依頼
お前は罪びとなのだと言われるほど、人間の虚栄心を満足させるものはない
〜オスカー・ワイルド〜
ゆっくりと歩くと足元の砂がじゃりじゃりと小石のような音を響かせている。
きっとサンダルを脱ぐと足が焼けるような痛みを得るだろう。
だが、それも夏の楽しみなのだろうか。
顔を上に向けるとこちらを貫くように日差しがさんさんと輝いている。
雪さんはまだ着替えているのだろうかボク以外砂浜には誰にもいない。
『…暑い』
そう呟きながら歩いているとなにか胸騒ぎを感じる。
なにかおかしなことが起こる前の前触れかなにかなのだろうか。
粉雪ちゃんの事件から既に四ヶ月以上経過していた。
これだけ長い平穏は雪さんに付いて行ってからは初めてである。
だからこそ変なことを考えてしまうのかもしれない。
まったく、笑えないことだ。
『やぁ、凛くん、随分早いね』
雪さんの声に振り向くと彼女はゆっくりとボクの方へと歩いてきていた。
暑い日差しを反射させるような白い肌。
彼女の吸血鬼たらしめん証拠が惜しげも無く晒されている。
『…似合うかい?』
『ええ、よく似合ってますよ。雪さん』
彼女は少し照れくさそうに笑いながらボクに自らの肌とは正反対の黒い水着を見せてきた。
彼女が水着を着るなんて思ってもいなかったが、まあ、お世辞抜きでよく似合っていた。
やはり、彼女は黒がよく似合う。
彼女の歩くペースに合わせゆっくりと彼女と砂浜を歩く。
きっと他の皆も今頃遊んでいるだろう。
七月上旬、ボク達は海へと来ていた。
と、言ってもボクと雪さんは仕事であるし篠宮家のプライベートビーチである為、浜辺には誰もいないが。
『他の人達はどうしたんです?』
『ああ、他の皆は遊びに行ってしまったよ。仕事は面倒くさいから嫌だそうだ』
はあ、さいですか…
肩を落としため息を吐くが雪さん以外誰も聞いていない。
悲しくなる。
『そうため息を吐くものじゃないよ、凛くん。仕事なんかすぐに終わらせてしまえばいいじゃないか』
『雪さんの仕事ですぐ終わったことなんてないじゃないですか』
一歩一歩歩く度に揺れる雪さんのツインテールが気になりながら雪さんに言葉を返す。
そんなボクに彼女は嫌らしく笑いながら腕を絡ませ引き寄せてくる。
彼女の年の割りに小さめの胸の感触や彼女の肌の柔らかさを感じる。
暑さのせいかクラクラしてしまいそうだ。
『まあ、いいじゃないか。今回は避暑地も用意してあげただろう?』
そう言う彼女と一緒に浜辺を歩き続ける。
まあ、こんな日もあっていいか…
そんな気持ちを抱きつつ腕に彼女の温もりを感じながら。




