10
「…ル、アル!」
翌朝、俺は扉を叩くクラウスの声で目を覚ます。
「…クラウス、まだ朝だぞ。」
俺は瞼を擦り、扉を開ける。クラウスの顔は青白く汗を掻いている。
「…クラウス?」
「朝、ポロの様子を見に行って、それで…扉が開けっぱなしで中には居なくて…剣も無くて。」
「ウーゴには?」
「伝えたよ。装備を整えておけって。」
「…あの馬鹿野郎。」
「僕も準備して来るよ。談話室で。」
クラウスが走って出て行く。俺は服を着替えて装備を整える。談話室に下りると丁度ウーゴが戻って来た。軽装で済むエリシアとパメラも来ている。エリシアは髪を結って誤魔化しているが、ショートボブのパメラは寝癖が目立っている。
「行くぞ。」
ウーゴが声を掛ける。俺等は宿舎を飛出してシエラの町と森を隔てる門へと急ぐ。
「…ポロ、大丈夫かな?」
「今は考えずに進むぞ。」
「ウーゴ、最悪俺を餌にしてゴブリンを退け、その間にポロを探してくれ。俺は町まで逃げる。」
「…その時は頼む。」
俺とウーゴは作戦を練る。
「おぉ、ウーゴ、アル!丁度良かったよ。」
その緊張の糸は、門の前に意図せず切れる。
緊張感無く声を掛けて来るのは森帰りのカミロとカミロのチーム一行。その背後にはボロボロだが、1人で歩けているポロ。ポロは俺等を見つけて、気不味そうにしている。
「森で無茶しているのを見つけて、取り敢えず拾っておいたよ。」
「カミロ先輩、感謝します。」
俺はカミロに頭を下げる。ウーゴは無言のまま、カミロの横を通り抜けてカミロの背後にいるポロを殴り付けた。ポロは不意を打たれて地面に倒れ、その後何事かと驚いてウーゴを見上げた。
「ウーゴ!」
「ポロ、2度目は無いぞ。お前の命はお前だけのものでは無く俺等チームのものでもある。命張る場所間違えるなよ。」
ウーゴはそこまで言ってカミロ一行へ振り返る。
「リーダーのウーゴです。私のチームの人間が、御迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。救出までして頂いて感謝申し上げます。」
ウーゴはそう言って深々と頭を下げる。
「ウーゴ、俺等も偶然見つけただけで、手間でも何でも無かったし、そこまで改まって謝罪しなくても良いよ。ポロ君も無事で何より。」
カミロは逆に恐縮する。
「ウーゴ、今日会ったのも何かの縁だし、チーム同士での交流って事で昼酒でも。場所は勿論アントニオの定食屋で。ポロ君も必ず来るんだよ。」
カミロはそう言って去って行く。
残るは俺等、そして地面に倒れているポロ。
「…悔しくねぇのかよ。」
静寂の後、ポロが口を開く。
「俺等はアルが居ねぇと戦えねぇ。前衛3人でゴブリン退治も出来ねぇ。クラウス、お前は同じ戦士として悔しくねぇのかよ。」
「それは…勿論悔しいし、皆にもアルにも、申し訳無く思っているよ。でも…。」
「ポロ、努力する事と無茶する事は違うぞ。死ねば終わる。ゴブリンも倒せなくて悔しいのは理解出来るし、それは俺も同じだが、それで死ねば何も残せないぞ。俺はこのチームが大事だし、誰も失いたくない。」
ウーゴはポロに告げ、ポロは項垂れる。
「クラウス、エリシア。悪いけれどポロの手当てを頼む。後は各自身なりを整えて、昼前に談話室で合流して、アントニオの定食屋へ行こう。」
ウーゴはそう言うと1人、先に去って行く。俺はクラウスと目配せをして、ウーゴを追った。
「らしい事したな。」
「馬鹿言え、らしく無い事だ。」
ウーゴは俺の冗談に苦笑し、溜息を吐く。
「…安眠妨害と時間外労働で腹減ったな。」
「…奢るよ。」
ウーゴは再度苦笑して、俺等は遅めの朝食を食べに町の大通りへ歩くのであった。




