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第16話 話せるのは、ここまでです

---


朝日がカーテンの隙間から差し込み、掛け布団の上に細い帯を作っていた。


フーティアは柔らかな枕を抱えて寝返りを打ち、もう一度そこに顔を埋める。


昨夜はあんなに長く歌ったんだし、もう少し寝るのは理にかなってるよね。


コン、コン、コン。

……理不尽がやってきた。


「うるさいなあ……」


フーティアは顔をしかめながら、布団の中で上体を起こした。

頭の上では白い髪が何房かぼさぼさに跳ね、目もかろうじて半分ほど開いているだけだ。


また三度、扉が叩かれた。

寝ぼけたまま、フーティナのほうへ顔を向けた。


「フーティナ……誰かノックしてるよ」


返事はない。


「フーティナ?」


二度呼んでも、もう一つのベッドはしんとしたままだった。


仕方なく枕を抱えてベッドを下り、足を引きずるように低いテーブルを回り込むと、布団の膨らみを二度押した。


「起きてよ」

「……聞こえてる」


聞こえてはいるのに、まるで起きる気配がない。


フーティアはきょとんとした。

いつもなら、こういうときはフーティナのほうが先に、こっちをベッドから引きずり出すはずなのに。


少し目が覚めた。


『フーティナ、まさかまだ酔ってるの?』

『黙って』


口調はいつもどおりきつい。なら、まだ大丈夫そうだ。


二人は急いで着替えた。


フーティアはまだ梳かしきれていない髪を整えながら、扉を開けた。


フーティナも入口までついてきて、差し込む朝日に手をかざした。


「おはようございます、お二人とも」


外に立っていたのは、ヴェルナーだった。


すでに軍装をきちんと身につけていた。

襟元のボタンをきっちり留め、腰には拳銃を帯び、手には折り畳んだ書類をいくつか挟んでいる。


昨夜、グラスを片手に長テーブルのそばで部下たちに囲まれ、はやし立てられていた男とは、まるで別人のようだった。


けれど、その顔には見慣れた笑みが浮かんでいる。


「おはようございます……」


フーティアは反射的に挨拶を返し、それからまた大きなあくびをした。


「ヴェルナーさん、こんなに早く……新しい任務ですか?」

「相変わらず察しがいいですね、フーティアさん」

「えへへ」


さっきまで肩をだらりと落としていたフーティアは、たちまち背筋を伸ばし、あくびまで途中で止めてしまった。


『お世辞一つで、よくそこまで機嫌がよくなるわね』

『だって、褒めてくれたんだよ』

『だから言ってるの』


フーティアは言い返そうとしたが、ヴェルナーの肩越しに、ふと遠くのほうに目を留めた。

口元の笑みが、ゆっくりと消えていった。


昨夜、訓練場に並んでいた長テーブルは、すべて片づけられている。

今そこを行き交う兵士たちは、皆、軍服に着替えて身なりを整えていた。


弾薬の詰まった箱を抱え、倉庫から駆け出してくる者がいる。

兵舎の脇には軍用車が数台停まっていて、エンジンはずっとかかったままだった。低い唸りは、軍営の半分ほども離れた場所まで響いていた。


さらに向こうでは、小銃を背負った一隊が整列している。

昨夜はテーブルに突っ伏して、ヴェルナーに質問に答えろと叫んでいたあの顔が、今はどれもこわばっている。


『……フーティナ』

『うん』

『昨日の夜は、こんなんじゃなかったのに』


フーティナはすぐには答えなかった。訓練場にちらりと目を向けた。


『もともと、ここは軍営よ』

『わかってるよ』


ただ、昨日はあまりににぎやかで、そのことを忘れかけていたのだ。


ヴェルナーも、二人の視線に気づいたようだった。


「どうやら、もうお気づきのようですね」


その顔に浮かぶ笑みが、わずかに薄れた。


「単刀直入にお話しします」


手にした書類から二枚抜き出し、差し出した。


「昨日、私が上層部へ提出した調査報告です」


フーティナは書類を受け取り、冒頭からざっと目を通した。

ヴェルナーは続ける。


「昨日の夕方には、上層部から返答がありました――当初の任務は続行。作戦の実施日は、五日後で仮決定のままです」


フーティアは目をぱちりとさせた。


「じゃあ、私たちが昨日調べたことは……」

「少なくとも返答を見る限り、何の影響もありませんでした」


ヴェルナーは淡々と言った。


「今朝、また新たな命令が届きました」


手を上げ、近くの訓練場を指した。


「第二支隊は直ちに戦闘準備態勢に移行。全員、営内に留まり、いつでも戦闘に入れるよう備えよ、と」


フーティアは、もう一度弾薬箱を見た。


『フーティナ、あの人たちが言ってる目標区域って、あの通りも入ってるんだよね?』

『うん』


フーティアはうつむく。

フーティナは報告書を折り畳み、顔を上げた。


「つまり、これ以上の調査を制限するための命令だとお考えですか?」

「確かに、その疑いはあります」

「ただの疑いですか?」

「今のところは、疑いとしか言えません」


フーティナは彼を見つめた。


「私にはむしろ、あなたにこう言っているように見えますけど――これ以上、調べるな、と」


ヴェルナーは答えなかった。


「あなた方は、軍人ですからね」


フーティナは続けた。


「命令が下れば、全員が営内に留まらなくてはいけない」

「たとえ調べ続けたくても、外に出られない。そういうことですよね?」


ヴェルナーはうなずいた。


「そうです」

「ずいぶん都合がいいですね」


ヴェルナーは数秒、黙り込んだ。

さっきまで顔に浮かべていた笑みは、もう消えている。


「軍人として、疑いだけを理由に命令を拒むわけにはいきません」


フーティナは軽くうなずき、報告書を返そうとしたが、ヴェルナーは手を伸ばさなかった。


「ただ、昨日お二人の報告を聞いたときから、一つ伺いたいことがありまして」

「何ですか?」

「お二人は、あの場所には確かに何かを隠している者がいるとおっしゃいましたね」


彼はフーティナを見た。


「具体的に何があって、そう判断されたのでしょうか?」


フーティアが口を開いたところで、フーティナが半歩前へ出た。


「いくつか質問をしました。その反応が不審だったんです」

「どんな質問を?」

「最近あの一帯に出入りしている、よそから来た人についてです」

「相手は何と答えましたか?」

「質問に直接は答えませんでした」

「知らないと言ったのですか。それとも、話したくない様子だったのですか?」


フーティナの手が宙で止まった。

報告書の角が垂れ下がり、ヴェルナーの袖口にかすかに触れた。


ヴェルナーはなおも、辛抱強く返答を待っている。


『フーティナ……』

『今は何も言わないで』


フーティアは、口にしかけた言葉を呑み込んだ。


さっきは、ただ昨日何をしたのかと聞かれただけだったのに。

一つ、また一つと質問が続き、このままでは喫茶店でのことまで聞かれてしまいそうだ。


フーティナは報告書を手元へ引き戻した。


「昨日、はっきりお伝えしたと思います。何かを隠している人はいますが、スパイかどうかはまだ確認できていません」

「ええ。それがお二人の判断ですね」


ヴェルナーは視線をそらさなかった。


「私が知りたいのは、その判断の根拠です」


遠くで車のドアが閉まる音がした。

フーティアはそちらをちらりと見てから顔を戻したが、二人はまだ互いに視線を向けたままだった。


「そのときの会話を聞かせていただければ、参考になるかもしれません」

「判断の助けになる、ということですか?」

「少なくとも、次に何を調べるべきかがわかります」

「そのあとは?」


フーティナは視線を上げた。


「どこで誰に会ったのかも、お話しするんですか?」


ヴェルナーは少し間を置いた。


「お話しいただけるのであれば、確かに事実関係を確認したいとは思っています」

「昨日の依頼に、そこまでは含まれていませんでした」


彼女は二枚の報告書を、少し前へ差し出した。

今度は、ヴェルナーがそれを受け取った。


「あそこに何か不審な点がないか、確かめてほしいというご依頼でした。私たちは現地へ行き、結果もお伝えしました」

「その点を否定しているわけではありません」

「でも、私たちがすべてを話していないと思っているんですね」


ヴェルナーは、元の折り目に沿って書類を畳む。


「これまでお二人が話してくださったのは、結論だけです」

「私たちがお話しするつもりなのは、そこまでです」


フーティアはこっそりフーティナに目をやった。


あっさり認めちゃった。

……でも、ヴェルナーさんも、あまり驚いていないみたい。


「わかりました」


彼はその報告書を広げ直さなかった。


「具体的に誰と、どこで会ったのかは、お話しいただかなくても結構です」

「もう聞かないんですか?」

「これ以上聞いても、おそらく同じ答えが返ってくるだけでしょう」


フーティナは何も言わなかった。

ヴェルナーは、今もフーティアの前を遮っている彼女の肩に目をやり、半歩ほど下がった。


「すみません。昨日取り決めた調査の範囲に、そこまでの報告は確かに含まれていませんでした」


フーティアはそこでようやく、ドアの枠にかけていた手の力を抜いた。


大きな声を出されたわけでもないのに、ヨーゼフさんがお菓子を何皿出してくれたかまで、白状してしまいそうだった。


フーティナの肩は、まだフーティアの前を遮っていた。

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