被害者
後悔はしていないが償いはする
〜山口ニ矢〜
『ふぅ…』
七花さんに返して貰った煙草をポケットから取り出し火を点ける。
雪さんのマンションで吸えなかったからか妙に美味しく感じる。
うん、うまい。
しばらく煙草の味を堪能し歩き始める。
向かうのは勿論霊華さんの部下がいるところ。
待ち合わせは近所の公園だったはずだ。
最初は、霊華さんのマンションだったはずなのに随分遠くなったものだ。
『まあ、その分。あの人がまともだと言うことだろうけど…』
思い付いたことを気ままにぼやきつつ公園へと歩みを進める。
今頃ボクが籍を置いている高校では終業式の真っ最中だろう。
今時の高校生は大変らしい。
嫌いな教師に媚びを売り嫌いな勉強をやり続ける。
それが、高校生である。
青春などテレビの中だけの話だ。
『…なんて、知らないけどね』
ま、たとえ青春を謳歌していたとしても学校にあまり行かないボクが知ってるわけがない。
いや、まず興味がないが。
『そこかな?』
着いたのは、雪さんのマンションから歩いて五分の公園。
幾つかの遊具にベンチ、砂場しかない寂れた公園だ。
少子高齢化の影響だろう。
中学の頃に学んだ気がする。
あまり覚えてないが。
世知辛い世の中になったものだ。
ボクたちが子供の頃などもう少し遊び場があった気がするが。
そう思いながら、公園内に入る。
子供はいなく人影は一人しかなかった。
『あ、どもども〜。霊華先輩の部下こと神楽院知藺乃です。今日はよろしくお願いしまっす!』
そこにいたのは少女、薄橙に染まった髪を元気に振り回しながらこちらに手を振っている。
霊華さんの部下と言うならボクより年上のはずだが、彼女はまるでそう見えなかった。
高校生と言っても通じるだろう。
作り物のような美しさを感じる雪さんや七花さんの彼女の世界に引き込まれるような美しさとも一味違った美しさだった。
『どうも、東雲凜です。粉雪ちゃんの引き継ぎについて聞きに来ました』
知藺乃さんの元まで歩いていき話し掛ける。
『はいっ!霊華先輩に聞いてますよ!え〜とですね…』
彼女はにっこりと笑いながら説明を始めてくれた。
まず、粉雪を家に滞在させる日程。
これは三日間でいいらしい。
次に費用。
すべて警視庁特務一課から経費で下りるようだ。
ありがたい。
そんな思いを知藺乃さんの最後の一言がぶち壊しにした。
『食人鬼の被害が止まっていない?』
『ええ。昨日の深夜から今日の午前中にかけて9人襲われています。あと、不思議なことにうちで保管していた被害者の死体も同時期に無くなったんです。百以上あった死体がゴッソリと消えてしまいました』
ボクは知藺乃さんの話を聞きながら自分の耳を疑った。
昨日の深夜から今日の午前中にかけてなど有り得るわけがない。
何故なら、あの二人組の食人鬼を始末したのが昨日のお昼過ぎなのだ。
新たな被害が出るわけがない。
『…まさか』
最悪の考えが頭をよぎる。
知藺乃さんに目配せすると彼女は小さく頷き、公園の入り口に指を向けた。
『ええ、どうやらそのまさからしいですね。あれを見てください』
そこにいたのは数人の男達。
ここの地元のヤンキーなのか頭を金髪に染めて金属バットを握っている。
だが、様子が明らかにおかしかった。
なぜなら彼らは、口許から涎を垂らし白目を向きながらこちらに向かって来ていたからだ。
『彼らは…』
思い当たることがあるのか知藺乃さんは額をいつの間にか右手に握られていたドイツ製軍用拳銃で掻く。
『誰なんですか?』
いつでも臨戦態勢に入れるようにこちらも服の中のナイフの位置を移動させる。
『彼らは死体No.01』
知藺乃さんは呟く。
信じられないと言うように。
だが、これが現実だ。
受け入れるしかないのだろう。
『最初の…食人鬼の被害者です』
どこからか少女の笑い声がした気がした。




