第311話 伯爵の孫娘
涙を浮かべながら2人を見守る伯爵と違い、生温かい微笑みを浮かべている私とビビアナに気付いたホセは面白いくらいに顔を赤くした。
頬の温度変化に気付いたのか、王様は頬擦りをやめて身体を離す。
「どうした? ああ、もう大人だものな、甘やかされるのは恥ずかしい歳だったか」
そう言って微笑む王様の目はとても優しくて、ホセが愛されているのが凄くわかった。
感動の対面だけど、護衛の人達を呼び戻すにはまたホセの色を変えておかないと。
私はコッソリとビビアナに相談する。
「ねぇねぇ、もうそろそろホセの色戻しておいた方が良いと思う? それともホセのお父さんの前に居る間は変えない方が良いかな?」
「そうねぇ、この屋敷の中に居る人達が黙ってるなら屋敷内は大丈夫だと思うわ。だけど全員信用出来るかどうかわからないものね、部屋を出る前にしておいたら?」
「屋敷内の者なら信用して良いぞ、全て身元の確かな者達だからな」
いつの間にか近くに来ていた伯爵が言った、だったら屋敷を出る前で良いかな。
「改めて礼を言わせて欲しい、賢者殿、そしてビビアナ殿、お陰で孫に会えただけでなく息子の状況も把握出来た。そしてホセと共に居てくれた事に感謝する、これからもよろしく頼む」
そう言って頭を下げた。
私はほんの少しだけホセに家族が居る事に対してビビアナは複雑な思いをしていないかと考えてしまったので思いついた事を口にする。
「伯爵、教会のシスターの話によると、ビビアナはホセが孤児院に来た日にホセのお姉さんになってあげてとベアトリス様に言われてからずっとホセの姉として共に過ごして来ました。だからビビアナは伯爵の孫同然です、ふふっ、良かったですね美人の孫娘が1人増えたじゃないですか」
「アイル!?」
私の言葉にビビアナが焦った様に声を上げたが、伯爵は嬉しそうに笑った。
「ははは、違いない! ホセの姉なら私の孫だ、ビビアナ殿、いや…ビビアナ、これからは私の事をお祖父様と呼んでくれ」
「そんな…」
「さぁ!」
「お、お祖父様…きゃっ」
お祖父様と呼ばれた伯爵がビビアナを抱き締めて頭に頬擦りし出した、驚いて可愛い声を上げたビビアナは、照れ臭そうにしながらも受け入れている。
うむ、よきかなよきかな。
私が満足して頷いていたら、頭をワシワシと撫でなられた。
「ありがとな」
ホセの小さな声に見上げると、伯爵から甘やかしを受けているビビアナを見ながら嬉しそうに微笑んでいた。
どうやらホセもビビアナの事が気になっていたらしい。
「おおそうだ、3人共今日からここで過ごさないか?」
ビビアナに頬擦りしていた伯爵が名案とばかりに顔を上げた。
「それは…ちょっと…。仲間があと3人居ますし、明後日には王都を出て帰るつもりなので」
「そうか…、む? 帰るという事は今は何も依頼を受けていないのか?」
お断りすると耳と尻尾がヘショっとヘタり、しかし次の瞬間には何か思い付いたのか尻尾が振られていた。
「ああ、オレ達のパーティは教会本部まで大司教を護衛した帰りだからな」
「ふむ、そういえば聖女様を迎えに大司教が1人向かったと聞いたな…、ん? その聖女は賢者ではなかったか…?」
王様の言葉に皆の視線が私に集中した。
「顔を出したからもうそれは終わった事です、女神様のお言葉通りに私はこの世界を楽しむつもりですから」
「「…………」」
王様と伯爵が黙ってしまった、ベアトリスとホセの生死にベルトランの事、しかもホセの仲間に賢者が居たりと情報過多だよね。
暫く無言だった伯爵がハッとして復活した。
「ンンッ、依頼を受けてないなら明後日から私が領地に行くまでの道中の護衛を依頼したいのだがどうだろうか? ここから5日程の場所なのだが…」
「それはリーダーに相談してみないと何とも…。リーダーは今日ギルドに顔を出しているはずですけど」
「ならば指名依頼を出しておこう、対外的にはベルトランの手紙を届けた時に意気投合したという事にしておけば良かろう」
「受けられるがどうかはわかりませんよ? 国に帰ったらビビアナの結婚式を挙げなければならないのであまりゆっくりはして居られないのです」
「何ッ!? 結婚式だと!? 孫娘の結婚式ならば出席せねば…、いっそ領地ではなく明日にでも爵位を息子に譲ってついて行くか…、うむ、良い考えだ! そうすればベアトリスの墓参りにも行けるしな、うむうむ」
伯爵は自問自答しつつ考えをまとめた様だ。
「狡いぞ伯爵! 私もベアトリスの墓参りに「陛下はいけません、公爵の目を引く様な事をすればまたホセが狙われるかもしれませんからな」
「ぐ…っ」
キッパリとダメ出しする伯爵に王様は言葉を詰まらせた。
「そういえば王様、公爵はどうにか出来ないんですか? 王妃様も公爵の被害者で、それなのに王様から冷たくされて可哀想ですよ」
そう言った途端に殺気の篭った目を向けられてしまった。
「そなたに何がわかる…!」
「わかりますよ、今日寄付しに行った貧民街の孤児院で偶然王妃様に会ったんです。もちろん王妃様は私を旅の冒険者としか思ってませんし、私が王妃様の身分に気付いている事も知りません。通りすがりの人に愚痴を溢したとしか思ってないでしょう、内容がベルトラン様から聞いた事と被っていたので鑑定して気付いただけですし。だから断言出来ます、王妃様は襲撃には無関係だったと」
「しかし…、あの公爵の娘な訳で…」
「襲撃の原因の一端は王様にもあるんですよ? 正室との間より先に側室に子供が出来れば揉める事はわかっていたでしょう!? それなのに何の根回しもせずに子供を「アイル、アイル」
「ん?」
悲しそうな王妃様を思い出して説教が止まらなくなりそうだった私をビビアナが止めた。
「王様を泣かせるのはどうかと思うの」
言われて視線を向けると、王様の目には涙が浮かんでいた。
「え!? あのっ、泣かせるつもりは…! と、とりあえず王妃様の話はきちんと聞いてあげて下さい! 王妃様も父親の暴走を止めたいという気持ちがあるみたいなので!」
「それは本当か…!?」
私の言葉に王様は目を見開いた。
「本人から聞きましたから」
コクコクと頷くと王様は深く考え込んでしまった。
そしてそんな遣り取りの間に伯爵はちゃっかりビビアナとホセから私達の拠点の場所を聞き出し、パルテナ遠征計画を立てていた。




