって言われた!思わず赤面して敬礼してしまう。獣人で良かった、顔の赤みは毛に埋もれてわからない。上擦った声は、聞こえてないといいな……。
とりあえず、令嬢を運んだという者達を集めて連れてきた。体格のいい、胡狼や郊狼の若い従僕達だ。
さっきの部屋に残っていたのはお館様と有翼人族の若者と魔人族の宰相様だ。
「令嬢たちを運んだという者達を連れて参りました」
「ご苦労さま。では順番に説明を――」
「しばし待て」
有翼人族の若者が聴き取りを始めようとして、宰相様から待ったが入った。
「何故魔人族の使用人が居らぬのだ?我は何人かが魔人族の従僕に運ばれていくのを見たが」
「どういうことです?」
鋭い目が二対、自分の背後に立つ二人に向けた。二人はビクッと怯えた。恐らく魔力差の影響で本能的に恐怖を感じるのだ。一般的な魔族の魔力量は人間の魔法使いと大差ない。
「た、確かに自分達の後について魔人族の者も運んでおりましたが、既にあがってしまったのだと思います。そろそろ宴も手のかかるところは過ぎてしまいましたから」
「呼び出せ」
問答無用とばかりに宰相様は言い放った。そこに今度はお館様が止めた。
「急くな、ブラディーネルの倅よ。儂の記憶では魔人族を雇った覚えはない。臨時の者もだ」
「では部外者が入り込んでいたと?それはそれで警備上どうかと思いますが……」
困惑したように話すお三方。
そこに城内の聞き込みを終えたであろうキッツェさんが帰ってきた。
「失礼します。お館様、お耳にいれたいことが。今から約四時間前に城からでた者たちがいるようです。門番を連れて参りました」
傍らに恐縮した様子の犬の獣人――カロルと胡狼の獣人――メルがいた。キッツェさんは二人に話すように促したのち、また部屋を出ていってしまった。
「西門を警備しております、カロル・レトレウです。五時間程前に黒塗の大きめの馬車が出ていきました。御者――魔人族が南領で働くのは珍しいと思ったのでよく覚えています――に事情を尋ねたところ、お屋敷のお嬢様が体調を崩したということでした」
「同じく西門を警備しております、メル・ジャッテであります。馬車には家紋がついていなかったこと、馬が妙に落ち着きがなかったことが印象に残っています」
「ありがとう。他に気づいたことはあるかな?」
興味深げに聞いていた有翼人族の若者が更に促す。するとカロルがそういえば、と口を開いた。
「複数の匂いがしました。五人ではきかないくらいの」
「どんな匂いだ?」
お館様に聞かれてうーんと唸るカロル。メルも思い当たったのか、今度は彼が答えた。
「爽やかなレトロンと、優しいラベルデと、甘いハニア、それから西の薔薇の匂いはした気がします」
「どれも香水に使われているものだな……」
その後、運んだ魔人族の一人と御者が、その見た目の特徴から同一人物だろうということに落ち着いた。
「その魔人族の者は、一目惚れでもしたのか?」
「そのような腑抜けた考えが出るとは……。その恋愛脳はもはや害悪であるな。我は貴様に侯爵を辞めることを勧めるぞ」
「まあまあ、カーネトリアス様、落ち着いてください。でも、一目惚れは無いでしょうね、なにせ複数の女性がいないのですから」
兎に角その魔人族が見つかれば早そうだ。そう思ったのはお館様もらしかった。
「お前たち、その魔人族の匂いは覚えているか?」
しかし皆首を振るばかり。しかし自分を含めた五人で、駄目元で追跡を試みることになった。
くんくんくん。
くんかくんかくんくん。
自分では駄目だ。もともと門番をしていた者たちの方が鼻がいいのだから、任せてしまおう。
それより、周辺住民に変わった者を見なかったか聞こうかな。
中間報告まで、あと一時間。
夜会がお開きになるまで、あと四時間。




