裏切り
人間のみがこの世で苦しんでいるので、笑いを発明せざるを得なかったのだ
〜ニーチェ〜
鋼鉄のハンマーは果たして私へと振りおりては来なかった。
『んん?なんなん、自分は』
ハンマー女は不思議そうな声を出しながら獰猛に笑っていた。
どうやら、誰かが彼女のハンマーを止めてくれたらしい。
いや、誰かではないか。
誰が止めたのかなど分かりきっている。
『私の名前は、神楽院知藺乃。霊華さんの部下であり力のない相棒です』
『力なくなどは…ありませんよ、知藺乃』
痛む頭部を若干上へと向けると見えたのは警官の制服などどうでも良いかのような若者向けのたなびくスカート。
更に上へ上げるとまたまた若者向けに改造されたいつも変えろと言っている可愛らしい制服。
更に顔を上げるといつもの見慣れた顔。
いつも私を手助けし私を守ってくれた存在。
神楽院知藺乃。
彼女がハンマー女の一撃を左右の専用銃・白狐で食い止めていた。
『あんたは…雑魚食人鬼を所構わずぶっ飛ばしとった姉ちゃんやんか。おもろいな』
『恐れ入ります』
笑うハンマー女の言葉に一言返した後に一瞬で白狐を逆さに持ち発砲。
一般の拳銃の千倍以上の衝撃で加速し上から押さえつけていたハンマーを弾き飛ばす。
『おっとっと』
急激に弾き飛ばされたことにより姿勢を崩したハンマー女の好きを彼女は見逃さない。
『終わりです』
白狐の持ち方を元に戻し心臓へと発砲する。
その弾丸を心臓部へと受けたハンマー女は後方に弾け飛ぶ。
当たり前だ。
バズーカの威力すら超える威力なのだから。
普通の人間が発砲なんてしたら腕が弾け飛んでしまうだろう。
神楽院の彼女だから出来る技だ。
白狐の一撃を心臓部に食らったハンマー女は壁に叩きつけられた後落下して地面に倒れ伏す。
白目になり体をピクピクしているハンマー女を見れば白狐の威力は一目同然だった。
『…知藺乃。貴方、こんなに強かったでしたっけ?』
相手が倒れた所を見届け床の方に体を預け彼女へと質問を投げかける。
もう、しばらく体が動きそうにない。
身体中の骨がボロボロだ。
知藺乃がいなかったら今頃どうなっていたかと思うとゾッとする。
『…知藺乃?』
変だ。
いつもなら一瞬で返事をするはずの彼女がまったく返事をする気がなさそうに沈黙を保っている。
あまりに返事をしないのでどうしたのかと思い彼女を見ようとすると…
『当たり前だろ。姉貴は幼少の頃からずっと戦闘マシーンへと改造されてきたんだ。あんな雑魚苦戦するのすらあり得ない』
不意に低めの男性の声が聞こえてきた。
声に驚いて飛び起きてみるとそこにいたのは白色の髪をした男。
何処か知藺乃と同じ雰囲気を持った彼は得意そうに笑いながらこちらを見ていた。
『…なんです?貴方は』
『俺かい?まあ、俺の事はいいじゃないか。そんな顔で睨むなよ。美人が台無しだぜ?』
私の問いかけを笑い流しながら彼は倒れ伏しているハンマー女の元へと歩いて行く。
そして、彼女の横へと歩いて行くとまだ生きていたはずの彼女の心臓部を右手で貫き傷だらけの心臓を取り出した。
『…っ⁉︎何を!』
『ん?何って凜の知り合いの姉ちゃんの所に送られた食人鬼はその姉ちゃんに消し飛ばされたらしいからな。それに、他のやつも凜に切り裂かれて肉塊にされたからな。実験動物にするならこいつ以外はいねえんだよ』
そう言って彼はハンマー女を担ぎ上げる。
既に事切れているのか彼女はもう動かない。
『待ちなさい!』
『んあ?なんだよ』
私の呼びかけに反応はしても歩みを止めようとはしない。
『その女を…渡すわけにはいかないんですよ!』
ボロボロの体を精一杯動かし彼へと近付く。
鬼相手ならまったく効かないだろうが一般の人間ならまだ殴り飛ばせるだろう。
彼の近くへと行くと思い切り右手を振りかぶり彼を殴り飛ばそうとして…
止まった。
いや、違う。
正確には止められた。
いつもの殺人鬼の凜にやるように。
誰が私を止めたのか。
いや、考えなくてもわかる。
『…どういうつもりですか?知藺乃』
そうして私は裏拳を放った。
だが、止められた。
当たり前だ。
彼女にそんなもの当たるわけがない。
『久しぶり、恭弥。待ってた』
彼女は裏拳をした私の事は気にせずに男へと話しかける。
『ああ、姉貴。迎えに来たよ』
そう言って二人は歩いて行こうとする。
知藺乃も一緒に。
『待ちなさい!知藺乃!』
歩いて行こうとする二人を止めようと走る。
だが、二人は止まらない。
やむを得ず知藺乃を止めようと殴りかかるがその前に知藺乃に拳を止められそのまま…
『霊華さん、いままでありがとうございました。楽しかったです』
彼女の特異武装。
白狐によって殴り飛ばされた。
それにより壁を貫き吹き飛ばされて行く。
壁を貫いたくらいじゃ止まらない。
警察署の主柱になっている柱すら貫いて私は飛ばされ最後の壁を貫く時は私の意識は飛んでいた。
最後に見えたのは去って行く二人の姿。
私が意識を失った時には二人は最早いなかった。




