第145話 タリファス王都出発
宿屋に戻ると夕食には少し早いくらいの時間だったので一旦解体して貰った肉を受け取った事を報せて、明日以降の食料とテディの夕食を屋台で仕入れに行くと言ったらリカルドがついて来てくれた。
王都の人通りの多いところはスリなどの良からぬ輩が多いらしい。
「図書館で面白い本は見つかったか?」
「うん! 司書さんにお勧めの本を出して貰ったけど凄く面白かった! 昔は本当にドラゴンが居たみたい、ドラゴン素材を使った武器や防具を鑑定出来たら確定できるよね。1回見てみたいなぁ…あ、黒猪の串焼き!」
屋台通りで買い物しつつ美味しそうな物を買っていく。
「はは、ドラゴンの素材が使われていると言われている物は大抵国の宝物庫に納められてるだろうな」
「そうなんだ…、それじゃあ見るのは難しいね。あ、ありがとう!」
屋台の店主のおじさんに試食を差し出されたのでお礼を言って受け取り、1つをリカルドに渡す。
生地で肉と野菜をロール状に包んでいる物で、ミンチを使っているが包丁で叩いて作っているので肉の食感もしっかりあって美味しい。
リカルドを見ると気に入った様で目を輝かせている。
「お兄さん、10人前頂戴、サービスしてくれるなら20人前注文しちゃうんだけどな~」
「まいったなぁ、しょうがねぇ、嬢ちゃんが可愛いから20人前注文してくれたら2個オマケにつけてやるよ!」
「ホント!? お兄さん素敵~! それじゃあ20人前ね、だって美味しいもん」
私と店主の遣り取りにリカルドは動じたりしない、どう見てもおじさんという年齢の店主にお兄さんと言う事も、サービスしてくれるという言葉に店主を褒める事も。
大学時代に関西出身の友人直伝のお互い気分良くお得になる買い物の仕方なのだ。
注文品が出来上がる間に周辺の店を吟味する、試食を渡して大量買いした私達を周りの店の人達が見ているので、この後私達に試食を出してくれる可能性は高い。
その目論見通り私は夕食が要らないくらい試食を貰い、美味しい物は大量買いしてホクホクで宿屋に戻った。
汚れた服なんかを回収する為に一旦大部屋に寄るとエンリケが帰って来ていたので赤鎧を1体取り出して差し出す。
「はい、コレ情報料として赤鎧あげる。持ち込みで調理してもらって自分で食べるのも良し、ギルドに持って行って売っても良いよ」
「あはは、ありがとう。食べたいけど1人じゃ食べきれないなぁ、良かったら一緒に食べてくれない?」
「う~ん、疲れたし私は部屋で食べるつもりだから、もう1体出すから皆で食べてきて」
「え!? アイルが居ねぇと誰が赤鎧食べやすくするんだよ、オレ達は出来ねぇぞ?」
私はテディと食事するつもりだったから3人に話を振ったのだが、ホセは赤鎧は食べたいけど解体が出来ないからと待ったが掛かった。
リカルドは学生時代に王都に居たから出来るんじゃないかと視線を向けたが、首を振った。
「俺もあんな風には出来ないぞ、赤鎧なんて高級品は稀に1部を食べられたら良い方だったしな」
そうか、確かに学生が銀貨2枚を1回の食事で使うなんて事は無いよね。
仕方ない、先にテディに食べさせてから部屋でお留守番しておいてもらおう。
「わかった、じゃあビビアナも呼んでくるね。準備するから30分後にここに戻って来るよ」
「あれ? アイルとビビアナは部屋を移動したの?」
不思議そうに聞くエンリケに一瞬ドキッとしてしまった、事情があるとはいえ1人分の宿泊料金誤魔化しているという罪悪感で挙動不審になってしまいそうになる。
落ち着け私、自然な言い訳を考えるんだ。
「あ~…、うん…、明日は王都を出るし今夜はお酒を飲みたいなぁ、なんて思ったんだけどね、私酒癖が良くないから周りに迷惑掛からない様に個室にしたの」
ちょっと言い訳として苦しいかな、そんな事を思ったが、エンリケはあっさり納得した。
「あぁ、そういえば昨夜も酔って寝たまま運ばれて来てたよね」
ぐぅ…ッ、誤魔化せた事は嬉しいけど、複雑な気分…! エリアスがニヤついてるのがまたムカつく!!
その後ビビアナ達の待つ部屋に戻ってテディに夕食を食べさせてから静かにお留守番する様に言って皆で1階の食堂へ向かった。
食堂で食材持ち込みを打診すると、もう1体あって進呈するなら今日の食事代を無料にしてくれると言ったので差し出した。
ククク、元々エンリケにあげるつもりの分の3体で自分達も食べられて食事代が無料になったのはラッキーだ。
そして夕食時には私の鮮やかな赤鎧解体ショーを披露して客の注目を集めてしまい、商人だというおじさんにエールを1杯奢ってもらった。
ホセがジト目で見てきたけど、折角の厚意を無駄にしちゃいけないもんね、1杯だけねってビビアナも言ってくれたし!
「はぁ…、それにしても明日には行ってしまうのかぁ、君達の事気に入ったのに寂しくなるな…。拠点はパルテナのウルスカって町だっけ? トレラーガより向こうだから遊びに行くには遠いなぁ」
最後の1本の脚を手にして眺めつつエンリケがポソポソと呟いている。
「そうだな、依頼のついでなら兎も角ここからだと2週間はかかるし、遊びに来るだけの為にしては遠すぎるだろう」
「いっそ俺も拠点をパルテナに移そうかな、あとひと月もすれば赤鎧の時期も終わるから景気も少し悪くなるしな~」
「もし本当に拠点移動したらウルスカのギルドに連絡してね、また一緒にご飯食べようよ。ウルスカに来たら私の手料理もご馳走しちゃう!」
「本当かい!? それはウルスカに行く楽しみが増えたなぁ、いつか必ず行くから俺の事忘れないでね?」
「大丈夫だよ、意外に私の知り合いって少ないからさ、名前を忘れたとしてもエンリケの事は忘れないから」
「名前は忘れるかもしれないんだ…?」
「う~ん、それは次に会うまでの期間によるよね。10年後とかだったら怪しいな」
そんな遣り取りをしつつ楽しく食事をし、翌朝は朝食後にエンリケに挨拶して王都を発った。




