第12話:おじいちゃんと、お腹を空かせた珍客
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極上の露天風呂と風呂上がりのジュースで心身ともにリフレッシュした健一おじいちゃん。
村へ戻ると、何やら怪しげな「人影」が彼らを待ち受けていました……!
「はー、さっぱりしたわい」
湯治を終え、すっかり腰の軽くなった俺は、トールたちの押すリヤカーの上で風を感じていた。
行きは重病人のように運ばれていた俺だが、帰りは背筋をピンと伸ばし、王様の巡幸のような余裕の表情である。
「健一の頭領、本当に腰が良くなったみたいでなによりですぜ!」
「ああ、トールさんたちのおかげだ。また定期的にあの『露天風呂』に通いたいもんじゃな」
ヘルメスもすっかり温泉の虜になったらしく、「あの効能は本物に論文として書くべきじゃ」などとぶつぶつ呟いている。
エルフの頑固おやじも、一度ほぐれてしまえば可愛いものだ。
そんな和やかな雰囲気の中、村の入口が見えてきた時のことだった。
「……ん? 健一師匠、薬調合室の前に誰か倒れてる……!?」
リリアが声を張り上げた。
見れば、俺たちが留守にしていた調合室の軒下に、ボロ布のようなマントを羽織った小さな影がピクリとも動かずに倒れ込んでいる。
「な、なんだ!? 敵か!?」
トールが警戒して腰の斧に手をやる。俺たちは慎重にその影へと近づいた。
マントの間から覗いていたのは、小さな犬のような丸い耳と、ふさふさとした尻尾――獣人の子供だった。薄汚れた銀色の毛並みが、力なく地面に伏せている。
「待ちなさい、トールさん。争う気はなさそうだ」
俺はリリアに手伝ってもらいながらリヤカーを降り、膝をついて獣人の子に手を当てた。
首筋の脈を見る。……脈は弱いが、打っている。怪我はない。ただ、腹の底から「ぐぅぅぅぅ……」と、情けない大きな音が響いた。
「……腹が減っておるだけだな」
「なんだ、倒れるほどお腹が空いてたのか……」
リリアがホッとしたように胸をなでおろす。
俺は腰の巾着から、来る途中にリリアが作ってくれた「干し肉と穀物の焼き餅」を取り出した。
少し硬いが、素朴で腹持ちのいい非常食だ。それを一口大にちぎり、ぬるま湯でふやかして子の口元へ運んでやる。
「ほら……少しずつ噛んで飲み込みなさい」
匂いに反応したのか、獣人の子はうっすらと目を開けた。
金色に輝く大きな瞳が、俺の皺だらけの顔を捉える。
子はハッと息を呑むと、がっつくように俺の手から焼き餅を食み破った。
「ゆっくりだ、急ぐと喉を詰まらせるぞ」
俺が背中をやさしく擦ってやると、子は涙をポロポロと零しながら、むしゃむしゃと食べ進めた。
70年も生きていると、こういうお腹を空かせた子供を見ると放っておけなくなる。地球にいた頃の孫の幼少期と重なって見えたのだ。
「う……うまい……じいちゃん、これ……すごくうまい……!」
喉を鳴らしながら一気に食べ終えた子は、袖で鼻水を拭うと、ペコリと深く頭を下げた。
「助けてくれてありがとう、人間のおじいちゃん! おいら、隣の『獣人族の集落』から来たルークっていうんだ! 集落の畑が全滅しちゃって……食べ物を分けてもらいに走ってきたんだけど、力尽きちゃって……」
「畑が全滅……?」
ヘルメスが眉をひそめる。
「ふむ……一体何があったんだい、ルークくん」
俺がやさしく問いかけると、ルークは悲しそうに垂れた耳をさらに伏せながら言った。
「変な『白いカビ』みたいなのが急に生えて……葉っぱがみんな腐っちゃったんだ……! お願いおじいちゃん、おいらたちの集落を助けて……!」
白いカビ。葉が腐る。
(ふむ……地球でいう『うどんこ病』か、あるいは『疫病』の類いか……?)
俺の頭の中で、70年分の家庭菜園と農業知識の引き出しが、再びカチャリと音を立てて開いた。
「よしよし、泣かんでいい。……おじいちゃんが、その畑を見てあげようじゃないか」
70歳の知恵袋無双は、どうやらエルフの村を飛び出し、お隣の獣人族のピンチまで救うことになりそうだ。
第12話をお読みいただきありがとうございました!
温泉帰りに遭遇したのは、お腹を空かせた獣人の少年・ルーク!
集落の畑を襲う「謎の白いカビ」の正体とは……!?
おじいちゃんの農業知識が、今度は獣人族のピンチを救う!?




