リリフィアーネ「主様の買い物……?」
久々の主人公(?)ですね
主様が街中で戦闘中とか、悪い冗談です、全く。検索魔法でサクッと大きな魔力を感知し、多分主様だろうと一直線に空を飛びます。
ボオッ
感知した場所の付近に火柱が派手にたったので、おそらくあそこに主様がいるはず。……いた!
「主様、リリフィアーネです」
「リリー?応援か?こちらは十分だ。待っておれ、すぐに片付く」
紅い目を更にぬらりと紅く光らせて騎士達を見回し、剣を抜いて飛び出した。
「不要です、彼らは警備部隊の騎士たちですよ」
無駄だよなーと思いながら一応進言する。主様は完全に恍惚状態なのである程度破壊衝動が解消されないと手がつけられない。
私が認識されている内にどうにか止めないと。いい加減騎士に死ぬ者が出るかもしれない。上司の手にかかり殉職なんて憐れだ。
炎と雷がパチパチと煌き轟音が響く中、私は主様に向かって叫んだ。
「主様!今日は闇の曜日ですよ!あと四半刻もしない内に『冥府の境界』始まってしまいますよ!」
「……」
『冥府の境界』は実在した重犯罪者達の犯罪をもとにした娯楽用動画で、なかなか評価が高い。勿論主人公は犯人の方である。主様はそれの大ファンなのだ。
「今日は強盗殺人編です!録画してご覧になるの、お嫌いですよね!というかしてないですが、見逃してよろしいのですかー!」
「!」
よし、来た!
主様、魔道具操作がとっても苦手で、自作のもの以外はたとえ娯楽用の比較的簡単な魔道具さえマトモに扱えないのだ。
よって、収税や予算案作成などの繁忙期は録画し、私が録画及び再生などをするという臨時就業が舞い込むので、主様の見る番組は大抵把握している。だってこっちは一シーズンが二年ですからね〜。
主様は勤務時間外に働かせてしまうということを後ろめたく思ってくださる素晴らしい魔族なので、録画は極力避けている。
「主様、彼らは警備部隊の騎士たちですよ!どちらかと言えば主様は犯人逮捕を妨害してます!」
「な、なんだと!?知らぬぞ?」
「取り敢えず時間がございませんので、後日詳しい説明があるかと!」
主様の生み出した暴風に負けないよう、必死に声を張り上げる。主様は急いで魔法を収めてザクッと治癒の魔法をばらまき、さっさと帰ってしまった。……番組に間に合うといいですね。
さて、私も主様が帰ったことだし、もういる必要はないな。主様関連以外で時間外労働はしたくないしね。かーえろっ。
翌日。いつも通りに出勤する。
「おはよう。大事無いか?」
「はい」
主様は鷹揚にうなづき、いつもの革張りの仕事椅子に腰掛けた。そして持ち込んだ真っ白な書類を見て唸る。手に持ったペンがいつまでも紙に下りず、頼りなさげに空をさまよっている。
ふむ、昨日の始末書かな?主様はただの書類ならすぐに書き終えてしまうもの。朝の会議は主様が担当する内政に関するものだから、もしかすると昨日の詳細はまだご存知ないのかもしれない。私は今朝レヴィに聞いたけど。大方、ロドリゴ様に書いとけよと適当に押し付けられたのだろう。
主様は意を決したように顔をあげた。
「リリー」
「はい。昨日は警備部隊の騎士及び要請を受けた何名かの職員や陛下が、最近巷を騒がせていました密売人の拠点を秘密裏に襲撃する予定でした。しかしながら、陛下によって隠密行動をメインにした一斉検挙は頓挫した模様であります。裏口より逃げ出しました犯罪者たちが騎士達をに追われていたところ、主様が偶然見かけ勘違いし、助太刀したといったところでしょうか」
「リリー、何も我は言っておらぬぞ……」
「違いましたか?」
「いや……合っておるが……」
主様は眉間にぐりぐりと指を当て、悩ましげに溜息を吐いた。色っぽい。疲れているのだろう。気休めでも慰めるのが侍女たる者の務めだろう!
「主様、主様は作戦に組み込まれておりませんでしたから、知らずとも仕方ありませんよ。そもそも、主様の担当は内務、適正価格帯の維持、精々鍛練ですから!」
お茶を出しつつぐっと握りこぶしをつくり力説したが、帰ってきたのは困惑だった。
「そういうことではないのだが……まあいい。ところでリリーはなぜ現場に居合わせたのだ?」
「えーと、その、ドレスを仕立てに……」
私は、自分でもよくわからないくらい、普段とかけ離れたしどろもどろさで以って答えた。
「夜会服か。そういえばリリーの夜会服姿は見た記憶があらぬな。どこぞの夜会にでも行くのか?」
「フィベルテ侯のパーティーに直々に招かれていまして」
「あの堅物がか?珍しいこともあるものよ」
ふむ、と主様は考え込まれた。
「我もそなたの晴れ姿を見てみたいものだ。我も行くゆえ、一着仕立てよう。今日の予定に組み込めるか?」
主様もフィベルテ侯のパーティーにいらっしゃるのか〜。奇遇だなあ。
「可能です。ただ、南炎兵団の鍛練を少し短くしなければなりませんが。そこからですと、『闇王服飾専門店』、『青紅蓮百貨店』でしょうか」
どちらも行ったことはないけど、位置くらいは把握している。『闇王服飾専門店』は奥まったところにあり、通りがかったことすらないが看板はよく見かける。『青紅蓮百貨店』は何度か前を通ったことがある。煌びやかで、高そうな品物がたくさん陳列されていた。特に用もないので入ったことはないが、今度メリエーヌさん達に連れていかれるかもしれない。
「ふむ、『闇王服飾専門店』にしようぞ」
「かしこまりました」
さして悩むことなく前者を選んだ。主様は百貨店とか似合いませんものね。
主様のお召替えはとっても目の保養になるので、早く行きたい。
はてさてやって参りました、『闇王服飾専門店』。全体が全て黒で構成された、おどろおどろしい雰囲気のお店です。……本当にここに入るの?いや、候補に挙げたのは私ですけど。
いや、主様は黒が好きですけど。流石にコレは……どうなんだ?
主様は私の動揺などに構わず、ちりん、と呼び鈴を鳴らして店に入った。慌てて後に続く。
中は意外と普通だった。……品物が全て黒ということ以外は。いや、赤とか緑とか青とか、ないわけではないけれど、全て黒に見紛うような深い色ばかりだ。
パッと見て黒じゃないのはアクセントにいれている程度のもの。伝統的な型で使い減りしないものが多い。布見本も質がよいものを取り揃えており、安定感がある。やっぱり創業千二百年は伊達じゃないね。
主様は店主の方とお話ししている。店主は店名通り不死族の闇王だ。光沢のある真っ黒なローブに黒と紫の刺繍がとってもお洒落だ。内容は聞こえないが、何やら会話が弾んでいる。元から知り合いだったのかな?常連と言われても納得するけど。
うん?主様と店主が此方に向かって歩いてきた。




