プラシーボ効果
女性は好きだが、理解しようとすると破滅する
〜チャップリン〜
『あら、風下。楽しそうじゃない…私も混ぜろよ』
そう言って、蓮宮寺七花は青年を掴んでいた手を離し青年を蹴り飛ばした。
青年は、急な出来事に思考力が着いて行けていないのか七花に為す術もなく蹴り飛ばされ壁に叩きつけられる。
大理石の壁には一瞬にして罅が入り七花の蹴りの威力を伺わせる。
『てっ…てめえ…七花。ふざけ…ん…な…』
死神を圧倒するような実力を持つ青年・風上風下ですら七花の蹴りを受けてノーダメージとはいかないらしい。
ピクピクと体を震わせながらめり込んだ壁から滑り落ちる。
『お主…先程たしかに心の臓を突き刺した筈だ。なぜ、まだ生きている?』
そんな風下の存在を気にせずに死神は脇差を七花に向ける。
そう、たしかに死神の疑問は正しい。
七花はつい少し前に死神に心臓を貫かれ倒れ伏したはずなのだ。
だが、今、彼女はまるでなにもなかったように風下を笑っている。
『んぁ?ああ。これ?』
そう言って七花は自らの衣服の胸元を見せると、そこには一部分だけなにかに突き刺されたような穴が空いている。
だが、その下にある突き刺された筈の肌にはまったく傷が付いていない。
『あー…説明すんの面倒くさいな…あんた、プラシーボ効果って知ってる?』
プラシーボ効果。
ラテン語の「I shallplease」(私は喜ばせるでしょう。)に由来している医療法。
薬理作用のないものによりもたらされる症状や効果のこと。
『なんか、上に親切な説明が書いてあるからまあそれを読みなさい。この効果には三つの条件があるのよ。一つ、暗示効果。二つ、条件付け。三つ、自然治癒力』
存外、面倒くさがりなのかと思ったら細かく説明するタイプらしい。
指を一本ずつ上げながら七花は一つずつ説明していく。
『ここで私が付けた条件は
一、胸の傷が塞がる。
二、必ず相手を倒すこと。
三、私の治癒力は鬼と同じレベル
つまり、あんたを倒せなきゃ私は死ぬわ。でも、あんたを倒すまで私は死なない』
七花はファイティングポーズを取りながら楽しそうに笑う。
そんな彼女に対し奇妙そうな目を向けながら死神も脇差を構えた。
『ふん、また心の臓を貫いてやろう。いざ、尋常に…参る!』
死神は一瞬で跳躍し七花の胸元に入り袈裟斬りをしようとする。
スピードは先程の倍以上。
一瞬で殺してやる。
そう思っての袈裟斬りのモーションだった。
だが、鼠が起きてしまった獅子に勝てるわけがない。
『…っ⁉︎』
死神のスピード以上の素早さで死神の目の前に降り立ち空中へと蹴り上げる。
そのまま拳を構え一言。
『バイバイ』
空中から落ちてきた死神へと拳を一閃。
一瞬で死神の体は弾け飛び輪郭すら残らない程に吹き飛ぶ。
二撃。
たかが、二撃で自らの胸元を貫いた相手を一瞬にして叩き潰してしまった。
まさに最強の名に相応しい雄雄しき姿だ。
『さぁって、片付けして運動後のデザートでも食ーべよ』
だが、戦い終わった七花は一瞬前の姿なんてどこに行ったのかと思いたくなるくらいいい笑顔で片付けを始めたのだった。
ちなみに、風下はまだ倒れ伏している。




