第15話 酔ったフティナは面倒です
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宴は笑い声の中で幕を閉じた。
兵士たちは次々と長テーブルを離れ、後片づけを始める。
フーティアとフーティナはヴェルナーの前に立ち、そろそろ客室へ戻ろうとしていた。
エドワードとエミールも、いつもどおり彼のそばに控えていた。
「フーティアさん、今夜はゆっくり休んでください。依頼の件では、ほかにもお願いすることがありますが、明日からもお二人ともよろしくお願いします」
「うん、うん」
フーティアは真面目にうなずいた。ちょうどそのとき、ふいに肩に手が置かれたのを感じた。
「フーティア……」
「え?」
振り返ると、フーティナが後ろに立っていた。
けれど、もう体をうまく動かせていないのは明らかだった。
いつもは冷静な顔をしている魔女のお嬢さんも、今は頬がほんのり赤く、眼差しも普段よりずっと柔らかかった。
「今……」
フーティナはふらふらとヴェルナーの前まで歩き、立ち止まった拍子に、また少し前へよろめいた。
フーティアは慌てて肘を支えた。
フーティナは顔を上げ、ヴェルナーの顎を見つめた。
「今、教えてくれてもいいでしょう。明日、何をするのか……」
ヴェルナーは一瞬きょとんとした。
それからエミール、エドワードと顔を見合わせ、三人とも思わず笑い出す。
「何がおかしいの!」
フーティナは眉を寄せた。
ヴェルナーは慌てて手を振った。
「いえ、何でも」
フーティナを一度見て、それからフーティアへ目を向けた。
「フーティナさん、今夜はゆっくり休んでください――」
そう言うと、笑みを浮かべたまま背を向け、立ち去る。
エミールとエドワードは、その場に残っていた。
エミールは、立っているのもおぼつかないフーティナを心配そうに見た。
「フーティアさん、フーティナさんを部屋まで支えていくのを手伝いましょうか?」
「え? お願いします!」
フーティアは懸命にフーティナを自分の肩にもたれかからせようとしていたが、その申し出を聞いて、すぐにほっとした。
ところが、フーティナが突然、フーティアの袖をぎゅっとつかんだ。
「嫌!」
三人とも固まった。
「ええと……フーティナ?」
フーティナは真剣な顔でフーティアを見た。
「フーティアが送って」
「え?」
エドワードが眉をひそめた。
「何が違うんだ?」
フーティナはゆっくりと振り向き、エドワードをひとにらみした。
「……フーティアをいじめないで」
「何もしてないだろ」
エドワードは困ったようにため息をつき、フーティアは思わず吹き出した。
「フーティナ、すごく変になってるよ! 酔ってるの?」
「酔ってたら何? いつもの私と何が違うの?」
「全然違うよ!」
フーティアは苦笑した。
けれど、フーティナがほかの人の手を借りたくないのなら、自分で支えて連れ帰るしかない。
「もう……いつもは私のこと、面倒だって言うくせに」
「うん」
「酔ったら、フーティナのほうがよっぽど面倒じゃない」
「うん」
「そこは言い返してよ」
「嫌」
フーティアは思わず笑ってしまった。
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二人は客室の扉の前まで戻ってきた。
エミールとエドワードは、ここまで二人を送ってくれた。
フーティナを部屋に連れて入ったあと、フーティアは再び外へ戻ってきた。
「お二人とも、ありがとうございました」
エミールは笑って手を振った。
「いえ、大したことじゃありませんよ」
「それでは、俺たちはこれで」
エドワードはうなずいた。
二人は背を向け、立ち去ろうとした。
「待ってください!」
二人が足を止める。
振り返ると、フーティアが拳を握りしめて立っていた。
まっすぐにエドワードを見つめている。
「エドワードさん」
「はい?」
フーティアは口を開いたが、どう切り出せばいいのかわからない様子だった。少し間を置いてから、うつむいた。
「あの……今、こんなことを言っていいのかわからないんですけど」
エミールもエドワードも急かさず、静かに待っていた。
「エドワードさん……」
フーティアの肩に力が入った。
「さっきの魔法……見ていて、本当につらくなかったですか?」
エドワードは彼女を見た。
「ご両親のこと、聞きました。それなのに宴会で、私、ずっと魔法を見せて、すごいって言わせようとして……」
彼女はうつむいた。
「以前、魔女が魔法であなたを傷つけて……ごめんなさい」
エドワードは一瞬、意表を突かれた。
「だって……私も魔女だから」
「魔女のせいで傷ついた人を見ると、悲しくなるんです」
「魔法は、人を幸せにするものであるべきだって、ずっと思ってるんです」
フーティアは顔を上げた。
「だから、誰かが魔法で人を傷つけるのを見ると……すごくつらくなるんです」
声はだんだん小さくなっていく。
「ああいうのって、嫌なものに思えたりしませんか?」
エドワードはすぐには答えなかった。
少しだけ彼女に歩み寄る。
「自分を責める必要はありません、フーティアさん」
フーティアははっと顔を上げた。
彼女を見つめるエドワードの顔には、初めて会ったときの敵意はもうなかった。
「あのことが起きたとき、あなたはまだここにいなかった。だから、あなたは悪いことを何もしていません」
フーティアは呆気に取られた。
エドワードは言葉を探すように、うつむいた。
「確かに、俺は魔女が嫌いです」
エドワードはエミールに一度目を向けてから、再び視線を戻した。
「でも、今日は八つ当たりをしてしまいました。お二人には関係のないことです」
「でも――」
「あなたは、俺の妹に少し似ています」
フーティアはきょとんとした。
「え?」
エドワードは少し間を置いた。急にこんな話を持ち出して、自分でも少し気まずいようだった。
「自分は何も悪いことをしていないのに、誰かに迷惑をかけていないかって、いつも気にしてる」
エドワードは頬をかき、小さく笑う。
「今夜の余興は、嫌じゃありませんでした」
フーティアから目をそらした。
「これでいいでしょう?」
「……ありがとうございます」
傍らではエミールが、微笑みながらそのやり取りを見ていた。
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エミールたち二人と別れたあと、フーティアは鼻歌を歌いながら、跳ねるような足取りで客室へ戻る。
部屋の中は、自分の手さえ見えないほど真っ暗だった。
「あれ? さっき明かりをつけたよね?」
壁を手探りしながら、スイッチを探した。
ところが、いくら探しても見つからず、代わりに何か柔らかいものに触れる。
フーティアはびくっとして、数歩後ずさった。
「フーティナ!?」
暗闇の中に、フーティナが立っていた。
その瞳が、暗闇の中でほのかに赤く光っている。
「フーティア」
「ん?」
「馬鹿ね」
「なんでそうなるの?」
「でも……」
フーティナは少し間を置いた。
「まあ、可愛い」
「……褒めてるのか、けなしてるのかわからないよ」
「だから……」
フーティナは彼女を見つめた。
「変わらないで。ずっと、そのままでいて」
「え?」
「私……」
フーティナは目を閉じた。声がだんだん小さくなる。
「好き……」
次の瞬間、フーティナの体から力が抜けた。
フーティアは慌てて受け止めた。
「まったく……」
笑いながら首を振った。
それからフーティナの靴を脱がせ、布団をかけてやった。
すべて済むと、フーティアはベッドの端に腰かけ、静かな寝顔を眺めた。
普段、魔法の絨毯で二人きりのときだって、ふざけ合うことはある。
けれど、知り合ったばかりの大勢の人たちに囲まれて、歌いながら楽しそうに笑う――そんなフーティナを見るのは、本当に初めてだった。
フーティアは思わず口元を緩めた。
「えへへ……」
「何を笑ってるの?」
フーティアはきょとんとした。
いつの間にか、フーティナが片目を開けていた。
「なんだ、まだ起きてたんだ」
フーティナは答えず、手を伸ばしてフーティアの頬を包んだ。
フーティアは一瞬戸惑ったが、抵抗はしなかった。
「今日は……楽しかった」
「うん」
「だから」
フーティアはその手を握った。
「これからも、みんなと仲良くしてね」
「うん」
フーティナは目を閉じたまま、言い返さなかった。
フーティアは笑った。
「これからは、ちょくちょく顔を出しに来られるね」
「捕まって連れてこられたのに」
「でも、気づいたら仲良くなってた――不思議だよね?」
「うん……」
フーティナの声が次第に小さくなり、フーティアはそっとその手を布団の中へ戻した。
「もう寝なよ、フーティナ」
「……うん」
「好き」
「あなたも酔ったの?」
フーティアは首を振った。
もちろん、目を閉じているフーティナには見えない。
「お母さんが教えてくれたんだよ。『おやすみ』の代わりに『好き』って言うと、ぐっすり眠れるんだって」
「科学的根拠はまったくない」
「科学じゃ、魔法だって説明できないんだよ~」
「屁理屈ね」
フーティアはフーティナの額を指で軽く弾くと、自分のベッドへ戻り、すぐに眠りに落ちた。
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もう一方のベッドから聞こえる呼吸が、次第に規則正しくなっていった。
フーティナは目を開け、手を上げて自分の額に触れる。
『フーティア、まだ起きてる?』
返事はなかった。
手を下ろし、しばらく横になったままでいた。
庭からは時折、テーブルや椅子を片づける音が聞こえた。かすかに響いては、また途切れる。
……今夜は、私もはしゃぎすぎた。
今夜の出来事を思い返す。
兵士たちの笑い声、フーティアの歌声、そして、あの馬鹿みたいに無防備な笑顔。
まだくらくらする頭を軽く叩いてみたが、少しも楽にはならなかった。諦めて目を閉じ、そのままゆっくりと眠りに落ちていった。




