第19話:おじいちゃんのケチャップと、小さな商人
第19話をお読みいただきありがとうございます!
特製トマトポトフで村人の胃袋を掴んだ健一おじいちゃん。
今回は、トマトの「副産物」を使って、異世界の保存食作りに挑戦します!
「健一おじいさん、トマトがまだまだたくさんあるよ! このままだと傷んじゃうかも……」
畑から戻ったリリアが、困り顔で大きなカゴを抱えてきた。
「緑の指」の効果が凄まじいおかげで、トマトの収穫量は増える一方だ。
毎日ポトフにするのも贅沢だが、70年を生きてきた元・農家としては、作物を無駄にするわけにはいかない。
「ふむ……ならば『保存食』に加工するとしようかね」
「ほぞんしょく? トマトを干すの?」
「干すのも良いが、もっと使い勝手のいいものを作るよ。我が家特製の『トマトケチャップ』だ」
俺は裏庭の薪に火をくべ、大鍋を準備した。
熟したトマトを細かく刻んで鍋に放り込み、じっくりと煮詰めていく。
水分が飛んでペースト状になってきたところで、裏ごしして皮と種を取り除き、塩、砂糖(に似た甘味草の粉)、酢、そして香草を加える。
焦げ付かないように木べらで静かに混ぜ続けること一時間。
香ばしい甘酸っぱい香りが部屋中に充満し、鍋の中には深みのある艶やかな赤色のソースが完成した。
「できた。これを熱いうちに清潔な壺に入れて密閉すれば、冬までもつ貴重な保存食になる」
「すごい……! トマトがこんなにトロトロのソースになっちゃうんだ!」
リリアがスプーンの先に少しだけつけてペロリと舐める。
「ん~っ! 甘くて酸っぱくて、すっごく濃い! これ、お肉に塗って焼いたら絶対美味しいよ!」
「おやおや、リリアさんもすっかり料理のセンスがついてきたな」
俺たちがほっこりと笑い合っていると、村の入口の方からガラガラと馬車の輪っかの音が聞こえてきた。
「ヘルメス様ー! 行商人のオズワルドが買い付けに来ましたよー!」
トールの声に外へ出てみると、立派な荷馬車の横に、肥えた体格の商人が立っていた。
「やあやあヘルメス殿、今月も上質な薬草を……む? なんですなこの芳醇な香りは!?」
オズワルドと名乗った小太りの商人は、俺の煮立てたケチャップの香りに引き寄せられるように、鼻をひくつかせて寄ってきた。
「オズワルドか。こちらは我が村の『知恵者』、健一殿じゃ。このソースも健一殿が作ったものでな」
「ほう……? この赤いソースは一体……」
オズワルドは俺の許可を得て、指先に少しケチャップをつけて舐めた。
次の瞬間、彼の小さな目が限界まで見開かれた。
「――っ!! な、なんだこの濃厚な旨味は……!? 酢の酸味と甘みが絶妙に調和し、肉やパンの味覚を爆発させる究極の調味料ではないですか!!」
商人としての鋭い嗅覚が働いたのか、オズワルドは俺の手をガシッと両手で握りしめてきた。
「健一様! このソース、我が商会に売っていただけませんか!? 金貨……いや、お望みの金貨をお支払いします!!」
「おっとっと……商売人さん、急かしちゃ困るよ」
俺は苦笑いしながら、温かい茶を一口啜った。
70歳の家庭菜園と手作りケチャップが、どうやら異世界の経済まで動かしてしまうことになりそうだ。
第19話をお読みいただきありがとうございました!
大量収穫したトマトで作った特製ケチャップ!
行商人のオズワルドに見つかり、思わぬ商談(?)へと発展していきます!




