01
自棄の最中でも腹は減る。
俺は教会での翌日の夕、マルティナに半ば押し込まれた宿舎の一室を、空腹に負けて出る。
「アル!」
宿舎は当然の事ではあるが閑散としており、食堂も閉まっている。宿舎を使用しているの『卒業保留組』とそのメンバーを抱えるチームだけ。
「…ウーゴ。」
俺は、適当に町へ出て小腹を満たすつもりで2階の部屋を出て、1階まで来たが、共用スペースの談話室で待構えているウーゴに呼止められる。
俺は溜息を吐く。
「…何?」
「段々腹の減る時間かと思って。暫く待って出て来なければ突撃する計画もあったけれど。」
ウーゴはバスケットの中のパンを見せる。
「大通りのパン屋の、食べる?」
間が悪く鳴る腹、俺はウーゴの前に座り、パンを貰って食べる。外はカリカリ、中は温かくモッチリしている。何度も食べた味。2口目、3口目…俺は早々に1個を食べ終える。
「何個でも食べて良いよ。奢る。」
ウーゴは苦笑し、俺は2個目のパンを食べる。
「…アル、正直慰めの言葉も無いよ。」
2個目を食べ終えた所で、ウーゴは切出す。俺は3個目には口を付けず、ウーゴを見る。
「君が誰より射士に固執している事も、その為に努力して来た事も知っている。」
「…結論を言えよ。」
「俺のチームに入って欲しくて。」
ウーゴは俺の声に即座に答えて歯を見せる。
「相変わらずの偽善?」
「俺のチームが『温情組』の集まりである事を否定はしないけれど、別に元々偽善をしているつもりは無いよ。」
ウーゴは涼しい表情で答える。
「前もアルには話した通り、俺は一緒に冒険、旅をしてくれる友人、仲間を求めている。アル、良ければ一緒に…。」
「ウーゴ、パンの事は感謝する。でも、嘲笑しに来ているのであれば帰れ。」
「アル、別に俺は…。」
「俺は射士が出来ないんだぞ!」
俺は机を叩いてウーゴを凝視する。
ウーゴも涼しげな表情も少し変化する。
「俺は射士に憧れて、訓練もして、養成学校にも入って、教官にも認められて、あのツェーザルのチームに誘われて…それで、それで!」
「理解しているよ。そしてアルもその事実を理解出来ているのであれば尚、良い。」
ウーゴは少し声のトーンを下げて俺に告げる。
「アル、君は射士を諦めるしか無い。」
「知っているよ!神父にも言われて…。」
「でも…冒険者まで諦めなくて良いでしょ?」
ウーゴは諭すように俺に告げる。
「アルが以前教えてくれた射士を、冒険者を目指す理由、その全ては叶わなくなってしまったけれど、全てを諦める事は無いよ。」
「…ウーゴ。」
「…では、今日はこれで失礼するよ。俺のチームは『温情組』の追試が終わるまで暫く宿舎に居るし、気が向けば声を掛けて。」
ウーゴはバスケットを置いて2階へ消えて行く。
「…でも、俺は射士になりたかったよ。」
バスケットには温もりのあるパン…俺は残りのパンには口を付けず、部屋へ戻った。




