第3話:おじいちゃんの散歩道と、怪しい黒い土
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弟子(?)となったリリアに連れられ、いよいよ異世界のフィールドへ足を踏み出す健一おじいちゃん。
チート能力なしのリアルな70歳は、無事に薬草採取へ辿り着けるのでしょうか……!
「師匠、大丈夫? 足元気をつけてね!」
「あ、ああ……大丈夫だ……ふぅ、ふぅ……」
リリアに手を引かれ、俺は村の外へと続く緩やかな坂道を登っていた。
徒歩わずか10分ほどの距離だというのに、俺の心臓は早鐘のように打ち鳴らされている。おまけに右膝が「ギシ……ギシ……」と嫌な悲鳴を上げていた。
(くそっ……! 若返りなしの代償が大きすぎる……! 地球にいた時より体力が落ちてないかこれ……!?)
視界に広がるのは、ファンタジー小説で見たような美しい森林だ。
巨木が立ち並び、木漏れ日が紫がかった幻想的な光となって降り注いでいる。
空気が澄んでいて清々しいのは救いだが、70歳の老体にとって未舗装の山道はただのアスレチックでしかない。
「あ、ここだよ! ここが村のポックリ草採取場!」
息を切らす俺の前で、リリアが足を止めた。
そこは大きな樹木の陰になった、湿り気のあるくぼ地だった。
日陰の中に、青白い茎と細長い葉を持った植物――ポックリ草がひっそりと群生している。
「うーむ……なるほどな」
俺は呼吸を整え、腰に手を当てながらその群落を観察した。
膝を折ってしゃがみ込む。手が届く範囲の土を少し掬い上げ、指先で揉み込んで感触を確かめ、匂いを嗅いだ。
「師匠……? 土を食べてるわけじゃないよね?」
「食べるわけなかろう。土壌のチェックだ。……ふむ、やっぱりな」
土はねっとりと手につく粘土質で、かなり水気を溜め込んでいる。
「リリアさん。ここのポックリ草、葉の先端が少し黄色くなっているだろう?」
「えっ? あ、本当だ……言われてみれば、なんだか元気がないかも」
「根腐れの初期症状だな。水はけが悪すぎるんだ。いくら湿気を好む植物だからといって、根っこが常にドロドロの水に浸かっていちゃ呼吸ができない。だから根が育たず、ポックリ草の効能も半減してしまう」
「そ、そんな……! じゃあ、どうすればいいの!?」
焦るリリアに対し、俺は立ち上がって周囲の地形を見渡した。
少し離れた場所にある緩やかな斜面を指さす。
そこは大きな木々の合間から、ほどよく東の光が差し込む場所だった。
「あの斜面に、ポックリ草を移植する」
「えっ!? あの斜面、土が全然ちがうよ? 枯れ葉がいっぱいたまってて、なんだかフカフカしてるし……」
「それがいいんじゃないか。あれは『腐葉土』だ」
俺は痛む腰を庇いながら斜面へ近づき、落ち葉の層を掘り返してみせた。
中から出てきたのは、しっとりと黒く熟成された、香ばしい土の香りがするフカフカの土壌だ。
「落ち葉が長い年月をかけて微生物に分解され、最高の土になった証拠だ。保水性も排水性も抜群、栄養も満点。ここに畝を作ってポックリ草を植え替えれば、根は今の倍以上に太くなるぞ」
「微生物……? うね……? 聞いたことない言葉ばかりだけど、なんだかすごそう……!」
リリアの瞳が尊敬の眼差しで輝く。
ただの定年後の趣味だった家庭菜園知識が、異世界でここまで重宝されるとは。人生、何が役に立つか分からないものだ。
「よし。じゃあリリアさん、まずは移植の準備として、あの斜面の雑草抜きから始めるとしようか」
「はいっ、健一師匠!」
元気に返事をして作業に取りかかろうとするリリアを見ながら、俺はふっと微笑んだ。
(さて……腰を痛めない程度に、のんびり指導するとしようかね)
第3話をお読みいただきありがとうございました!
ついに始まったポックリ草の栽培改革! 地球の腐葉土知識は異世界の薬場を救うことができるのか……!?




