無双
金を出せ、出さねば火を付ける
〜小林光弘〜
『まったく、やるせない気分になるわね』
場所は雪さんのマンション。
そこに佇む三條七花。
そして、彼女の周りの地面に埋まっている食人鬼の山々。
まさに圧倒的実力だった。
あの五百はいたであろう食人鬼を相手に彼女は片手間で済ましたのだ。
『こんな雑魚相手に私の大事なスイーツタイムを邪魔されるなんて…ムカつくわ』
そう言って、彼女は床に埋まっていた食人鬼を引っ張り上げ投げ飛ばす。
明らかに腹いせだった。
そのまま床に叩きつけられた食人鬼の上に座り込み凜から取り上げた煙草を口に含み火を点ける。
普段はマンション内では禁止だが今は特別。
煙草の香りと煙を楽しみつつ空を見上げる。
今宵は満月だ。
満月の日に吸う煙草は美味い。
まあ、煙草はいつ吸っても美味いものだが。
それにしても、凜は雪ちゃんを守れているのだろうか。
あの子、弱いのに大丈夫だろうか。
そんなことを考えながら煙草の煙を吹き出しているとマンションの入口に気配を感じた。
『…ふふ。今度はまともそうね』
そんな事を呟いていると急に目の前に気配を感じた。
『…は?』
驚きながら上を向くとそこにいたのは黒ずくめの男。
七花が上を向くと同時に既に男は行動している。
男は腰の刀を引き抜き七花に向けて振り下ろした。
『くぅっ』
それに対しバク転で回避するが、眼前まで迫っていた刃を避けれたのは奇跡以外の何物でもない。
もし、運悪く頭を前方に傾けていたら今頃私の命は事切れていただろう。
首を後方に下げ後ろに飛ぶのが間に合わなかったら…と、思うとゾッとする。
『で、なんなのよ?あんたは』
無意識に拳を構え我流の構えを整え敵に尋ねる。
恐らく凜が言っていた食人鬼と言う奴だろう。
先程の奴らとは気配がまるで違う。
そして、奇妙な風貌をしていた。
まず、一番最初に目に付くのがその顔に付けた髑髏の仮面。
そして全身を覆う黒い衣。
最後にその手に握られた漆黒の大鎌。
まるで、死神のような出で立ちだった。
『…応える義理はない』
死神はそう言って跳躍する。
動きが見えたのは一瞬だった。
死神は瞬きもしない内に目の前に現れその大きな鎌を振り上げている。
それに対し驚きの声をあげながらも回避行動は欠かさない。
横に回転するように地面を蹴り鎌をかわし地面に足が着いた瞬間未だ空中にいる相手の顔にめり込むように裏蹴り。
だが、死神には当たらない。
相手はそれを空中でかわし鎌を手放し腰の脇差しを即座に引き抜く。
しかし、それを見越しての裏蹴りだった。
腰部を急激に捻りもう一方の脚で相手の顔を蹴り跳ばす。
メキッと言う小気味いい音を立てながら死神は吹き飛んでいった。
少しして聞こえてくる爆音。
きっと壁に叩きつけられたのだろう。
可哀想に。
『はい、お仕事終わり!』
そう言って七花は自室に戻ろうとした。
きっと、少し休んでからマンションの掃除でもするのだろう。
だが、彼女は足を止めた。
なぜか?
聞こえたからだ。
瓦礫の崩れる音が。
地面をゆっくりではあるが歩く音が。
そして最後に聞こえてきたのは肉を割き骨を砕くなにかを食べる音だった。
なにを食べているのか?
考えるまでもないここには周囲に倒れている人形となった人間しかいない。
『ふざっ…けんなよ…ごらぁ!』
七花は、未だ土埃を上げている瓦礫に向け走る。
まだ、敵は見えない。
だが、気配はわかる。
だから、その気配の方向に向け全力の拳を叩き込んだ。
『ふざけてなどいない。単なる食事だ』
いなかった。
自らが察知した筈の敵は既にそこにはいなかった。
ならば、どこにいるのか?
気配を手繰ろうとして失敗した。
視界が朦朧としている。
胸元が熱い。
灼けている感覚だ。
そう思い胸元を見るとなにかが胸元から突き出していた。
それは、まるで鉄のようで尖った…
刀だった。
『さようなら』
意識が飛ぶのが自分でもわかった。
ぐらりと体が倒れる。
倒れる最後。
刀を鞘に仕舞う音がやけに響いた。




