第17話:おじいちゃんの新芽と、地球の懐かしい味
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「種皮削り」を施し、ぬるま湯で一晩寝かせた謎の黒い種。
いよいよ畑に植え付けたおじいちゃんですが、その成長速度は地球の常識を遥かに超えていました……!
「発芽した……! 本当に一晩で芽が出おったぞ……!!」
翌朝、畑に駆けつけたヘルメスの叫び声が『静寂の森』に響き渡った。
俺が杖をつきながらゆっくり追いつくと、昨日の畝の真ん中から、黄緑色の小さな双葉がひょっこりと顔を出していた。
カチカチだった黒い殻を押し破り、朝日を浴びて気持ちよさそうに葉を広げている。
「おお、可愛らしい芽が出たな」
「可愛らしいどころの話ではないぞ健一殿! 数百年もの間、誰一人として芽吹かせることができなかった『龍の落とし物』じゃぞ!? これが王都に知られたら大騒ぎに……」
「まあまあヘルメスさん、落ち着きなされ。まずはしっかり育つか見守るのが先決ですよ」
俺は苦笑いしながら、持参したジョウロで優しく水をやった。
すると、俺の「緑の指」の力と、腐葉土の豊かな栄養が合わさったためか――双葉は『ぐぐぐ……』と音を立てるような猛猛しい勢いで茎を伸ばし始めたのだ。
「ええっ!? 伸びてる! 目に見える速さで伸びてるよ、健一師匠!」
リリアが目を丸くする。
見る見るうちに茎は太く育ち、蔓を巻き伸ばし、手のひらほどもある大きな葉を幾重にも茂らせていった。
そして夕方になる頃には、黄色い小さな花を咲かせ、小さな青い果実を実らせたのである。
「一足飛びどころの生長速度じゃないな……異世界の植物はたくましいわい」
数日後。青かった果実は丸々と大きく実り、綺麗な「鮮やかな赤色」へと変化した。
その見た目は、どこからどう見ても――地球で俺が愛してやまなかった、あの野菜だった。
「これは……トマトだな」
「ト、トマト……? 食べられるのか、健一殿?」
「ああ、素晴らしいごちそうだ」
俺は真っ赤に熟した実をひとつ摘み取り、川の水で洗ってからガブリとかじりついた。
――ジュワッ!!
強い甘みと、程よい酸味。濃厚な果汁が口いっぱいに広がる。
異世界に来てから肉とスープばかりだった俺の体に、瑞々しい野菜の旨味が染み渡っていく。
「う、美味い……! 懐かしいなぁ……」
思わず目頭が熱くなった。地球で毎朝、庭から採りたてを洗って食べていたあのトマトの味そのものだ。いや、この世界の豊かな魔力を吸っている分、地球のものより遥かに濃密で美味い。
「リリアさん、ヘルメスさん、食べてごらんなさい」
ふたりに切り分けたトマトを渡すと、恐る恐る口に運んだふたりは、次の瞬間に目を大きく見開いた。
「なにこれ……! 甘くて、すっごくジューシー! こんな美味しい果物、食べたことないよ!」
「うま……っ!? 酸味と甘みのバランスが絶妙じゃ……! それに、体の中から元気が湧いてくるような……!」
ヘルメスは夢中で二切れ目にかじりついている。
「ふふふ、これは『野菜』ですよ。もっとたくさん育てて、村のみんなにも分けてあげるとしようかね」
地球の懐かしい味と再会し、俺の異世界家庭菜園はまたひとつ、大きな実りを迎えたのだった。
第17話をお読みいただきありがとうございました!
謎の種「龍の落とし物」の正体は、なんと真っ赤で美味しいトマト!
栄養満点のトマト収穫で、おじいちゃんたちの食卓がさらに豊かになります。




