泥人形
『明日は、明日こそは』と人は人生を慰める。
この『明日』が彼を墓場に送り込むその日まで
〜ツルゲーネフ〜
『雰囲気がよろしそうで誠に恐縮ですがよろしいですか?』
そうそれは突如現れた。
まるで気ままな風のようにゆったりと…
だが怒り狂う嵐のように唐突にそれは現れたのだ。
一人は茶の色をした髪と眼を持つ女。
ゆったりとした顔立ちで何処となく浮世離れしたような雰囲気を醸し出しているが全くと言っていい程隙がない。
背は七花より少し低いくらいで豊かな胸元をした肢体を可愛らしいこれまた茶の水着で覆っている。
もう一人は茶の女よりも更に背の低い女だった。
身体中をミリタリー色のマントで覆い姿はほとんど見えないがマントの隙間から美しい宝石のような紅き眼が見えていた。
『あ?誰だてめえら』
そんな彼女達に対し威嚇するかのように風下は言を投げかける。
当たり前だ。
全く警戒は解いていなかったのにも関わらずこの少女たちはその警戒の網を抜けて近付いてきたのだから。
警戒しない方がおかしい。
『お久しぶりですね。第一位。いえ、元…第一位』
だが、そんな風下を無視するかのように茶の女は七花へと話しかける。
まるで蔑むかのように
口元を薄く綻ばせながら。
『ダート。なんであんたがここにいる?』
『おや、久しぶりなのにつれな…『いいから答えろ』
そんなダートと呼ばれた少女に対し七花は自らの殺意全てをぶつけるかのように態度を変える。
『ふぅ…仕方ありませんね。今回の任務に私は関与していません。私は単なるバカンスだと思ってくれて構いませんよ?まあ、こんな極東の島国でどうくつろぐのかって感じですけどね』
ダートは本当に仕方ないとでも言うようにため息を吐きながら七花へと返答を返す。
『その任務は何?早く答えなさい。《泥人形》』
だが、七花はそんな答えでは納得していないらしい。
ダートに詰め寄るように立ち上がり睨み付け更に尋ねる。
そんな七花に対しダートはまた仕方ないとでも言うかのように薄ら笑みを浮かべながら最悪の言葉を続けた。
『狩ですよ。《翠色の暴力》。極東に住まう化物。最強にして最弱。最高にして最悪。人間にして化物。善にして悪。世界にして孤独な吸血鬼。篠宮一族の姫君。篠宮雪を我らイギリス協会戦闘専門機関。貴方の古巣。“殺人協会”はかの哀れな少女をこの世から抹殺することに決定しました』
ダートの言葉が終わる瞬間。
七花は即座にダートの頭を掴みテーブルへと叩きつけた。
そうして一言。
『てめえら…殺すぞ?』
そう言ってもう一人の少女へと向き直った。




