↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/30

第26話 ひそかに処分させない

---


そして同じ夜、南区の通りは軍用車両で隙間なく塞がれていた。


すでに明かりの消えていた家々で、一軒、また一軒と住人たちが叩き起こされていく。

扉を叩く音に、泣き叫ぶ声と兵士の命令が入り交じる。


ヨーゼフの喫茶店も例外ではなかった。

扉が無理やり開けられたとき、彼はちょうどアリスを奥の部屋に隠したところだった。


「全員出てこい!」

「取り調べを行う!」


ヨーゼフは両手を上げて店内に出た。


二人の兵士が素早くカウンターを乗り越える。

テーブルや椅子がどかされ、戸棚の引き出しが一段ずつ開けられていく。


その一つを兵士が開けた拍子に、中の小銭と鉛筆が床に転がり落ちた。


ヨーゼフが奥の部屋へ一歩近づいた途端、制止する怒声が飛んだ。


名簿を手にした兵士が問いかける。


「『ユートピア』の連中はどこだ?」


ヨーゼフは首を横に振る。


「とっくに出ていきました」

「どこへ行った?」

「知りません」

「出ていくのを手伝ったのは誰だ?」

「知りません」

「この二日間で、白い髪の少女が二人、ここへ来なかったか?」


ヨーゼフは目の前の相手から視線をそらさない。


「店には毎日、お客さんが来ます」

「聞いているのは、白い髪の少女二人のことだ」


ヨーゼフは答えなかった。


一方、通りの住民たちも次々と連行されていく。

怯えてまともに話せない者もいれば、知っていることを一度にすべて話してしまう者もいる。


「白い髪の女の子が二人」

「あの喫茶店の主人と話しているのを見た気がする」


記録係は白い髪の少女について書かれた紙を数枚抜き出し、ほかの書類と分けて留めた。


---


夜が明けかけたころ、兵士たちが閉じ込められている倉庫の外が、急に騒がしくなった。


「解放しろ!」

「説明しろ!」

「何の権利があって捕まえた!」


エドワードは目を開けた。周りの者たちも、次々と身を起こした。

叫び声は営門のほうから聞こえてくる。これだけ離れていても、はっきりと聞き取れる。


押し問答は長く続いた。

ようやく名簿を手にした将校が入ってきて、一人ずつ名前を呼び始めた。


「当面、職務から外す。今後、呼び出しがあれば必ず出頭すること」


自分の名前を聞き、エドワードは壁に手をついて立ち上がった。


「ヴェルナー隊長は?」


将校は名簿に目を落とし、次の名前を読み上げる。


倉庫を出て初めて、エドワードは営門の外に集まった人々を見た。

最前列には兵士の家族。その後ろには近隣の商店主や住民、さらに夜のうちに駆けつけてきた複数の新聞社の記者もいる。


なぜ部隊全員を拘束したのかと問い詰める者もいれば、ヴェルナーの名を叫ぶ者もいる。

そばにいた数人の兵士が足を止めた。


「こんなに大勢……」


人混みの中で、エドワードはエミールが人に託した伝言を受け取った。

まだ夜は明けきっていなかった。


エドワードはほかの者たちと一緒には帰らず、一人で人混みを離れた。


いくつかの小道を回って、街の外にある廃倉庫へたどり着いた。


扉を押し開けると、中にいた男が顔を上げた。

エミールの表情がほっと緩む。


「出られたんだな」

「ああ」

「ほかのみんなも釈放されたんだな」

「ああ」


エミールはまず彼の背後へちらりと目をやり、扉が閉まってから、初めてその頬の傷に気づいた。


「誰にやられた?」

「先にヴェルナー隊長の話だ」


エミールはうなずいた。


倉庫の中に、しばし沈黙が落ちた。


「みんな、考えは同じだ」

「何だ?」

「隊長を助け出す」


エミールが目を上げる。エドワードは彼を見据えている。


「武力を使うことになっても、隊長が殺されるのを黙って見ているわけにはいかない」

「駄目だ」


エミールは即座に答えた。


「なぜだ?」

「お前たちが銃を取れば、向こうに口実を与える。ヴェルナー隊長が部下に命じて、調査に抵抗させたとな」

「だったら、俺に矛先を向ければいい」

「お前が何をしたのかさえ、まともに聞こうとしない連中が、その言葉を聞くと思うか?」


エドワードは歯を食いしばる。


「じゃあ、どうする?」


エミールはすぐには答えなかった。

倉庫の扉の外へ目を向ける。遠くからは、まだ街の喧騒がかすかに聞こえてくる。


「まず、向こうがヴェルナー隊長をひそかに処分できないようにする」


エドワードが眉をひそめると、エミールは彼に向き直った。


「隊長が敵と通じていたと言うなら……せめて、公の場ではっきり説明させるんだ」


エドワードはしばらく彼を見つめてから、うなずいた。


---


その日の午前。


ヴェルナーは、これで何度起こされたのか、もう覚えていない。


尋問室の明かりは、ずっとついたままだ。

時間の感覚も、ほとんど失われている。


頬は腫れ上がり、唇は乾いてひび割れ、喉も焼けつくように痛む。


向かいの男は、まだ問い続けている。


「あの白髪の少女二人の名前は?」


ヴェルナーは答えなかった。


「第二支隊とはどういう関係だ?」


ヴェルナーの目がわずかに動いた。尋問官が彼を見据える。


「どうした?」


ヴェルナーは再び目を伏せた。


「何のことか分からない」


相手は鼻で笑った。


「第二支隊の連中は、揃いも揃ってその台詞が得意らしいな」


不意に扉が開き、誰かが足早に入ってきて、刷り上がったばかりの新聞を机に投げ出した。


「外が大騒ぎになっている」


尋問官が眉をひそめた。


ヴェルナーは新聞に目を落とす。ちょうど彼の前に広がった紙面の一番上には、目を引く見出しが並んでいる。


『第二支隊の内通事件――軍は証拠を公開すべきか?』

『スティグマの陰謀――軍はなぜ白い髪の少女二人を執拗に追うのか?』


その下には、小さな文字で次の一行が記されている。

市民が秘密尋問の中止と、調査経緯の公開を要求。


ヴェルナーはしばらく、その数行を見つめていた。

読み終える前に、新聞が引き戻された。


「お前の部下は、なかなか知恵が回るようだな」


ヴェルナーは顔を上げた。


「どういう意味だ?」

「一般の兵士は、もう釈放した」


張り詰めていたヴェルナーの表情が、ようやく少し緩む。


相手は新聞を折り畳むと、ヴェルナーの顔に投げつけた。


「上はもう決定を下した」

「何だ?」

「明日、お前の件を公開で審理する」


ヴェルナーは一瞬、呆気に取られた。


「公開審理?」

「スティグマ中央広場でだ」


尋問官は言った。


「記者や市民も傍聴に来る」

「公開してほしいんだろう? なら、公の場で話してもらおう。スティグマの将校として、お前が何をしたのかをな」


尋問官は兵士たちとともに部屋を出た。

あとには、ヴェルナー一人だけが残された。


ヴェルナーはゆっくりと目を閉じた。もう、これ以上考える力は残っていなかった。


少なくとも、みんなは外に出られた。

自分のことは――もう少し、待とう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。