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黒き乙女の鬼語  作者: 紅河崎アリス
人魚姫
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58/79

成功例

誰からも愛されないのは大きな苦痛だ。

だが、誰をも愛することができないのは生の中の死だ

〜オットー・ライクスナー〜



どうやら、誰かに見られているようだ。


桜楼院霊華がその事実に気付いたのは予定通り仕事をこなし帰宅しようとしている最中だった。


時刻は午後九時半。


警察署から出て三歩も歩かない内にこのこちらを喰いいるような視線に気付いた。


いや、最早隠す気もないのだろう。


それほどまでにその視線には殺意が込められていた。


『やれやれ…また、残業ですか』


霊華はそう呟き人の気配の薄い方へと向かい始める。


こんな人気の多い所で襲われて周りの人間に怪我をさせて残業が増えても面白くない。


九時半とは言え今頃の若者はまだ遊び歩いている時間なのだ。


あー、なんて忌々しい。


今度、そこら辺の若者をコキッと折ってみてもいいだろうか。


そんな事を考えながら歩き続けているとちょうどいい場所へと辿り着いた。


“死人通り”。


先の事件で殺人鬼・東雲凛と食人鬼・歌虚粉雪が最初に会合した場所。


ーーー私が殺人鬼さんに襲われた場所でもありましたっけ。


クスリと笑いながら霊華は通りの奥の方で立ち止まる。


街灯もなく薄暗いしこの時間に人が来る可能性は皆無。


こんな絶好のシチュエーションは…


『ないでしょう?』


そう言って霊華が振り返ると同時に目の前へと迫っていたのは刃。


それを、体を後ろに反らす事によって避け相手を上空へと蹴り飛ばす。


呻き声すら発する事無く相手は空中へと弾き飛ぶが霊華はそれを逃さない。


相手の服の襟を掴み取り衝撃が分散しないようにしそのまま相手を地面へと叩きつける。


それで全てが終わった。


『…終わりですか』


霊華は相手に尋ねるように呟くが相手はその言葉に反応する事無くその場で倒れ伏している。


『やれやれ、まっ、こんなものですかね』


パンパンと埃を払うように手を叩き合わせながら霊華はその場を離れようとする。


流石は五家の内の一つ。


桜楼院の実験台にして唯一の成功例。


篠宮雪や東雲凛と同じレベルの怪物。


一定以上のプレイヤー以外は瞬殺らしい。


まあ、だからこそ余裕を見せてしまうのだろうが。


そして、それが原因で彼女は散ることになる。


以前、神楽院恭弥がそうやって散ってしまったように。


『なっ⁉︎』


霊華は突然の事に驚いたような反応をする。


まあ、当たり前だろう。


一瞬前に確かに気絶を確認した相手が自らにへばりついてきたのだから。


『なっ、くっ、離せ!離しなさい!』


霊華は悶え暴れるがそんな事で相手が離れるわけがない。


相手は依然として離れないままなにかを待つように沈黙を保つ。


そして数秒後。


巨大な爆発音と共に爆炎が霊華を包み込んだ。

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