レヴニル「面倒ごとが続くなあ……」
今回出てくる既出の人物
レヴニル・フォン・ウェストリア 有翼人族
リリフィアーネ・フォン・イースティーレデン 妖精族
ナタリエ (家名は未定) 麟族
ハイデン・リッツ 麟族
ロドリゴ (家名は未定 貴族かも判らない)
「はあ……」
もうため息が止まらないよ。隊長、なんで陛下誘っちゃうかなあ……。
「溜息つくと幸せが逃げるぜ」
ニヤニヤしながら話しかけてきたのはアルフォルト・ガング。平民出身の同僚だ。腹の白い黒猫の獣人で、青いキャスケットと茶色いチョッキが特徴的だ。やる気がある時にしか働かないが、潜入捜査や諜報はお手の物。
「アルフ、そんなの初めて聞いたよ。誰が言ったの?」
「にゃ?リリフィアーネさんだけど。お前、親友って嘘だったのか?」
ピクピクと髭を揺らしながら、さも驚いたと言いたげに言った。
そういえば言ってたかなあ……?そもそも学院時代はあまり溜息せざるを得ない状況が頻発することがなかったような。
「はあ、まあいいや。調査結果はどう?」
「にゃー、それについて文句を言いに来たんだ!なんで俺があんな犬っころと組まにゃならん!」
「ハルは鼻がいいから。どっちかって言うとアルフの方がオマケだよ」
「その言い草はないぜ!」
「イテテテ」
べしべしと肩に猫パンチを食らう。元々僕の腰より少し大きいかな、といった程度の体格なので力はそれ程ではないが爪がでていた。地味に痛い。
とにかく昨日取り逃がした密売人を早く見つけないと。でないと僕の溜息は治りそうにない。
「はあ……。それで、アルフが来たってことは報告だよね。見つかったの?」
「南に行ったみたいだ。臭いを辿って転移門に辿り着いたし」
「で、その時間帯は南の領地行きだったわけか」
「にゃにゃ」
アルフは懐から取り出した木天蓼で一服しつつ頷いている。
「南かあ……」
「魚がうまい」
アルフは恍惚とした様子で顔を洗っている。僕は潮風に晒されてゴワゴワになるだろう翼を想像して嫌になってる。鷲の翼に似ているから、平気ではあるんだけど、気分的に憂鬱だよね。
「えっ、海ですかー?ボクも行きたいですー。あ、アルフ先輩!遊ぼー」
「ハル……」
「しゃーっ!犬っころ、俺に気安く寄るんじゃねえ!」
ハル――ハルヴィス・ハヌビアが来ていとも容易く獣団子が出来上がった。書類が散らばるから落ち着いてくれないかな。ちょっと弱い雷を落とそうとしたところ、ハラリと団子が解けた。
「どうしたの?」
「にゃあ、ヤバイ感じがしたぜ。野生の勘に不可能はねえ」
「右に同じく!」
アルフは不機嫌そうに、ハルは勢いよく尻尾を振っている。
「お前ら野生じゃないだろう」
「レヴィ、馬鹿言っちゃあいけねぇよ。俺は気高い一匹狼さ……」
「ボクもボクもー!」
「テメェはすっこんでろ!お前にゃ家族がいるじゃねえか!」
猫の獣人は成人すると住処からでて行くからねえ。家族の情が薄いんだって。
逆に犬の獣人は群で助け合って生きていく。
正反対なコンビだ。
「南はイルルサウザン公爵領、フィベルテ侯爵領、ハクミービア伯爵領が人が多いけど、逃げるとしたらどこだと思う?」
「ボクは、フィベルテ侯爵領だと思う!」
「テメェ故郷に帰りたいだけだろ!」
因みにアルフの故郷はシルケット子爵領だ。
「そう言うアルフは?」
「サーゼイレン辺境伯領かな」
「……アルフ、新鮮な魚介類を食べたいだけだろう」
「気のせいだと思うぜ」
嘘つけ。突然の毛繕いが何よりの証拠だ。うーん、どうしようか。こいつら頭脳労働は役に立たないし。
はあ。
また一つ溜息をついてしまった。
王領ではないから、調査をするにも南の領地を治める貴族達に許可をもらわないといけない。書類を用意しないと。下手したらさらに移動しているかもしれないな……。
検問も手ではあるけど、それなりの陰魔法使いがいた場合は時空を歪めた場所に物を詰め込んでいるから意味ないしなあ。
八方塞がりの状況に、本日何度目かの溜息が漏れた。
「配達っス!」
「うん?」
自分に割り当てられた部屋でボーッと本を読んでいた時だった。コンコンコンコンと軽やかに扉が叩かれた。なんだろう?
入り口に近寄って開けてみるとハイデンがいた。一応、部下、なのかな?
「お手紙っす」
「ありがとう」
なんでこんな雑用してるんだろう。そう思いつつ受け取った。ハイデンは渡すとさっさと踵を返してしまった。
宛名を確認すると、実家からだった。物凄く嫌な予感がする。外れないかな〜と思いながら封を切った。
『愛する息子レヴィへ。元気にしている?しているに決まっているよね。だって私丈夫に産んだもの。貴方に生を授けて早二百十数年。いい加減嫁の一人でも作って頂戴。私達に孫を見せる気は無いのかしら。ハインリヒが衆道に走ったのよ。もう貴方にしか望みはないわ……。そうそう、この間送ってくれた妖精銀は宝飾品に変えました。リッジテール男爵が売りに来た琥珀が本当に素敵だったの!一つ同封したので使うといいわ。
追伸フィベルテ侯爵主催の独身を集めた夜会に参加しなさい。招待状も同封するわ。』
兄さん、ついに衆道に走っちゃったか……。仕方ないよね、要領悪くて老若問わず肉食な貴族女性達に追われてたもんね……。同情するけど結婚くらいはしてほしかった……。僕に皺寄せが来るじゃないか!
それと母さん、急すぎるよ。今僕結構な重大事件の調査中だよ?いくら母さんが恐ろしいからと言って……。
僕は手の中の招待状と見事な細工の宝飾品を見て、またまた溜息をついた。
「んん、ぱーてぃー?パーティーだとっ!お前行く暇あると思ってんのか!」
「デスヨネー」
ロドリゴ隊長の叫びに、内心の勝利の雄叫びを知られぬように気をつける。隊長に行きたくないってバレたら行けって言われるに決まっている。
とりあえず、母に対する言い訳のために休みを取れるかを聞くという任務はこなした。
「因みにどこのだ?」
「フィベルテ侯爵のところです」
「やっぱり行ってこい」
僕は驚愕を隠せなかった。
「なんでですか!」
「あー、あそこんち面倒なんだよ。縄張り意識が高いから部外者を入れたくないのさ。調査したかったら面と向かって頭を下げなきゃならん」
「ルベンス殿に口添えを頼めばいいんじゃないですか」
身内から崩すのが常套手段だと思うけど。
「嫌だ!ルベンスは生真面目でつまらな……苦手……まあ、ほら、アレだよ、アレ。あそこはクソ真面目な一家なんだ。で、息子使ってみろ、絶対キレられる」
「僕じゃなくて隊長の方がいいでしょう、筋を通すなら。早くサクッとその軽い頭を下げてきてください」
「嫌だ。ヤだったらヤだー!いいだろう、ついでだしよ、ちょっくら挨拶してサクッと許可もらってくれば。お前にならアッサリくれるって!」
ロドリゴ隊長が百にもならないくらいの子供のように振る舞う。いらっ。
「なんで僕だとアッサリくれるんです!訳がわからない、僕は行きませんよ!」
「でもパーティー行きたくって許可もらいに来たんじゃねえか!」
うっ、と僕は詰まった。行きたいわけではないけど、それを突かれると痛い。
「頼んだぞ!ついでに他の南の貴族達にも許可もらっておけよ!」
ちょっと黙り込んだ隙にロドリゴ隊長は風のように去っていった。さては身体能力向上の魔法使ったな……!
こんなことなら母さんの手紙なんて開けるんじゃなかった。
リリーとナタリエ、それからナハツェル――ノスフェラタ公爵家の嫡男――全員学院時代の同級生で、今でも月に一度は夜に集まって近況を話すのだ。
僕を含めたこの四人は数少ない仲がいい王城勤めの同期とも言える。まあ、本当はもうちょっといるんだけど、今は出張中だ。
橙の光が優しく包み込む談話室で、蜂蜜酒や葡萄酒を片手に僕らはボチボチと話をする。リリーだけは果実水だけど。
ツマミはパリパリした大蒜風味の芋の薄揚げだ。大蒜風味は初めて食べる味だけど、とても美味しい。単純なお菓子だけに、奥が深い。手が止まらない。ナタリエとリリーが作ったのかな?学院時代でも二人で夜な夜なお菓子を作っていたしね。
リリーは何故か、僕と同じようにパクつくナハツェルを凝視しているけど、すぐに正気に戻った。
「ナハツェル、味はどう?聞くまでもないみたいだけど」
ナタリエがナハツェルに尋ねた。
「ああ、うまいぞ。土産に持っていきたいほどだが、コレは揚げたてがうまいだろう?」
「そのとおり!よく覚えてたねー」
ナハツェルはその特徴的な犬歯を剥き出しにして笑い、ナタリエは満足気に頷いた。
「にしても、リリーとレヴィは元気がないな。どうしたんだ?」
「ふふん、それはね、二人が夜会に行かなきゃいけないからよ!」
僕は飲んでいた葡萄酒を勢いよく吹き出す。
「ちょっとレヴィ、汚いわよ」
「そんなことよりなんでナタリエが知っているのさ!僕言ってないよね!?」
口もとを袖でゴシゴシ拭いながらナタリエを問い詰めた。
「だって警備部隊の人達が噂してたよ。副隊長が忙しいのにも関わらず夜会に行くとかあり得ないって」
「仕方なかったんだ!一応任務だよ!」
僕は堪りかねて叫んだ。
「まあ落ち着けって。レヴィもリリーもそろそろ身を固めるとまでは行かなくても、婚約者くらいいたっていいじゃないか」
「愛する婚約者がいる貴方にはわからないでしょうね」
ケッ、とリリーが吐き捨てるように言った。僕も同じ気持ちだ。独身でふらふらしたいんだよ!
ナハツェルは既に同族の姫君と恋仲だ。
「ところで、レヴィはどこの夜会に行くの?」
「……フィベルテ侯のところだよ」
常に我が道を行くなナタリエが尋ねてきた。僕は観念したかのように告げる。
「じゃあリリーと会うかもしれないのね!」
よくはわからないが、ナタリエが興奮している。こうなった彼女は処置無しだ。
「リリー、今回僕の相手役やってくれない?」
「嫌よ、他の令嬢たちが恐ろしいもの。私は壁の蝿にでもなるわ!」
ナタリエとナハツェルは呆れたような目でリリーを見ている。その気持ちはよくわかる。だってどう考えたって無理でしょ。
見た目だけは極上の美人だし、見向きもされない花ではなく手折りたい高嶺の花だろう。普通の男は放っておかないよ。自分を蝿なんてものに例えるなど、相変わらずリリーは自分の容姿に無頓着だ。
「まあ、元々既婚者と婚約者持ちは招待されていない夜会だしね……」
「そういえばリリー、お前ダンス苦手だろう?どうするんだ?」
「忘れさせて……」
ナハツェルが指摘した、リリーの唯一と言っていい弱点。
実は、も何もないのだが、舞踏の授業だけはなんとか及第点といったところだったのだ。僕の記憶が正しければ、彼女が城に勤め始めてから一度も踊っていないはずである。
「……練習、付き合おうか?」
僕は憐れに思われてそう申し出ざるをえなかった。ナタリエがまたきゃーっと言っているが放置だ、放置。ナハツェルは興味深げに紅い瞳で僕を見ている。
「レヴィ……。ごめんなさい、お願いします」
現実を直視した彼女は、そう言って申し訳なさそうに眉尻を下げ、続いて小さめの頭もさげたのだった。
「そうそう、リリーが社交が苦手だったことで思い出したけど、学院で教諭に欠員が出たらしいぞ。どうなると思う?」
人事部所属の事務官であるナハツェルはこういった書類によく目を通している。
「誰が辞めたんだい?」
「魔法理論のダルタリアン先生だ。何でもいつも着ていた深緑のローブだけを残して忽然と消えたらしい」
「亡くなったのね……」
「殺されても死ななかったあの人がねぇ。念願叶って人間における魔法発現理論が完成したのかな?」
リリーがしみじみと言った。僕とリリー、ナハツェルは彼の講義を取っていたから、大分懐かしい。
「ダルタリアンって誰?」
「ああ、ナタリエは魔法理論は取ってなかったか。闇王の気違い染みた先生だ。代役、誰がやるんだろうな?」
「さあ?それなりに偉い人が行くでしょ。料理人のあたしには関係ないわね〜」
「私も侍女だし。主様は主に財務担当だから関係ないと思うわ」
「案外、受講した過去の生徒で優秀な人が暫く代行って形になるかもしれないね」
僕達は夜が更けるまで、あのカルデラミト先輩はどうだろうとか、いやあの有名な魔導士ファリトゥースはどうだとか、意外に東の公爵様もあり得るかもと話に花を咲かせたのだった。
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