第10話:おじいちゃんの湯治と、異世界の露天風呂
第10話をお読みいただきありがとうございます!
慢性の腰痛を癒やすため、特製リヤカーに揺られて山奥の湯(霊泉)を目指す健一おじいちゃん。
地球の「温泉文化」と異世界の「霊泉」が合わさった時、新たなお楽しみが生まれます!
ガタゴトと揺れるリヤカーに揺られること数時間。
硫黄の独特な匂いが風に乗って漂ってきた頃、俺たちは目的地である「硫黄の谷」へと到着した。
「着いたよ、健一師匠! ここが霊泉の湧き出ている場所だよ!」
リリアの声に重い瞼を開けると、そこには岩肌の間から白い湯気をモクモクと立ち上らせる、見事な源泉が広がっていた。湯量は豊富で、岩場に溜まったお湯はほんのり乳白色に濁っている。
「おお……これは素晴らしい……まさに天然の露天風呂じゃないか」
「ろてんぶろ……? 健一殿、霊泉は身を清める聖なる場所じゃぞ。入るなどと……」
ヘルメスが眉をひそめるが、俺はもう限界だった。
トールたちに抱えられ、着ているものを脱ぎ捨てると、吸い寄せられるように湯船――岩場の溜まり湯へと足を浸した。
「熱ッ……いや、ちょうどいい塩梅だ……」
ゆっくりと肩まで湯に浸かる。
「……ふぅぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
自分でも聞いたことがないような、情けない和みの声が漏れた。
じわじわと温かさが皮膚を透過し、凝り固まった腰と膝の奥深くまで染み渡っていく。
血行が一気に良くなり、カチコチだった筋肉が解けていくのがはっきりと分かった。
「はーっ……生き返る……。やっぱり日本人は……いや、爺さんは温泉に限るな……」
「健一殿、そんなに気持ちが良いものなのか……?」
俺があまりにも幸福そうな顔をしていたからか、ヘルメス恐る恐る靴を脱ぎ、湯に足を浸した。
「熱っ!? ……む? ……おお……おおお!?」
最初は驚いていたヘルメスだったが、足先から温もりが広がると、一気に顔の力が抜けていった。
そのまま吸い込まれるように肩まで浸かり、俺と同じように「ふはぁ……」と深いため息を漏らした。
「な、なんじゃこれは……身体の重みが消えていく……! 膝の痛みが嘘のように和らぐぞ……!」
「そうでしょう、ヘルメスさん。ただ足を浸すだけじゃ勿体ない。全身で湯に浸かって、血の巡りを良くする……これが『湯治』という最高の養生法ですよ」
「湯治……! 素晴らしい! 単なる聖水観察ではなく、湯に入ること自体が最高の薬だったとは……!」
ヘルメスは感激のあまり、湯の中で目を輝かせている。
「トールさんたちも入りなさい。肩こりや疲労回復に劇的に効くぞ」
「えっ、俺たちも入っていいのか!? よっしゃー!」
若い衆も次々と湯に入り、谷間には男たちの歓声と「あ~っ」という満足気な声が響き渡った。
(ふぅ……魔法やチートがなくても、温かいお湯と仲間がいれば、それだけで十分幸せだな)
俺は湯船の縁に頭を預け、紫色がかった異世界の空を見上げた。
腰の痛みもすっかり引いて、なんだか明日からも元気に生きていけそうな気がしてくる。
70歳のおじいちゃんの異世界スローライフ。
まだまだ、捨てたもんじゃない。
第10話をお読みいただきありがとうございました!
無事に温泉(霊泉)に辿り着き、慢性の腰痛を癒やすことができた健一おじいちゃん。
異世界に「湯治文化」を広める第一歩となったようです!




