ジェルマリオ「子供の成長って、早いよなあ」
「初めまして、妖精族のお嬢さん。私はジェルマリオ。ここの店主をしています。以後お見知りおきを」
「御丁寧にありがとうございます。私はリリフィアーネと申します」
礼儀正しく頭を下げたのは若く美しい娘だ。人間に直すと、年恰好は十六、七に見えるけど。これであのカーネスの侍女をこなすとは、やはり人は見た目によらないな。
もちろん彼女は魔族であるけど、不死種は吸血鬼族を除けば元人間であることが多いからこんなことを感じるんだろうね。
朽ちたこの身にもまだ人の心は残っている。人間の魔法使いだったときは、まさか自分が死んでもその先があるとは思わなかったけどさ。
でも、生前の夢だった服屋兼デザイナーができてとても充実した毎日を送っている。ああ、死んでよかった!
僕達みたいな寿命のない――既に死んでいる不死族は心残りが解消されるか浄化の陽魔法を掛けられない限りは生き続ける。
僕はまだまだ黒の魅力を伝えきっていないし、人々を飾り立ててもいない。まだまだ夢は叶う。いえーい。
さてさて、今日の依頼はちょっとばかり変わっている。依頼人はカーネス。まあ元々彼は変人だけどさ。
本名をカーネトリアス・フォン・ブラディーネルと言う。言わずと知れた我が国の最凶の仕事中毒者、もとい宰相である。
千三百年近く生きてきた僕からすれば、二百年なんてちょっと前のことだから、どうも子供の時のカーネスが頭にチラつく。あの頃は可愛かったんだけど。
もうね、攫って専属の広告塔にしたかったくらい可愛かったんだよ?本人は黒が好きだったからね、一回に一着だけなら大人しく着てくれるし。
幸か不幸か、カーネスがブラディーネル公爵家の次男じゃなかったら本当に攫ってたと思う。
そんな頃からカーネスとは知り合いだからね、カーネスが侍女とはいえ女の子を連れてくるとは思わなかったよ!だってこいつ、うるさいのは嫌いだけど、自己主張しないのも嫌いっていう面倒な性格だからさ。
しかもだよ?カーネスがこの子にドレスを作れって依頼してきたんだよ?信じられる?
思わず目玉が落ちるかと思ったよ。治癒の魔法は効かないから、傷がついたら大変なんだよね。気をつけないと。
厄介なのは、魔族らしくなくいかにも真面目そうな彼女にドレスを渡すということ。まあなんとかなるでしょう。
「リリフィアーネさん、ウチの広告塔をやりませんか?」
まあいきなりだしね、驚くよね。
「わ、私がですか!?」
「はい。実はお恥ずかしながら生身の美人な女性の職員が不足してまして。ウチは黒が主な商品というのもあって、女性は別の店と契約してしまうんです」
一応事実だ。実際に協力してくれるとなお助かるけど、背中に感じる殺気の主は許さないだろうねえ。なんせ第一の犠牲者だし。
「リリフィアーネさんのその輝くような銀髪、紫水晶の瞳、整った甘い顔立ち。服の上からでもわかる適度に支配欲を誘う女性らしい華奢な体型、素晴らしい!」
僕は世辞抜きで褒めまくった。まあ僕にはもう性欲なんて無いけどね。
殺気が増した。しかし僕は屈しない!
お前の依頼のためだぞと目配せすれば、おっそろしい目を向けてきたが渋渋うなづいた。
「リリー、協力してやってくれまいか。昔馴染みなのだ」
「勿論報酬は弾みますよ!」
ついつい外れていた敬語を元に戻し、話しかける。
リリフィアーネさんは若干引きつつも、「主様が言うなら」と承諾した。
やりぃ!これでカーネスの依頼が達成できる。もしリリフィアーネさんが承諾してくれなかったらと思うと、恐ろしい。カーネスにネチネチと八つ当たりされそうだ。御免こうむりたい。切に。
僕は指をぱちんと鳴らした。三体の骸骨族が奥から出てくる。みな制服を着た女性だ。リリフィアーネさんの採寸を始める。
リリフィアーネさんは小さな悲鳴をあげた。コレが生身の女性が長続きしない理由である。しかしカーネスの侍女と言うだけあって、若干青ざめつつも笑みを浮かべている。
カーネスの依頼はフィベルテ侯が嫌いそうなリリフィアーネさんに似合う美しいドレス。難問に腕が鳴る!
ふふふ、最高の毒婦を作ろうじゃないか!伝統を意識しつつ、下品ではないが、性格がきついと思わせるような……!閃きが僕の頭の中で渦巻く。
地の色は彼女の瞳より暗く深い紫。黒のレースで首と胸元を艶めかしく、時に裾にあしらい。ついでに手袋も総レースで作る。背中は大胆に見せて。仕上げに髪飾は黒瑪瑙を使う。
……完璧だ。
黒が好きな数少ない家妖精達が久々の女性の特注と言うことで盛り上がり、即座に出来上がった闇の妖精。
リリフィアーネさんのドレスで盛り上がっていたけど、カーネスのタキシードも作っていた。男性のって、代わり映えしないよね……。
リリフィアーネさんのドレスと揃いにしてやろうと思って聞いたら拒否されてしまった。なんでもリリフィアーネさんに申し訳ないとか。よくわかんない。カーネス、お前はリリフィアーネさんのことが好きなわけじゃないの?
「ふむ、よく似合うな」
「ありがとうございます。しかし、やはり主様には及びません」
いや、男と女だし、比べてはいけないのでは?僕は突っ込まなかった。だって困惑したカーネス、珍しいもの。カーネスは突っ込もうか悩んで、同じ言葉で仕切り直した。
「……本当によく似合っている。フィベルテ侯の夜会もそれで出たらどうだ?」
「もう他のドレスを買ってしまいましたから。折角友人たちに選んでもらったので、そちらを着ようかと」
それにこれ、ちょっと恥ずかしいんです、と頬を染めて言うリリフィアーネさん。露出度高めだしね。
前からだとそんなに露出度が高いとは思わないだろうけど、後姿は破壊力抜群。真っ白な背中が艶めかしい。カーネスもちょっと見惚れてる?
「そうか……何色なのだ?」
「青がメインで白が所々にありますが……」
「なんというか、気合いが入っているな」
カーネスがため息をついた。リリフィアーネさんが首を傾げたので、僕が解説してみる。
「リリフィアーネさん、青と白はフィベルテ侯爵の家紋の配色ですよ。確か次期侯爵のルベンス殿は青い瞳で銀髪だったはずですから、どちらにせよ彼方に気に入って下さいと言っているようなモノですね」
リリフィアーネさんは顔を青ざめさせた。結婚はまだしたくないのかな?次期フィベルテ侯爵、人格者だと噂されてるけど、こんなに拒否するなんて。
「こ、このドレス、いくらですか?」
「あ、無料でいいですよ。宣伝になりますから」
「その、ありがとうございます」
申し訳なさそうに頭を下げるリリフィアーネさん。チラリとカーネスを見ればちょっと口の端をあげて満足げだ。
リリフィアーネさんに僕の渾身のドレスはよく似合う。きっと夜会では男女に関わらず注目を集めるに違いない。
夜会でリリフィアーネさんを見た女性達がわんさかウチを訪れることを夢想して、僕はニッコリとほくそ笑んだ。
これでまたしばらくお休みです
いつか種族のこととか、魔法のこととか、きちんと扱いたいですね




