第146話 自分の居場所
王都を出て1時間後、テディは隠蔽魔法を掛けた布を取り払った。
ちなみに本来ならサイズ的にホセの馬にテディが乗って、ビビアナの馬に私が乗るのが重さのバランス的に良いのだが、そうするとビビアナの視界の確保が出来なくなるのでビビアナの馬にテディが乗っている。
街道を馬で移動する間はポンチョのフードを被っているのでパッと見は獣人とはバレない、尻尾も短いので大きめのズボンを履いていれば目立たないし。
途中の町で古着を数着買ってテディの着替えを増やしたら凄く恐縮されてしまった、今まではポンチョこそ連れ歩く為に与えられたらしいが、普段着は2着を着回してボロボロになるまで着ていたらしい。
道中の食事も軽食程度であっても凄く喜んでくれて食べさせ甲斐がある、それ以前に一緒に食べるという事に抵抗があった様で皆が一斉に食べ始めても食事から目を逸らして我慢しようとしていた。
奴隷は主人の食べ残しや最低限のパンとスープだけというのは珍しく無いらしい。
そんな話を聞かされてはアレもコレもと食べさせたくなるのは仕方ない事だと思う、だけどホセに甘やかし過ぎだと叱られてしまった。
孤児院に預けるのに、それまでに私の甘やかしに慣れてしまったら孤児院での生活が辛くなると言われてしまっては反省するしか無い。
移動中に時々魔物が出たけど慣れているテディは騒ぎもせず大人しかった、寧ろ率先して討伐しようとしていたくらいだ。
しかし移動ばかりで身体が鈍るという事で交代で討伐する為、本人の希望によりそのローテーションにテディも入った。
矢の命中率はビビアナと変わらないくらいだが、次の行動を先読みして当てるという点ではビビアナの方が上手だ。
そのせいかテディはビビアナをとても尊敬する様になっていた、宿屋に泊まる時はサイズの関係で私とテディが一緒に寝るので、その時は私に甘えてくれるけど。
「しっかし…、テディの甘え方はアイルそっくりだな、お前の真似してるぜアレは」
もうすぐリカルドの実家の領地という所まで戻って来た頃にホセが馬上でビビアナと楽しそうに話をしているテディをチラリと見て言った。
「え? そうかな?」
「最初は今まで甘える事なんて殆ど無かったんだろうなってわかるくらい戸惑ってたみてぇだけどよ、今のテディを見てたらお前がビビアナに甘えてる時と同じ態度に見えるぜ。だからこそビビアナもテディを可愛く思ってる感じだしな、お前の居場所を取って代わられたらどうするよ?」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべているとわかる声で聞いて来た、悪ふざけで聞いているのはわかっているけど私の居場所を取って代わろうとするというのはピンポイントで地雷だ。
加奈子という存在を思い出させるせいでテディは違うとわかっていてもドロリとしたどす黒い感情が湧き出て来るのがわかる。
「……ッ、ハァッ、ハァッ、は…『身体強化』ッ」
「お、おい、どうしたんだよ!?」
息が上手く出来なくて、吐きそうなくらい気持ち悪い、思わず身体強化を使って馬から飛び降りると街道から外れて林の中で吐いてしまった。
吐いた事による生理的な涙なのか、感情から来る涙なのかわからないけど、とにかく涙が止まらない。
「ゲホゲホッ、……はぁ、『洗浄』……こんなにもまだ過去に縛られてるなんて…、いい加減忘れたと思ったのに」
自分が情けなくてまだ流れてくる涙を乱暴に袖で拭った。
皆が何事かと心配してるだろうから戻らないと、多分こっちから来たと思うんだけど。
戻ろうとしたらホセが追いかけて来たらしく声がした、でもちょっと気まずいなぁ、ちょっとだけ、ほんの少しだけ気持ちを鎮める時間が欲しい。
「『隠蔽』」
「アイル! …チッ、魔法で気配消しやがったな」
隠蔽魔法を使うと同時にホセがこっちに向かっていた足を止めてキョロキョロと辺りを窺っている。
スンスンと匂いを嗅いで少しずつ私の方へ近づいて来る、泣いたのがわかる顔をしていると思って熱を持った目元に治癒魔法を掛けた、ホセ達と出会ったあの日みたいに。
正確な場所はわからなくても匂いで近くに居るのがわかるのか、数メートル離れた場所まで近づいて来た。
ホセの尻尾が力なく垂れている、心配してくれてるんだと分かって不謹慎だけどちょっと嬉しい。
「アイル、近くに居るんだろ? さっきのは冗談だってわかってんだろ!? お前の代わりなんて誰もなれねぇに決まってんだろうが!」
う…、欲しかった言葉を言われて今度は嬉しくて涙が出て来た、今度は目を擦らない様に気をつけてそっと目尻を拭い、隠蔽魔法を解除する。
その途端にホセが振り向き、こっそり木の陰からホセを覗いていた私とバッチリ目が合う。
私を見つけて凄く怒った顔でズンズンと近づいて来るので思わず後退り、怒られると思ってギュッと目を瞑ると次の瞬間には抱き締められていた。
「ホ、ホセ?」
「悪かった! さっきの言葉はアイルにとって言われたく無ねぇ言葉だったんだろ? 様子がおかしくなって姿消したから焦ったぜ」
確かにホセの心臓がいつもより早いリズムを刻んでいる、ところでいつまで抱き締めているんだろうかと身動ぎしようとしても動けなかった。
隠蔽魔法と一緒に身体強化も解除しちゃったから力で抜け出すのは不可能だし、どうしようかと思っていたらホセが私を片腕でキープしたまま自分のリュックから何かを取り出した。
そして取り出した物はロープ、気付くと私はお腹をロープで縛られて縦抱きに抱き上げられていた。
ロープの反対側はホセのお腹を一周している。
「あの、もう逃げたりしないよ…?」
「逃げねぇんなら縛ってあっても問題ねぇだろ」
「………トイレとか」
「その時に外してやる」
結局そのまま皆の元へ戻ると、ロープを見て微妙な顔をしたものの、何も聞かずに出発してくれた。
ロープはシドニア男爵領の宿屋に到着するまでそのままだったせいで好奇の目に晒された事は言うまでもない。




