妹
愚かな女は見かけほど愚かではない。
愚かな男は実際その通りであるが
〜マルセル・アシャール〜
『てめえら…殺すぞ?』
ダートを思いきりテーブルに叩きつけた七花は念を押すかのようにもう一度同じセリフを呟く。
周囲の客がいきなりの出来事に慌てふためくがそちらの方向なんて気にしない。
七花はもう一人の少女の方へと身体を向ける。
だが、少女は動かない。
今目の前で仲間がやられたというのにまったく気にしてないかのようにその紅い眼で七花をじっと見ている。
ただただ冷静に。
冷えた目で七花を。
見つめていた。
『ダートが今回の任務に関わってないってことはあんたが任務受領者?答えなさい。まだ、死にたくないならね』
そんな少女に対し七花は威嚇するかのように自らの牙を見せながら喰らいつくように問いかける。
だが、それでも少女は動かない。
ただただ冷静に。
冷えた目で。
七花を。
見つめ続けていた。
『あー、答えないってわけ?まあ、いいわ。オッケオッケ。気にしないで。あんたの身体に直接聞くから』
『おっ、おい。七花?どういうことなんだよ?これは』
『あんたは黙ってなさい。風下』
突然の七花の行動に見兼ねて風下が止めに入ろうとするが七花はそれを許さない。
一言で風下の動きを止めてしまう。
『その人…大事な人なの?オネーチャン』
そんな七花達を見て今まで黙っていた少女は不意に楽しそうに問い出した。
まるで風のように透き通る声で。
『あら?ようやく話してくれる気になったの?』
七花は少女の問いに逆に問いかける形で気楽そうに返すがその顔は強張っている。
その理由は少女の言葉の中にあった。
少女の言葉の中のたった一単語。
一単語に疑問を抱いたのだ。
ーー…今こいつはなんと言った?
ーーー私の事をオネーチャン…だと?
ーーーーしかも、この何処か聞き覚えのある声…
ーーーーーまさか…まさか…
『オネーチャンの大切な人なら…蛍の敵だね』
少女がそう言った瞬間。
閃光の様な速さでなにかが油断していた風下の元へと伸びる。
『なっ⁉︎』
風下はそれを避けようとするが最早遅い。
閃光の様な速さで飛び出してきたそれは風下の胸元を抉るかの様に風下の胸元を貫き視覚する前に空中で消えた。
『風下!』
七花が条件反射で呼びかけるが風下は貫かれた状態のまま止まっている。
七花の呼びかけには…
答えない。
『ふふっ、あたしの敵をやっつけちゃった。オネーチャンが悪いんだよ?蛍を置いて組織から抜けちゃうから。蛍を置いてった…オネーチャンが悪いんだ』
少女はそう言って被っていたマントを脱ぐ。
そこにいたのは…
幼い七花だった。
いや、七花と言うのは言い方が違うか。
訂正しよう。
そこにいたのは七花と瓜二つの少女。
殺人協会所属序列第九位にして元序列第一位である七花の実の妹。
三條蛍がそこにいた。




