第26話 ひそかに処分させない
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そして同じ夜、南区の通りは軍用車両で隙間なく塞がれていた。
すでに明かりの消えていた家々で、一軒、また一軒と住人たちが叩き起こされていく。
扉を叩く音に、泣き叫ぶ声と兵士の命令が入り交じる。
ヨーゼフの喫茶店も例外ではなかった。
扉が無理やり開けられたとき、彼はちょうどアリスを奥の部屋に隠したところだった。
「全員出てこい!」
「取り調べを行う!」
ヨーゼフは両手を上げて店内に出た。
二人の兵士が素早くカウンターを乗り越える。
テーブルや椅子がどかされ、戸棚の引き出しが一段ずつ開けられていく。
その一つを兵士が開けた拍子に、中の小銭と鉛筆が床に転がり落ちた。
ヨーゼフが奥の部屋へ一歩近づいた途端、制止する怒声が飛んだ。
名簿を手にした兵士が問いかける。
「『ユートピア』の連中はどこだ?」
ヨーゼフは首を横に振る。
「とっくに出ていきました」
「どこへ行った?」
「知りません」
「出ていくのを手伝ったのは誰だ?」
「知りません」
「この二日間で、白い髪の少女が二人、ここへ来なかったか?」
ヨーゼフは目の前の相手から視線をそらさない。
「店には毎日、お客さんが来ます」
「聞いているのは、白い髪の少女二人のことだ」
ヨーゼフは答えなかった。
一方、通りの住民たちも次々と連行されていく。
怯えてまともに話せない者もいれば、知っていることを一度にすべて話してしまう者もいる。
「白い髪の女の子が二人」
「あの喫茶店の主人と話しているのを見た気がする」
記録係は白い髪の少女について書かれた紙を数枚抜き出し、ほかの書類と分けて留めた。
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夜が明けかけたころ、兵士たちが閉じ込められている倉庫の外が、急に騒がしくなった。
「解放しろ!」
「説明しろ!」
「何の権利があって捕まえた!」
エドワードは目を開けた。周りの者たちも、次々と身を起こした。
叫び声は営門のほうから聞こえてくる。これだけ離れていても、はっきりと聞き取れる。
押し問答は長く続いた。
ようやく名簿を手にした将校が入ってきて、一人ずつ名前を呼び始めた。
「当面、職務から外す。今後、呼び出しがあれば必ず出頭すること」
自分の名前を聞き、エドワードは壁に手をついて立ち上がった。
「ヴェルナー隊長は?」
将校は名簿に目を落とし、次の名前を読み上げる。
倉庫を出て初めて、エドワードは営門の外に集まった人々を見た。
最前列には兵士の家族。その後ろには近隣の商店主や住民、さらに夜のうちに駆けつけてきた複数の新聞社の記者もいる。
なぜ部隊全員を拘束したのかと問い詰める者もいれば、ヴェルナーの名を叫ぶ者もいる。
そばにいた数人の兵士が足を止めた。
「こんなに大勢……」
人混みの中で、エドワードはエミールが人に託した伝言を受け取った。
まだ夜は明けきっていなかった。
エドワードはほかの者たちと一緒には帰らず、一人で人混みを離れた。
いくつかの小道を回って、街の外にある廃倉庫へたどり着いた。
扉を押し開けると、中にいた男が顔を上げた。
エミールの表情がほっと緩む。
「出られたんだな」
「ああ」
「ほかのみんなも釈放されたんだな」
「ああ」
エミールはまず彼の背後へちらりと目をやり、扉が閉まってから、初めてその頬の傷に気づいた。
「誰にやられた?」
「先にヴェルナー隊長の話だ」
エミールはうなずいた。
倉庫の中に、しばし沈黙が落ちた。
「みんな、考えは同じだ」
「何だ?」
「隊長を助け出す」
エミールが目を上げる。エドワードは彼を見据えている。
「武力を使うことになっても、隊長が殺されるのを黙って見ているわけにはいかない」
「駄目だ」
エミールは即座に答えた。
「なぜだ?」
「お前たちが銃を取れば、向こうに口実を与える。ヴェルナー隊長が部下に命じて、調査に抵抗させたとな」
「だったら、俺に矛先を向ければいい」
「お前が何をしたのかさえ、まともに聞こうとしない連中が、その言葉を聞くと思うか?」
エドワードは歯を食いしばる。
「じゃあ、どうする?」
エミールはすぐには答えなかった。
倉庫の扉の外へ目を向ける。遠くからは、まだ街の喧騒がかすかに聞こえてくる。
「まず、向こうがヴェルナー隊長をひそかに処分できないようにする」
エドワードが眉をひそめると、エミールは彼に向き直った。
「隊長が敵と通じていたと言うなら……せめて、公の場ではっきり説明させるんだ」
エドワードはしばらく彼を見つめてから、うなずいた。
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その日の午前。
ヴェルナーは、これで何度起こされたのか、もう覚えていない。
尋問室の明かりは、ずっとついたままだ。
時間の感覚も、ほとんど失われている。
頬は腫れ上がり、唇は乾いてひび割れ、喉も焼けつくように痛む。
向かいの男は、まだ問い続けている。
「あの白髪の少女二人の名前は?」
ヴェルナーは答えなかった。
「第二支隊とはどういう関係だ?」
ヴェルナーの目がわずかに動いた。尋問官が彼を見据える。
「どうした?」
ヴェルナーは再び目を伏せた。
「何のことか分からない」
相手は鼻で笑った。
「第二支隊の連中は、揃いも揃ってその台詞が得意らしいな」
不意に扉が開き、誰かが足早に入ってきて、刷り上がったばかりの新聞を机に投げ出した。
「外が大騒ぎになっている」
尋問官が眉をひそめた。
ヴェルナーは新聞に目を落とす。ちょうど彼の前に広がった紙面の一番上には、目を引く見出しが並んでいる。
『第二支隊の内通事件――軍は証拠を公開すべきか?』
『スティグマの陰謀――軍はなぜ白い髪の少女二人を執拗に追うのか?』
その下には、小さな文字で次の一行が記されている。
市民が秘密尋問の中止と、調査経緯の公開を要求。
ヴェルナーはしばらく、その数行を見つめていた。
読み終える前に、新聞が引き戻された。
「お前の部下は、なかなか知恵が回るようだな」
ヴェルナーは顔を上げた。
「どういう意味だ?」
「一般の兵士は、もう釈放した」
張り詰めていたヴェルナーの表情が、ようやく少し緩む。
相手は新聞を折り畳むと、ヴェルナーの顔に投げつけた。
「上はもう決定を下した」
「何だ?」
「明日、お前の件を公開で審理する」
ヴェルナーは一瞬、呆気に取られた。
「公開審理?」
「スティグマ中央広場でだ」
尋問官は言った。
「記者や市民も傍聴に来る」
「公開してほしいんだろう? なら、公の場で話してもらおう。スティグマの将校として、お前が何をしたのかをな」
尋問官は兵士たちとともに部屋を出た。
あとには、ヴェルナー一人だけが残された。
ヴェルナーはゆっくりと目を閉じた。もう、これ以上考える力は残っていなかった。
少なくとも、みんなは外に出られた。
自分のことは――もう少し、待とう。




