第17話 もう一度、見に行こうよ
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「それで、今日は?」
ヴェルナーは残りの書類から一枚抜き出し、彼女に渡す。
「今日は、もう一度現地へ行っていただきたいのです」
紙には、当初の作戦実施日が記されていた。
フーティアは横からのぞき込み、その二文字を目にした。
掃討。
「上層部は今回の作戦を、敵国のスパイに対する掃討と呼んでいます。ですが、いまだに具体的な対象者の名簿は手に入っていませんし、活動記録も十分に詳しいものはありません」
ヴェルナーの指が、紙の縁で止まった。
「お二人の昨日の報告だけでは、彼らがスパイだとは断定できません。同様に、スパイではないとも断定できません」
「だから、調査を続けると?」
「はい。隠されていることが、スパイ活動と関係しているのかどうかを確かめたいのです」
フーティナは書類にちらりと目を落とした。
「すべてをお話しするつもりはないと、今言ったばかりですが」
「承知しています」
「それでも、私たちを行かせるんですか?」
「第二支隊は今、営外へ出られません。ですが、お二人はすでに地元の人々と接触していて、調査を続ける機会があります」
ヴェルナーは改めて彼女を見た。
「今回の作戦に関わる事実がわかったなら、私に話していただければと思います。その人たちの名前については、ひとまず聞かずにおきましょう」
フーティナは、紙の反り上がった一角を押さえて平らにした。
「誰かを連れ帰る必要もありませんね?」
「ありません」
「どこまで調べるかは、私たちが決めます」
「結構です。ただ、それでも確認できなかった場合は、そうはっきり伝えてください」
フーティアの視線は、まだその紙に留まっていた。
昨日、アリスはあの丸で囲まれた場所に座っていて、木箱に乗って私たちに飴を取ってくれた……調査がうまくいかなかったら、あそこが掃討されてしまうの?
そこまで考えて、フーティアは顔を上げた。
「フーティナ」
フーティナが顔を向けると、フーティアは手を伸ばし、その袖を軽く引いた。
「もう一度、見に行こうよ」
「行きたいの?」
「うん」
フーティアはうなずき、ヴェルナーにも目を向けた。
「でも、昨日もはっきりしたことはわかりませんでした。今日もう一度行っても、わかるとは限りませんよ」
「承知しています」
「じゃあ、先に約束してください。わからなかったからって、もっと危ないことをさせないでくださいね」
フーティナが彼女をちらりと見た。
フーティアはその袖を離さず、少しだけ顎を上げる。
今度はちゃんと考えてから言ったんだから。
「そんなことはしません」
ヴェルナーは、真剣な口調で答えた。
「もう一つ、お二人にも約束していただきたいことがあります。危険だと判断したら、すぐに戻ってきてください」
フーティアは目をぱちりとさせた――昨日とまったく同じだ。
「わかってますよ。それ、前にも言ってましたよね」
「では、今日は言わなくてもいいですか?」
「……そういう意味じゃないんですけど」
フーティナは数枚の書類を重ね、彼に返した。
「状況を見て判断します」
「それでは、お二人ともよろしくお願いします」
ヴェルナーは書類をしまい、脇へよけて入口を空ける。
フーティアは長いため息をついた。
「……ヴェルナー隊長は優しいですけど、起きたばかりの女の子を二人、朝早くから調査に行かせるなんて、ひどいですよ」
「そのご批判は受け止めます。ただ、時間が限られていますので、どうかご理解ください」
大まじめな返事だった。
フーティアは、どう文句を続ければいいのかわからなくなった。
フーティナについて一歩外へ踏み出し、手が耳元をかすめたとき、どうしても収まらない一房の髪にふと触れた。
足を止めた。
「待ってください」
ヴェルナーが振り返った。
「まだ何か?」
フーティアは自分の頭のてっぺんを指さした。
「せめて先に、髪くらい梳かさせてください」
フーティナは彼女をちらりと見ると、手を伸ばし、扉を開けたときからずっと跳ねていた白い髪の一房を押さえた。
離した途端、また跳ねた。
「……確かに、梳かさないとね」
「でしょ!」
フーティアはすぐにヴェルナーへ向き直った。
「こんなに大事な調査なんですから、私を見た途端、寝起きだって思われるわけにはいきませんよ」
『実際、そうでしょう』
『だから梳かすんだよ!』
ヴェルナーはとうとう声を上げて笑った。
「もちろんです。支度ができてから出発してください」
フーティアはようやく満足して部屋へ戻り、そのままフーティナも中へ引っ張り込んだ。




