休日
人生には2つの悲劇がある。一つは心の願いが達せられない事。
もう一つはそれが達せられる事
〜バーナード・ショウ〜
『あっ、雪さん!仕事はもう終わったんですか?』
遠くから歩いてくる雪さんの姿を見つけたのか粉雪ちゃんは手を振りながら笑顔で駆け寄ってきた。
『やあ、粉雪君。ただいま』
あれからボク達は喜多月さんに人魚の話を聞いた後に篠宮家のプライベートビーチへと戻って来ていた。
雪さんは走り寄ってきた粉雪ちゃんを笑顔で撫でてやりながら海の方へとゆっくり歩いていく。
粉雪ちゃんはそれを嬉しそうにされながらこちらを見ると同時に舌打ちをしてきた。
…うん。
今のは気のせいだということにしよう。
と言うか、一つ疑問があるのだが。
『…なんでスク水?』
そう、スク水なのだ。
しかも、胸元に[こなゆき]とご丁寧にワッペンまで付けたガッチガチのスク水が彼女のまだ発達途上の矮躯を包んでいた。
『海に行く時の正装だと七花さんが教えてくれたんですが…似合いませんか?』
あのヤンキー緑お姉さん…グッジョブ!
『いや、似合ってると思うよ。うん、スク水なんて久しぶりに見た』
『そうですか?なら、いいんですが』
粉雪ちゃんは自らの姿を確認し直すように見ながら雪さんの方をちらりと見る。
どうやら、雪さんにも自らの姿を褒めて欲しいようだ。
…わかりやすいな。
『可愛いよ、粉雪君』
雪さんもそれに気付いているのか優しく笑いながら粉雪ちゃんを褒めてやる。
それを聞くと粉雪ちゃんは本当に嬉しそうに笑いながら雪さんに抱きつく。
…ボクが褒めた時とのこの反応の違いは一体なんなんだろう。
ボクも褒めたのに…
そんなこんなでボク達はゆっくりと海へと歩いていく。
粉雪ちゃんがここら辺にいたと言う事は七花さん達も近くにいるんだろうか。
『あー…七花さん達はここら辺にはいないですよ。多分』
そう思い粉雪ちゃんに尋ねてみるが返ってきたのは意外な返答だった。
『いない?』
『ええ。今日は仕事はオフ!とか言って近くの酒屋に行ってしまいましたよ』
…あの人が仕事以外ではかなりのダメ人間だった事を忘れていた。
七花さんの水着…見たかったのに。
『残念だったねぇ、凛君。七花君のダイナマイトボディが見れなくて』
『ボ…ボクは別に見たいなんて思ってませんよ?』
『…その割には目が泳いでますね』
はっはっは、何のことやら。
『まあ、いいじゃないか。今、君の横には美少女二人があられもない姿でいるんだよ?』
あられもない姿って。
ただの水着でしょうに。
『どうせ、今日は仕事をする気はないからね。ボク達も七花君達が飲んでいる間は海で遊ぼうじゃないか』
雪さんの言葉が終わると共に左右の腕に暑さと重みを感じた。
見ると右腕には雪さん。
左腕には粉雪ちゃんがニヤニヤと笑いながら抱きついている。
『…離してくださいよ。暑いんですから』
無駄だと知りながらそう訴えてみるが…
『『嫌だね(です)』』
…やっぱり、無駄だった。
左右の腕に二人の少女の暖かさと重みを感じながら段々近付いてきた海に向け歩いていく。
海に行ったらどんな仕返しを二人にしてやろうか。
そんなことを考えながら。
…それにしても暑い。




