第122話 公爵家の護衛(13日目)
朝、テントでビビアナの双丘に埋もれて目が覚めた、何度も一緒に寝ているので谷間に顔をキープしたら窒息しない事は学習したので安全である。
昨夜は皆気を使って夜の見張りを免除してくれた上、やはり魘されている私を見かねてビビアナが一緒に寝てくれたのだ。
「おはようアイル、ちゃんと眠れた?」
「うん、ビビアナのお陰でぐっすり眠れたよ。ありがとう」
テントで眠る時はパジャマに着替えたりしないので洗浄魔法で顔を洗ってテントを片付ける為に外に出た。
フェリスは私達が側に居るとわかっていれば1人でもテントで安眠出来たらしく、今は夜1人で過ごしている。
「おはようアイル、昨夜は眠れたか? それでその…コレなんだが…、また使うか?」
テントを片付けていたら明け方の番をしていたリカルドが近付いて来て躊躇いがちに1本の棒手裏剣を差し出した。
昨日山賊の眉間に撃ち込んだ物だろう、綺麗に洗ってくれた様で血はついていない。
「おはようリカルド、ビビアナのお陰でちゃんと眠れたから安心して。いつまでも甘ったれてはいられないし…慣れなきゃね」
1度深呼吸してリカルドの手から棒手裏剣を掴み取った。
正直人を殺めた武器なんて気持ち悪いけど、武器はパーティのお金で賄ってるから使い捨てにするなんて出来ないし…Gに関しては自腹で補填してでも使い捨てにするけど。
「まぁ…無理だけはするなよ?」
「うん、ありがと」
テントを片付けて空いた場所にシートを敷いて朝食の準備をする。
テーブルに並び始めた食事を見てカルロがテントの片付けを急ぎ出した、どうせ1人だけ携帯食なんだから急いでも意味ないのに。
「おっ、今朝は味噌汁なんだな。おはようアイル」
3種のキノコ味噌汁をお椀によそっていたらテントを片付け終わったロレンソ達も集まって来た。
挨拶を交わしてそれぞれ自由に席に着いて食べようとしたらカルロが声を掛けて来た。
「あの、アイル…私もおま…君の食事を食べて良いだろうか…」
目を逸らしながらそう言われたが、どうすべきかリカルドに意見を求めて視線を向ける。
「食べるのは構わんが…その分料金上乗せになるから雇い主が了承したら、だな」
宿屋を出来るだけ利用しているから食事は足りる、しかし食材だってタダじゃないからその分の食費は貰わないとね。
リカルドの言葉に皆の視線がクロードに集まる。
「そのくらい出してやる、やっと素直になったか」
「じゃあ1食につき大銅貨1枚でよろしく」
「わかった、家に着いたら計算して請求してくれ」
「了解。さ、カルロ、ここに座って食べなよ」
カルロは冒険者と違ってあまり食べないけど、街中じゃないから割高料金でも文句は言わせない。
ちなみにたくさん食べる護衛達は2倍の料金計算にしてあるが寧ろお得なくらい食べる。
カルロはおずおず座ると新たによそった味噌汁におにぎり、ぶり大根とだし巻き玉子をフォークを使って食べ始めた。
だし巻き玉子を口にして数回咀嚼するとカッと目を見開き、無言で他の物も凄い勢いで食べている。
「ははっ、アイルの料理は美味ぇだろ? 意地張って今まで食いそびれたのが勿体ねぇって思わねぇか?」
「正しく…その通りだ。アイル、君は以前料理人でもしていたのか?」
ホセの言葉に口の中の物を咀嚼し飲み込んでからカルロが口を開いた、その辺りは育ちの良さというやつだね。
「祖母に料理を習いはしたけど、料理人では無いよ」
「アイルは最適な味付けを知っているんだと思うわ。平民は香辛料や調味料が高価だから節約しようとして自然と薄味にしちゃうけど、アイルは美味しくする為に躊躇い無く使ってるもの」
「あ、そっか。だから食堂でも薄味な所が多いのか!」
「そうよ~、塩だって岩塩は採掘しなきゃいけないし、海水から作るにしても薪が必要だからどうしても高くなるし」
「私は薄味でも結構好きだけど、皆身体を動かすからちょっと濃い味の方が良いかと思って。その方が皆もよく食べるみたいだし、折角食べるなら美味しい方がいいでしょ? 幸い欲しい分の香辛料を買える稼ぎもあるからね!」
「すまない…私は君の事を誤解していた様だ、てっきり幼い外見で周りの者に媚びて甘えてAランクの座にいるのかと思っていた。だが昨日でそれは間違いだとわかったんだ」
真面目に話しているが、私とビビアナが話している間にカルロの前にあったおかずが減っていた、此奴やりおる…。
「まぁ…、いざという時の為にずっと馬車で待機してたから昨日まで皆に外の対処丸投げしてたもんね、実力が無いと勘違いしても仕方ないよ………だけどね?」
にこぉ、とエリアス顔負けの良い笑みを浮かべる私。
私の言葉に気を抜きかけたカルロがビクッと身体を強張らせた。
「私忘れて無いのよ? 初日に見目が良ければマシだった…とか、下賤の者ってカルロが言った事を。王様の許可証を見た辺りから嫌味を言わなくなって、Aランクに相応しい実力があるってわかった途端に掌返す様な下衆な性根のカルロの事は人間的に嫌いなのは最初から変わらないからね?」
キッパリとした私の宣言でその場はシンと静かになってしまったが、カルロはその後も食事を残したりせず、しっかり1人前完食した。
食事の後に出発したが、馬車の中でカルロは何事も無かった様にシレッとしていた、どうやら肝っ玉は小さめだが神経は極太らしい。




