驚愕
私はやり返せない小さなものを痛めつけるのが好きなの
〜メアリー・ベル〜
『なんっ…で…』
そこまで言って今にも崩れそうになっている膝を抑える。
自分の腕で触れるとよくわかる。
震えていた。
ただ…
ただ、攫われた雪さんを助ければいいと思っていた。
攫っていった敵を全員殺してしまえばいいと思っていた。
なのに…
なのになんでこんな風になってしまうのか。
一度落ち着こうと息を吸おうとするが肺が上手く機能していないのかまったく空気が入ってこない。
手でいくら抑えても震えは止まらない。
震えは…
増すばかりだ…
『なんで?はっ!決まってるじゃないですか!復讐ですよ!それ以外になにがあると言うんです!?』
粉雪はそんなボクを蔑むように見ながら笑う。
本当に嬉しそうに…
笑う。
この時点で、ボクの戦闘意欲、殺人衝動。
怒りなどの類は既に霧散していた。
ボクは、大きく溜め息を吐き煙草を取り出す。
漸く敵討ちをしてもらえるんだ。
最後の晩餐にこれくらいはいいだろう。
煙草の煙をこれまでにないくらいに目一杯肺に取り込みゆっくり吐き出す。
もう、早く彼女に殺してほしかった。
ボンヤリと彼女が殺してくれるのをゆっくりと待つ。
煙草を口に加えポケットに手を入れ目を閉じる。
そのまま少しの間そこに留まり彼女の行動を待つ。
だが、彼女はそんなボクを見てつまらなそうに呟く。
『…あなたまさか死にたいんですか?』
彼女の問いに無言の了承を返す。
そうすると彼女はぼやきながら続ける。
『そっか。死にたいんだ…じゃあ、あなたを殺してあげません。代わりにこの人をあなたの目の前で殺してあげます』
その言葉に素早く反応し顔を上げる。
まさか…まさか…
『はーい!それではご登場していただきましょ~。吸血鬼こと篠宮雪さんでーす』
彼女の声と同時に運ばれてきたのは十字架に腕と足を縫い付けられ気を失っている雪さんだった。
自分の血管がぶち切れる音が聞こえた気がした。
『あああああああああああっ…あああああああああああっ…あああああああああああっ…あああああああああああっ…あああああああああああっ』
叫び声を上げながら雪さんの下へ走る。
目の前には200を超える食人鬼。
だが、関係ない。
一番前にいた食人鬼の首をナイフで切り飛ばした後自分の胸元からナイフを四本取り出しそれぞれをそれぞれ違う方向に投げる。
全てが何にも掠らずに壁に突き刺さるが狙い通り。
最後に手袋を取り出して装着し全力で引っ張り上げる。
それで、終わりだった。
ヒュルヒュルと空気が裂ける音が聞こえ食人鬼達の体が爆散するように弾け飛ぶ。
食人鬼の血液と肉片が雨のように降り注いでくる。
だが、不思議と気にならなかった。
残り食人鬼の数は残り二人。
絶対に…
殺してやる。




