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黒き乙女の鬼語  作者: 紅河崎アリス
食人鬼
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神楽院恭弥

何という世の中だ。

狂人が恥を知れと叫ばねばならんとは!

〜A・タルコフスキー〜

神楽院恭弥。


彼に関してボクが知っている事は、果てしなく少ない。


知っているのは身長、性別、顔、話し方、性格、笑い方。


それくらいだった。


他は何も知らない。


彼が本当に高校生と言える年だったのかもボクは知らなかった。


だからこそ、ボクは恭弥と仲良くしていたんだと思う。


お互いがお互いの事をほとんど知らない。


そんな、ほぼ他人のような関係に酔いしれていたんだと思う。


彼との関係に陶酔してしまったのがボクの罪だったんだとも思う。


だが、彼はボクの陶酔なんて知らん顔をして俺を裏切った。


いつものように。


嫌らしく笑いながら。


ボクの全てを奪いボクの全てを血の海に染めてボクの手によって死んでいった。


そう、確かに殺したはずだった。


雨の降りしきる中、殺人鬼へと変わった瞬間に彼の心臓部をボクの右腕が貫いていたのだから。


なのに、恭弥は生きている。


あの日の事などなかったかのように。


ボクは、それが…許せない。


『恭弥ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』


叫びながら全力で跳躍し彼へと襲い掛かる。


身体中の全ての細胞が叫んでいるのがわかる。


こいつを殺せと。


鳴き叫んでいるのがわかる。


だからボクはそれに抗わない。


一気にナイフの射程距離に潜りこみ横薙ぎに振るう。


が、恭弥はナイフを気にも止めないらしい。


手が裂けるのも気にせずにナイフの刃の部分を掌で受け止めボクが動けないように固定したまま顎を蹴り上げた。


『がっ…はっ…』


顎が蹴り飛ばされた事により脳が縦に揺さぶられ動けないまま空中へと投げ飛ばされる。


着地地点に見えるのは長い工業用の杭。


雪さんを貫いたやつだろう。


空中で身動き出来ないまま杭へと真っ逆さまに落ちて行く。


このまま落ちるとボクは杭に突き刺さるだろう。


雪さんのように。


だが、恐れはない。


信じているから。


空中のボクなどいとも簡単に射抜く事の出来る彼女の弓の腕前を。


『まったく、なにをやっているの凜』


その声と共に聞こえるのは空気を切り裂く一筋の音。


その音はそのままボクの服の裾を射抜きボクはその衝撃を利用して脱出する。


昔からよくやった技だった。


『すいません、紅葉さん』


裾を破って壁に突き刺さった弓から離れ地面に着地をする。


『お礼は後ね。とにかく今は粉雪様を助けないと。後ろは任せて貴方は行きなさい』


『わかりました!』


彼女の言葉に返事を返すや否や駆け出し始める。


狙いはもちろん恭弥の首。


だが、今は粉雪ちゃんを助ける事が先だ。


腹部を槍に貫かれ倒れ伏している彼女の元へと走り抜けなくては。


彼女の倒れ伏している所からは凄まじい量の血液が流れ出し蒸発していっている。


急がなくては危ないだろう。


それに、恭弥はボクの目的をわかっているだろう。


彼から粉雪ちゃんを取り返すのは容易ではない。


『おいおい、ツレねぇなぁ。凜。もっと遊んでくれよ。俺を無視なんてひでえぜ?』


『黙れ』


そう言いながらナイフを振るう。


槍とナイフ。


リーチのまったく二つの武器がぶつかり合い火花を散らす。


だが、触れ合っているのは一瞬。


すぐに離れ後ろへと下がりながらナイフを投擲。


恭弥が首を動かすことによって出来た隙を逃さずに懐へと潜り込みナイフで切り上げる。


ナイフが肉を裂く感触を掴みながら更に深く踏み込もうとするが既に槍が引き戻され目の前へと迫っていた。


『ぐっ…⁉︎』


それをかわそうと体を捻るが既に踏み込んでいてかわせるはずがない。


槍はボクの肩を貫き一瞬で引き抜かれる。


引き抜かれた瞬間に肩から血の霧が噴き出し激しい痛みが発生するが気にせずに大技を放ち隙だらけの恭弥の横を擦り抜け粉雪ちゃんの元へと駆け寄る。


『粉雪ちゃん!』


『触る、なですよ。貴方なんかに、助けられたく、ない』


顔を真っ青にしながら血を吐いている粉雪ちゃんはそう強がっていた。


こんな状況なのに。


凄まじい精神力だ。


『そうかい。だけど、ボクは君を見捨てない。嫌でもなんでも助けさせてもらうよ』


粉雪ちゃんを抱え上げ雪さんの方へと跳躍しながらそう呟く。


そうすると、彼女は悔しそうに唇を噛み締めながら目を閉じた。


雪さんの元へと着地し今にも生き絶えそうな粉雪ちゃんの治療を二人に頼む。


『粉雪ちゃんを!』


『ああ、わかっているよ。紅葉君、治癒の方法は覚えているかい?』


『はい、雪様』


治療を始めようとしている二人に粉雪ちゃんを預け恭弥の元へと跳躍する。


だが、彼の元へと戻ると


『…あーあ。連れてかれちまったか。んじゃ、今回は俺の負けでいいや。じゃあな、凜。久し振りに楽しかったぜ』


そう言って恭弥はボクの前から離れ何処かへと歩いて行こうとする。


『待て!きょう…っ!』


逃がす訳にはいかないと恭弥の元へと走ろうとした瞬間、ボクの足元付近の地面を何処から撃たれたのか銃弾が貫いた。


それに、気を取られている間に恭弥は目の前から消える。


一瞬で。


影も形もなく。


それを見て、一度頭を抱えて…


絶叫した。

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