殺し愛
知的な挑戦、スリル、逃避、知識の探求。
そして、なにがどうなっているのかを知るためだ
〜ケビン・ミトニック〜
結論から言うと殺し合いは一瞬で終わった。
いや、殺し合いにもなっていなかっただろう。
知藺乃さんは遠目からで少しわかりにくいが信じられないといった表情をしている。
それほどまでに圧倒的だった。
七花さんはもうこの場にいない。
今頃雪さんの夜食づくりに勤しんでいるのだろう。
ご苦労なことだ。
ここまでいえばわかるだろう。
殺し合いはボクの負けだ。
本当に一瞬の出来事だった。
開始早々懐に入ったボクを思い切り蹴り上げ全力の回し蹴り。
彼女にとってはそれだけで十分。
案の定その蹴りを受けたボクは吹き飛び遊具を貫きなお止まらず地面をえぐり最終的に大きな樹木に叩きつけられ終わった。
たった二回の足技で殺し合いは終了したのだ。
七花さんは笑いながら『もう終わり?弱いわね~』などと言っていたが冗談じゃない。
こんなもの誰が食らっても瀕死の重体だ。
化け物め。
骨が数本ほどイッたのが自分でもわかる。
額から滴る生ぬるい液体を感じながら必死に動こうとするが動けない。
どの部位もピクリとすら動かなかった。
ボクが声も出せず動けずにいると心配する様子もなく『んじゃ、帰るわ。そこのお嬢ちゃん。それよろしく』そう言って知藺乃さんから買い物袋を受け取り七花さんは帰っていった。
知藺乃さんは話し掛けられビクッと体を震わせながら無言で了承する。
あーあ、七花さん怖がられたな。
根はいい人なのに。
などと余計なことを考えていると口から明らかに許容量を越える量の血が吐き出てきた。
それはボクがいる周辺の大地に飛び散り蒸発する。
鬼化の影響だ。
この世界は人外の存在を認めない。
自分達の認識するものしか存在を許さない。
まるで人のように。
異物を排除していく。
だが、知藺乃さんはそれを見ても別段驚いたりしなかった。
見慣れているのだろう。
彼女達の仕事は鬼を抹消することなのだから。
つまり、彼女にとって今の状況は最大の機会であるはずである。
標的が半死の状態で寝転がっているのだから。
狙ってくるのが当然だろう。
それを見越して多種多様に仕込んでいるナイフを使いやすいように動かしていき準備をする。
これで、いつ殺しに来られても抵抗出来るだろう。
しかし、彼女の行動は予想とは違った。
いや、違いすぎた。
彼女がまず最初にしたのは闇討ちなどではなく治療だった。
どこにしまっていたのか包帯を巻き折れたところを添え木で固定していく。
『大丈夫ですか?』
的確に治療をしながら彼女は本当に心配そうに聞いてくる。
なにかこっちが悪いことをしたみたいだ。
『はい、大丈夫です。すいません』
強がりであるが大丈夫という意志を伝え傷を抑えながら立ち上がる。
気分的には立ち上がりたくなかったのだが立ち上がらなくてはならなかった。
これ以上彼女に心配させるわけにはいかない。
『すいません。後処理はお願いします』
そう言って、公園の出口に向かう。
さあ、雪さんにはこの傷をなんと言おうか。
七花さんに迷惑をかけない気の利いた言い訳を考えないとな。
そんなことを考えながら煙草を取り出そうとしたら木箱が入ってなかった。
どうやら七花さんに持って行かれたみたいである。
泣きそうになった。




