メリエーヌ「買い物は乙女の嗜み」
今回は『乙女の裏側』会長のメリエーヌ女史です
「ふんふんふふーん♫」
「ふんふーんふふー♪」
姉さんと二人で鼻歌まじりに幻想的な夜の城下町を練り歩く。魔道具の灯火が所狭しと点けられているため、昼間とは違う明かりに包まれているのです。
人間たちは、このアヴィルデラータの王都エレボスを不夜の町なんて呼びますけど、大多数の普通の魔族は夜は寝ます。
普段なら城下にある実家に帰っている時間ですけど、今日はリリーさんのドレスを買うのです。
本人は私達と違って貴族なのだから、ドレスの百着や千着、持っているものだと思っていたのですけど、リリーさんは一着も持っていないのですって!
普段着も地味なものばかり。折角の美人なのにもったいないです。ここは『乙女の裏側』会長の腕の見せ所ですわ!とびっきりの淑女にしてみせましてよ!
それに貴族が行くような高級店には初めて入るので、はしたなくもとてもわくわくしているのです。いつも出来るだけゆっくり歩いて通りがかりに覗くのが精一杯ですからね!
そうしてリリーさんとナタリエさんを引き連れ入ったのは、若い令嬢達に人気のある『ル・フェルオン』。
新進気鋭の若手淫魔デザイナーが専属として活躍中の新興の店で、確かまだ百年は経っていないはず。
最近は庶民向けの支店も開いていて、そちらにはよくお世話になるのです。柄入りの布の使い方がとってもお洒落でして、ちょっと特別な日に着るのですよ。貴族向けのデザインが少しラフになっていて、上品な感じがしますの。
胸の高鳴りを感じつつ、お店に入ります。硝子を多用した開放的な様子は、老舗の貴族御用達呉服屋さんには中々珍しいのです。
沢山の見本のドレスが立体魔法像で展示されています。まあ、あれ可愛い!
「ほ、本当にここで買うんですか?」
「そうですよ。ここは最近人気のお店なんです」
「リリー、安心して。私達がしっかり飾りつけてさしあげてよ?」
私と姉さんは尻込みするリリーさんを励まします。もっと自信もって!お洒落しましょうよ。
「リリーちゃん、これなんかどう?妖精らしくて可愛いよ!」
早速ナタリエさんが見せたのは、ふわふわと沢山のレースがあしらわれた少女めいたもの。悪くはないのですけど……。
「ナタリエ、それでは凛としたリリーの雰囲気が台無しだわ!こっちなんてどう?」
そう思ったのは姉さんも同じようでした。方向性は違いましたが。姉さんが勧めたのはスッキリとした型の、襟ぐりの広い色っぽいドレスです。
「姉さん、それもリリーさんの性格に合わないわ。もっと清楚ですよ」
個人的には露出が少ない気もしなくもないけれど、毎日メイド服を着ているリリーさんにはハードルが高いと思うのです。
「もっと、地味なやつが良いんですけど……」
「「「だめ(です)よ!!!」」」
こんな楽しいこと、やめられません。姉さんは何か思いついたようで、私と色違いの緑の瞳をキラリと光らせました。
「リリーちゃん、よく考えなさいな。この店はとってもいいお店ですけど、まだまだ新しいわ。伝統を重んじているフィベルテ家は、流行を追うような女性は受け入れないんじゃないかしら?」
リリーさんはうっ、と言葉を詰まらせます。ナイスな建前です、姉さん。
「そうよ!メリエーヌさんの言う通りよ。大丈夫、幻獣族や獣人族の方達は豊満な女性が好きな傾向があるから、リリーちゃんは対象から外れると思うわ!」
ナタリエさんが素晴らしい援護射撃を繰り出します。
まあ、二人の言い分はどこも穴があるのですけど、用意周到なリリーさんは予想外の出来事に弱いですからね。パニックで多分言い返せないでしょう。
おそらくリリーさんはどんなドレスでもよっぽど変でなければ、普段の格好との差もあって男性を魅了するでしょう。自信を持って断言できます。
そもそもルベンス様はリリーさんにべた惚れだったはずです。ですから、多少伝統的でないだけで嫌いになるなんてことはないでしょう。
それに弁護させて頂くならば、リリーさんは別に貧乳……では、ないです。魔族の女性の平均的な胸のサイズよりは下回っていますが、リリーさんのお母様が淫魔や悪魔の因子が濃く出た妖精族ですので妖精族の平均は遥かに超えています。妖精族は基本平らですからね。
何度か一緒に浴場へいったのですが、手に収まらないかな?という大きさの胸は華奢な肢体とあいまってなんとも庇護欲を誘う大変素晴らしいものでした。
姉さんは見るに飽き足りず、羨ましいことに悪戯してましたし。
まあ私達も父が淫魔ですし、これはもう性でしょうね。
リリーさんが石化しているうちに私達は最高に彼女に似合いそうなドレスを見繕います。喧喧諤諤の議論の末、少女と女性の間の魅力が伝わる、蒼のグラデーションの生地に砕いた真珠を随所に散りばめられ、所々に白いレースをあしらったものに落ち着きました。可憐でかつ凛としつつ清楚。完璧です。三人の意見が一致しました。これを着たリリーさんより美しい女性なんてパーティーにいるはずありません。
フィベルテ家の家紋の色に近くなってしまったとか、ルベンス様の瞳の色であるとかは偶然です。ええ、故意ではありませんとも。
固まったリリーさんは手早く採寸され、家妖精達によってドレスは即座に縫い上げられていきます。
本当に誰かを飾り立てるのは楽しいですわ。対象が綺麗であればあるほど。勿論自分が着るのも楽しいのですけどね。また一緒に買い物したいですわ。
そうですわ、もうすぐ夏ですもの、『乙女の裏側』で夏の会員旅行を企画してもいいかもしれません。祖父母の家も近いし、案外いい考えかもしれません。帰ったら姉さんと話し合いましょう!
そしてリリーさんが出来上がったドレスの支払いを諦めたように済ましたところでした。
ガッシャーン!
「ひゃっはー!久々のシャバだぜぃ!」
そこには凛々しい紅髪の悪魔族の男性がいました。
何やってるんですか陛下ー!!?私はもともと青い肌を更に青くしました。気分的に。
店員さんもびっくりしていますし、リリーさんはまたも固まってしまいました。姉さんとナタリエは、またかとため息をついています。
「お前ら!ここが密売人の隠れ家だ。突撃ー!」
「なんでお前が仕切ってんだヒヨッコ!」
「べぶしっ」
警備部隊隊長のロドリゴ様が陛下を叩きました。いやあ気持ちいいです。たぶん始末書も書かされるでしょうね。もうやだーと駄々をこねる陛下が目に浮かびます。南無南無。
「つうか、コッソリ入るって言っただろ!お前の耳は飾りか!?」
「違う!頭の一部だ!」
「飾りじゃねーか!」
続々と隊員達が店に入ってきます。それを横目にロドリゴ様は陛下を説教します。ピシャッと時々雷が陛下に落ちてます。
「帰りましょうか」
今回の衝撃は大したことなかったのか、復活したリリーさんが促しました。その時です。
「隊長!偶々通りかかったブラディーネル閣下が我々が一般人を襲撃していると勘違いし交戦中!増援求めます!」
「まじか!?陛下、ちょっくら行ってお前の幼なじみ止めてこい」
ブラディーネル宰相様……。二つ名は『狂宰相』でしたか。リリーさんの主人だったはず。主従揃って二つ名持ちって凄いですわ。
いつもあの量の書類をこなすことからつけられたものだと思っていましたが、思い違いだったようです。遠くで戦闘音が聞こえます。
「そこにいるのは『万能』のリリフィアーネか?丁度いい、陛下と一緒にお前の主人止めてこい……あれ?」
「ロドリゴ様、リリーさんは既に向かいましたよ」
私は丁寧に教えて差し上げました。ブラディーネル宰相と聞いて血相を変え飛び出していったリリーさん。宰相様、愛されてますねえ。
後でことの次第を調査しなくてはいけません。『乙女の裏側』会長として、一介の事務員として、公私ともに。
ルベンス様、もしかしなくても勝ち目はなさそうですよ?




