警告と勧告
一人を殺せば殺人者だが、百万人を殺せば英雄だ。
殺人は数によって神聖化させられる
〜チャップリン〜
『紅葉君達相手に君にしてはかなり苦戦したようだね?凜君』
雪さんに突き刺さっていた杭を抜いてやると彼女はそう言って楽しそうに笑いながら抱きついて来た。
その体はヒヤリと冷たい。
当たり前か。
長時間血を流していたのだから。
出血多量で死んでてもおかしくない。
『ええ、助けるのが遅れてすいません』
『ふふ、いいさ。キッチリと助けてくれるならね』
そんな彼女を愛おしそうに抱きしめる。
ああ、この感触だ。
これが篠宮雪の…ボクの大事な人の感触だ。
『どうかしたかい?』
『いえ、なんでも。』
ボクの行動に不思議になったのか疑問符を浮かべているが笑いながら流す。
やめよう。
こんな事は言うことじゃない。
『…さあ、お遊びは終わりだ。粉雪ちゃん。それに紅葉さん』
雪さんを降ろし粉雪ちゃんの方へと向き直ると頭を掻き毟りながらこちらを睨む粉雪ちゃんとこちらに向けて弓を構えている紅葉さんがいた。
『ゆ…ゆるさない。ゆるさなぃぃ。よくも、よくも、よくも!ママを!殺して…殺してやる!紅葉!』
粉雪ちゃんの掛け声に反応し弓を放とうとすると…
『おや、誰にそれを向けているんだい?紅葉君』
雪さんの言葉によって紅葉さんは止まる。
まるで凍ってしまったように。
そしてブルブルと震え出す。
まるで、死刑宣告を受けた罪人のように。
『いっ…いえ、申し訳ありません!雪様』
そう言って雪さんの前に跪く。
今にも自害しそうな勢いだ。
たった一言。
たった一言で紅葉さんを止めてしまった。
やはり、そこら辺の所は雪さんに勝てない。
圧巻の一言である。
今の主であるはずの粉雪の慌てふためく声などは聞こえていないようだ。
『紅葉⁉︎なにをやってるの!殺してよ!こいつらを!いますぐに!あんたは私の道具でしょ!』
さっきから喚いているのを静かに聞いていたがその一言だけは聞き逃せなかった。
ゆっくりと彼女に近付き彼女に向けて右手で頬をビンタした。
突然の事に脳が反応出来ていないのか叩かれたと言うことがわかってないかのように首を傾げている。
『粉雪ちゃん。紅葉さんは道具なんかじゃない。彼女は人間なんだ』
『お前が人の事を言えるのか殺人鬼!』
ボクの言葉に怒りを感じたのか彼女は激昂しながら叫ぶ。
泣き叫ぶように。
母に八つ当たりする子供のように。
叫んでいた。
『…粉雪ちゃん。確かにボクは君の街の人を皆殺しにしてしまった。泣き叫ぶ人も助けを請う人も皆殺した。それについては君に対しても謝らなくてはならない。でも、それだけだ』
『…なんだと?』
『最初からボクを狙って殺しに来たならボクは喜んで君に殺されただろう。だけど、粉雪ちゃん。君は無関係な人を殺しすぎた。それにボクの仲間も殺そうとした。そんな君をボクは許すことは出来ない。これ以上やるならいくら君でも…殺す』
ゴクリと誰かの喉がなる。
それはボクの喉の音だったのかもしれないし違ったのかもしれない。
『もう一度だけ言うよ、粉雪ちゃん。これ以上やると言うなら…ボクは君をバラバラに引き裂いて喰らってやる』
『…ふざけるな。それなら私のこの怒りはどうしたらいい!お前へのこの衝動は!』
ボクの脅しは粉雪ちゃんの怒りを刺激しただけらしい。
先程よりも大きな声で叫び倒す。
その姿は怒りと言うよりは悲痛に満ち溢れていた。
そんな彼女を見ると少し辛い。
『ボクの所に来たらいいじゃないか、粉雪君』
不意に聞こえてきたのは紅葉さんをすでに許していた雪さんの声。
それに反応して雪さんを射抜くように粉雪ちゃんは睨むが雪さんはそんなことでは動じない。
いつも通りニヤニヤと嫌らしく笑いながらボク達を見据えている。
『…なんでですか?』
『ボクの所に来たら毎日凜君を殺しにかかれるよ?それに彼は彼の周りの人間に手を出さない限り君を殺しはしないだろう。ボクの所に…おいで。食人鬼に魅入られた悲しき乙女・歌虚粉雪君。ボクは君が欲しい』
そう言って彼女は戸惑う粉雪ちゃんに手を伸ばす。
粉雪ちゃんもその腕を暫く見つめた後雪さんへと腕を伸ばそうとして…
『そんなことされたら困るんだよ。そいつは実験動物にするんだからな』
聞き覚えのある声と共に響くのは何かが突き刺さる音。
最初に見えたのは腹部から粉雪ちゃんを貫く薄い鋼鉄の槍。
見覚えのある武器だった。
そう、それを最後に見たのは二年前。
その槍の使い手は…
『なんで…なんで…なんでお前が生きてるんだ!恭弥ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
一気に何十本ものナイフを空中へと投げ飛ばす。
それを見た男…
『よう、久しぶりだな。凜』
ボクの全てを奪った…ボクを裏切りボクを殺人鬼へと仕立て上げた男、神楽院恭弥は全てのナイフを弾き飛ばし笑った。




