第123話 公爵家の護衛(14日目)
昨日は山を抜けて夕方には町に着いた、そこで山賊の遺体を引き取って貰い、山賊討伐の報酬もゲットした。
報酬は護衛の皆で山分け、本来なら雇われている護衛の分は主人の物になってもおかしくはないが、公爵から出張手当ての代わりに自分の物にして良いと言われているそうだ。
そして今日はやっと港町…むしろ港街という規模らしいエトレンナに到着予定。
ちょっと離れた所に漁港もあるらしく、エトレンナで新鮮な魚介類も手に入るというのでちょっと楽しみにしている。
「ホセとビビアナもタリファスは初めてだったよね? 僕も1回しか行った事無いけど」
昼休憩で食事をしながらエリアスが言った、へぇ、エリアスは行った事あるのか。
「ああ、エトレンナに行くのも初めてだな。なんつーか、行くなら王都方面っていう憧れみたいなのが昔からあったしよ」
「そうね、あたしとホセだけの時はトレラーガまでが限界だったけど。王都までの依頼なんてリカルドやエリアスとパーティ組むまで考えられなかったもの」
私は熱々のラザニアを冷ましつつ皆の話を聞いていた、てことは外国行くのが初めてなのは私だけじゃないのか。
文化の違いとかあるのかな、ちょっと楽しみ。
賢者アドルフが住んでたらしいし、ドイツ人みたいだし、もしかたら黒ビールとかあったりして…。
「…ル、アイル! 何ボーっとしてんだ? とっくに冷めてチーズ固まってきてるじゃねぇか」
「え? あ、えへへ、ちょっと考え事してた。海を挟んでるし文化って違うのかな?」
「どうせ食いモンの事でも考えてたんだろ。リカルド、どうなんだ?」
鋭い…、冷えて少し硬くなったラザニアを口に運びつつリカルドに視線を向ける。
「あ~…、パルテナよりも閉鎖的な考え…というか、獣人差別が根強い事でもわかるだろうが選民意識が強めだな。何年も前に国を出た俺よりクラウディオ様達の方が詳しいだろう」
リカルドはクロードへ話題を振った、クロード達は冒険者を辞めて依頼人の貴族という立場になったので皆呼び方を改めている。
私も1度改めたのだが、政略結婚に対する解決策を出した恩人と思っているのか、それとも愛称呼びを許した友達だと思っているのか、そのまま愛称で呼ぶ様にと言われてしまった。
2週間程一緒に過ごして思ったのは、この2人は育て方を間違えられただけで性根は悪くないという事だ。
ダメな事はちゃんと説明して納得したら無理は言わないし、ちゃんと言われた事を実行出来る。
公爵家の中で序列が低い事と、身分だけは高いせいで甘やかしとおざなりな対応が絡み合って我儘な子供が出来上がったという感じだ。
余談だがおざなりとなおざりという言葉があるが、「おざなり」はお座敷で盛り上げ役をしていた人の呼び方の1つで、客によって手を抜いたり適当な事をしていた事が語源で、「なおざり」がなお(そのまま)せざり(しない)という完全放置の意味だとか。
閑話休題
「そうだな…、話には聞いていたがパルテナには奴隷が居ないという事に驚いた」
「え!? 奴隷制度があるの!?」
「わたくし達からしたら奴隷制度がない方が珍しいと思いますわ」
パルテナで奴隷を見た事が無かった為、驚いて声を上げるとフェリスがおっとりと答えた、フェリスの言葉にホセとビビアナ以外が頷く。
「オレ達からしたら奴隷なんて見た事も無いから馴染みが無いけどよ、賢者サブローと関係が深い国以外はそれが普通らしいぜ。実際昔はパルテナにも奴隷が居たみたいだしな」
そうか…、考えてみればナチスはドイツ人以外人間じゃない考えみたいなイメージだし、アメリカも未だ黒人差別意識が残ってるくらいだもんね。
日本は奴隷的なのって飛鳥時代とかまで遡らないと無いんじゃないかな?
当時は日本に比べて人種差別がまだ身近な時代だったのかも。
奴隷を手放すのは財産を手放せって言うのと同じくらいだろうから奴隷制無くすの大変だったんだろうなぁ。
それでも尽力したであろう賢者サブローの人柄に同じ日本人として嬉しくなった。
「そうなんだ…、じゃあ考え方が違うと思っておかないとダメだね」
「奴隷と言っても犯罪奴隷や借金奴隷が殆どで親に売られて奴隷になる者は殆ど居ない、アイルが心を痛める必要なんて無いぞ」
クロードはそう言うが、正直奴隷なんて見た事無いし人が物扱いされてる感覚には違和感しかない。
しかも…っ、獣人差別だなんて勿体無い事をする神経がわからない!
差別なんてするから反発して乱暴にも粗野にもなるんだと思う。
「じゃあその辺の人が奴隷商人に捕まって売られたり…なんて事は無いんだね? ほら、会ったばかりの時ホセが奴隷商人に誘拐されてきたんじゃないかって言ってたじゃない?」
「基本的には無い、無い…が、やはり悪質な者達はいるからな。他国で子供を誘拐してきて親に売られたと言い張って売買されるという事は少なくない、国内の子供だと親が探して見つかったりするからな。……こんな美味い食事をしながらする話じゃないな」
ロレンソが食事を終えて肩を竦めた。
「安心しなさいアイル、この馬車に乗っているわたくし達を狙う様な愚か者はタリファスに居ないわ」
「そうですね、パルテナでは知られてませんがタリファスでこの公爵家の紋章を知らぬ者は居ませんから。盗賊ですら襲撃を避けます、なのでパルテナに来て襲われた時は怖いと同時に驚きましたよ」
フェリスの後に御者が頷きながら言った。
半端な貴族だと身代金目当てに誘拐されるかもしれないけど、フェリスの家は関わると厄介だと思われる程の家って事か。
そんな家に関わるのは嫌だけど、報酬受け取らなきゃいけないから家の手前でさよならって訳にはいかない…よね。
食事の片付けをしながら私はこっそりとため息を吐いた。




