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黒き乙女の鬼語  作者: 紅河崎アリス
人魚姫
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人魚の歌

招かれざる客は、立ち去る時一番歓迎される

〜シェイクスピア〜

『…暑いね』


『言わないでくださいよ…気合で我慢してたんですから』


ここは篠宮家のプライベートビーチがある場所とは正反対に位置するビーチ。


こちらは、一般に貸し出しているのか中々多くの海水浴客で賑わっていた。


そんな場所の海の家にボク達はいる。


本来、人混みが嫌いな筈の雪さんがこんなところに来るわけがないのだが今日ばかりは来なくてはならない理由があった。


なぜか。


ボク達の依頼主がここを指定してきたからである。


依頼主の名前は真柴浩平。27歳、独身。


電話でだけの説明だったので詳しくは未だわからないのだが、依頼内容だけはわかっている。


そして、その内容が雪さんの気を引いた。


いや、気を引いてしまったのだ。


『それにしても…本当なんですかね?人魚の歌が毎晩聞こえるだなんて』


ボクは依頼内容を確認するように雪さんに尋ねるが彼女は笑いながら首を傾げた。


『さあね。まあ、ボクとしては本当でも嘘でもどちらでもいいけれどね』


『…え?』


その時のボクはよほどバカみたいな顔をしていたんだろう。


雪さんはいつもの嫌らしい笑いではなくクスクスとまるで年頃の乙女のように笑っている。


その姿はまるで天使のように美しかった。


普段が普段なのでそう見えるだけかもしれないのだが。


『どっちでもいいって…』


『ボクが受ける依頼はボクにとって面白い依頼ならなんでもいいのさ。別に、彼が聞いたのが人魚の歌でなかったとしてもなにを聞き間違えたのかによってはさらに面白い展開になるかもしれないだろう?』


はあ…そういうものですかね。


ボクは海水パンツのポケットに隠した数本のナイフを手で確認する。


もしかしたら、使うことになるかもしれないだろう。


『それにしても…暑いね。嫌になるよ』


そう言って雪さんは畳の上へとだらしなく寝転がる。


これが篠宮家の姫宮かと思うとなんとなく微笑ましい気分になりながら寝転がっている雪さんの頭を撫でる。


…いつまでこんな生活が続くんだろう。


こんな平穏な生活が。


この依頼を受けることによって終わってしまうのかもしれない。


そう考えると胃が少しキリキリと痛む。


『雪さ…『来たようだね』


ボクの言葉に被せるような上手いタイミングで雪さんは畳から起き上がった。


…狙われた気がするのはボクだけだろうか。


それに来たって


気配なんてまったく


『どうも。依頼した真柴の代役で来ました。嘉多月楓と申します。今日はよろしくお願いします』


ボクが気配なんてしないとタカをくくって入口を見てみると一人の女性がそこに立っていた。


…うそーん。

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