↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/30

第2話 二人とも、逮捕する

---


朝食を終えると、二人は息を合わせたように立ち上がり、何も言わず、それぞれ別の方向へ歩き出した。


フーティアの担当はテーブルを片づけ、食器を運んで洗うこと。一方、フーティナには別の大事な仕事があった……


――着陸の準備だ。


フーティアが「魔法の絨毯」の前部にある操縦室へ入ったのは、それから十分後のことだった。


フーティナはその間に各種パラメーターの調整を済ませ、窓越しに外の様子を確かめていた。


「えへへ、着替えにちょっと時間かかっちゃったけど、ちょうどいいタイミングでしょ、フーティナ~」


フーティアは今日も、いつものシンプルな生成りのワンピースを着ていた。裾は膝の少し下までで、余計な装飾はほとんどない。

むしろ目を引いたのは、両手首に結ばれた赤い紐で、手を上げる動きに合わせてかすかに揺れていた。


それに比べて、フーティナの装いはずっとかしこまっていた。

襟元から袖口まできっちりと整えられ、いつでも何か改まった用事に出かけられそうな姿だった。


「無駄口はいいから」


フーティアは肩をすくめて、「はいはい」「言うとおりにするから」と応じながら、操縦席の脇にある三段の小さな階段を上った。


ここは、普通の飛行機の操縦室とはまるで違っていた。


いちばん下は、フーティナの持ち場だった。

方位や高度、魔力出力を扱う装置と、人間の航空規則に合わせるために後付けしたいくつもの計器が、すべて彼女の手の届く範囲にひしめいていた。


その上には、ほぼ円形の小さな台が一つ、張り出していた。そこがフーティアの陣地だ。


足元には柔らかなマットを敷いた床があり、周囲に壁らしいものはほとんどなかった。腰のあたりから曲面ガラスが上へと伸び、頭上で合わさって透明なドームを形作っていた。背後にも死角はなかった。

中央の回転椅子に座って少し体の向きを変えるだけで、前後左右の空を一望できる。


フーティアはここが大好きだった。

とりわけ足元に雲が広がっていると、空全体が自分の家になったような気がしてくる。


もちろん、それに対するフーティナの感想は一言だけ――寝言は寝て言って。


フーティアは椅子に落ち着くと、笑みを引っ込めた。

軽く目を閉じ、胸の前で両手を十字に重ねる。

重ねた手の隙間からかすかな青い光が少しずつにじみ出し、細い水の流れのように指先を伝って、空中へと散っていった。


それまで機体をそっと撫でていただけの風が、彼女の意識の中で、ふいに形を持つ。


フーティアは目を開けた。


「風は三一〇度の方向から、秒速十一メートル……雲はちょっと厚めだけど、近くに積乱雲はなし。うん、視界良好」


椅子を回し、もう一度下を見た。


「今の高度は、だいたい四千二百メートル」

「ええ」


フーティナが短く答えた。


フーティアは再び目を閉じた。

放った魔力が、見えない触手のように周囲へ伸び、ほどなくして、高速で移動する別の何かに触れる。


「七時の方向に飛行機。マークからすると、スティグマの民間機だと思う」

「距離は?」

「けっこう遠い」

「けっこうって、どのくらい?」

「ぶつからないくらい」

「フーティア」

「はいはい、ちゃんと確かめるってば」


基本的な状況を互いに確かめ終えると、フーティナは地図上の航路を確認し始めた。


ひとまず手の空いたフーティアは、頬杖をついて窓の外の分厚い雲を眺めた。


子馬、ワニ、恐竜、戦車……


視線は、また別の雲へと流れていった。


ん……なんだかこれ、フーティナに似てない?


見れば見るほど似ている気がして、思わず笑ってしまった。


うつむいて、下の操縦席をちらりと見る。

それから、わざと意識の中でフーティナに声を送った。


『フーティナ、あの雲、あなたに似てる』


下では、二秒ほど沈黙が続いた。

フーティナは片手を上げて額を押さえた。


「くだらない」

「どこが! すっごく似てるのに!」


フーティアは満足げに視線を戻した。


不意に、素晴らしい光景が彼女の目を引いた。


窓の外ではなく、窓そのものに――

ガラスに映った、自分の姿だ。


小柄で均整の取れた体つき、整った顔立ち、雪のように白い長い髪……

生成りのワンピースに、手首に巻かれた細い赤い紐……

そして、唇の端からのぞく、小さくて愛らしい、世界を癒やす八重歯。


フーティアは満足げにうなずいた。


もし自分が小説家だったら、世界中の人をこの美貌の虜にしてみせる。


彼女はもう少しガラスに顔を近づけた。


そういえば……

今日の髪、いつもよりふわっとしてない?


まあ、いいか。

三日も意識を失っていたのに、この美貌は健在なのだ。そのくらいの変化、気にするほどでもない。


「フーティア、次は『スティグマ』に向かうわ」


その言葉に、フーティアは危うく椅子から転げ落ちそうになった。


「ちょうどさっき、あそこの民間機も見かけたことだし、そう遠くはないはず……」

「スティグマ? 最近ずっと戦争してる、あの国? 冗談はやめてよ、フーティナ!」

「これまでに集めた情報だと、古い『魔法遺跡』がかなりあるらしいの。行ってみる価値は十分あるわ」

「そう言われても……わかったよ」


---


「魔法の絨毯」が速度を上げると、数時間かかるはずだった飛行時間は一時間に縮まった。

フーティアがひと眠りした頃には、もう着陸の準備に取りかかる時間だった。


「『魔法の絨毯』の外観を確認して、フーティア」

「はぁい……」


力のない声だった。

それでもフーティアは慣れた動作で椅子を回し、観測台の脇から小さな鏡を引き出した。


そこに映っていたのは、自分たちが今乗っているものの本当の姿ではなかった。

スティグマでよく見かける民間機とほとんど変わらない小型機が、おとなしく雲の上を飛んでいる。


「『外見変化の魔法』は正常に作動中。さっきの民間機に合わせて、もう少し手を加えておいたから、少なくとも外から見ておかしなところはないよ」

「ええ」


フーティアは鏡を押し戻しながら、心の中でぼやかずにはいられなかった。


そういえば、フーティナはどうしていまだに「魔法の絨毯」って名前にこだわるんだろう?

今のこれ、いったいどこが絨毯なのよ。


最初は確かに、二人がどうにか座れるくらいの小さな絨毯だった。

そのうち、フーティナが風で頭が痛くなるのを嫌がって、風よけの魔法を加えた。

フーティアが寝る場所もないと文句を言うと、今度は空間が拡張された。

それから寝室、食堂、浴室、操縦室と増えていき……


気がつけば、数平方メートルにも満たなかった小さな絨毯は、空飛ぶ家に育っていた。


考えれば考えるほど、自分の案がもっともだと思えてくる。

そこでフーティアは、大まじめに意識の中でフーティナへ声を送った。


『フーティナ』

『何?』

『この乗り物、名前を変えたほうがいいと思うんだけど』

『変えない』


フーティナの有無を言わせぬ声が耳に届いた。


『まだ何て名前にするか言ってないのに!』

『「フーティアの家」でしょう』


フーティアはぽかんとした。


「……なんでわかったの?」


フーティナはようやく計器から目を上げた。


「もう三回も聞いたから」

「そ、そうだったっけ」

「余計なこと考えてないで、着陸地点を確認して」

「あ、うん。ちょっと見てみる……」


フーティアはスティグマの地図を眺めた。


「東の空港にする?」

「行かない」

「え? どうして?」


フーティナは何も言わなかった。数秒たって、ようやくフーティアも気がついた。


「危ない、忘れるところだった。空港では身元を確認されるんだった……偽名を使うのは?」

「あなたの顔も指名手配書に載ってるのよ」

「……可愛く描かれてる?」

「救いようがないわね……」


フーティアはえへへと笑った。


彼女が地図上で選んだのは、スティグマの郊外にある谷間だった。航空図を見るかぎり、近くに町も空港もなく、昔から残る古い道路が一本、山の麓を回り込んでいるだけ。周辺の広い範囲が森に覆われていて、自分たちのように堂々と空港に姿を見せにくい者には、うってつけだった。


フーティナがちらりと見た。


「いいわ」

「私、場所選びの才能あるって言ったでしょ」

「前回もあなたが選んだのよ」

「……あれは不可抗力」

「沼地を草地と見間違えたのも不可抗力なの?」


フーティアは耳をふさいで、聞こえなかったふりをした。


魔法の絨毯はほどなく雲を抜け、谷の上空へと降りていった。


地面に近づくにつれ、窓の外の景色がはっきりしてくる。

針葉樹の森が山の斜面に沿ってどこまでも続き、九月末の梢には、黄褐色がぽつぽつと交じっていた。

谷の中央には、さほど広くない草地がある。その脇には、長いこと放置されていた木造の小屋が見えた。屋根の一角が崩れ、外へ通じる小道も、ほとんど雑草に埋もれている。


ちょうどいい静けさで、少し静かすぎるくらいだった。


フーティアは満足げにうなずいた。


ただ……ガラスの縁に上体を預け、もう一度森の中をのぞき込む。


――今、あそこで何か一瞬光らなかった?


彼女は目を細めた。

風に揺れる枝葉のほかには、何も見えない。


たぶん、露かな……

彼女はすぐに、そのことを忘れてしまった。


「『妨害魔法』正常、『透明化魔法』正常……異常なし。フーティナ、見て! 七時の方向に戦闘機の編隊がいるよ。あっちのレーダーには、私たち映ってないよ!」

「こういうときは惜しみなく私の魔法を褒めたたえて、それからよそ見をせずに自分の仕事に集中しなさい!」


フーティナは「魔法の絨毯」を低空まで降ろし、それから「外見変化の魔法」を解除した。


空間魔法が解けると、広大な内部空間は、誰かに一瞬で抜き取られたかのように消え失せる。


次の瞬間、二人の少女は、文字どおり一枚の絨毯の上であぐらをかいていた。

魔法の絨毯はふらふらと最後の薄霧を抜け、草地の真ん中に降り立った。


「やったー、十三回目の着陸成功! 目的地――スティグマ!」


フーティアは魔法の絨毯から飛び降り、拳を突き出して勝利のポーズを取った。


「さっき少し揺れただけで、戦闘機に撃たれたと思って泣きそうになってたくせに。今度は大はしゃぎ?」

「それとこれとは別! お母さんの日記にも、スティグマの名前があったんだよ。ここの魔法遺跡って、ものすごく古いんだって――わくわくしないわけないでしょ!」


フーティナは魔法の絨毯から降り、指を鳴らした。

草の上に広がっていた絨毯はすぐに端をくるりと巻き上げ、命令のわかる小動物のようにその場で二回転する。そうしてどんどん小さくなり、最後には一粒の淡い光となって、彼女の手のひらに消えた。


フーティナは荷物を背負うと、まだきょろきょろしているフーティアの肩を軽く叩いた。


「行くわよ、フ――」


声が途切れた。


フーティアはまだ、斜面の森を見上げていた。


次の瞬間、手首をぐっとつかまれる。

フーティナが彼女を自分の背後へ引っ張り込んでいた。


「……フーティナ?」


返事はない。


ついさっきまで残っていた眠たげな表情は、フーティナの顔から消えていた。

その場でわずかに身を前に傾け、何もない前方の草地を見据えている。


フーティアも静かになった。


山の切れ間から風が吹き込んでくる。

草の葉が一面、風に押し伏せられ、ゆっくりと起き上がった。


それ以外には、何もない。


いいや、違う……


フーティアはふと、先ほど森の中で一瞬だけきらめいた光を思い出した。

そのとき、前方の空気がかすかに揺らいだ。


何の前触れもなく、空き地の中央に一人の姿が浮かび上がった。

続いて二人目、三人目……


ほんのひと呼吸の間に、それまで何もなかった草地は、軍服姿の人々で埋まっていた。


十数挺の小銃が、ほぼ同時に持ち上がる。

黒々とした銃口が、四方八方から二人に向けられた。


フーティアは思わず、フーティナの背後へ半歩引っ込んだ。

さっきまで頭の中を占めていた興奮は、一瞬できれいさっぱり吹き飛んでいた。


先頭の軍人が、一歩前へ出た。


「我々はスティグマ第一軍団第二支隊だ」


その視線がまずフーティナに、次いでその背後のフーティアへと向けられる。


「『魔女』を名乗るお嬢さん方――」

「二人とも、逮捕する」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。